
[111枚目]●サー・ジョー・クオーターマン&フリー・ソウル『サー・ジョー・クオーターマン&フリー・ソウル』<Pヴァイン>(94)
※本文を書くに当たり平野孝則さんのライナーノーツを大いに参考にしています。
オリジナルは73年に<GSF>レコードからリリースされている。<GSF>は映画会社が母体。71年~75年まで存在した。リストを見るとエディ・ホールマン、ガーネット・ミムズ、ロイド・プライス、ウィンフィールド・パーカー、ジャッキー・ロス、ホワットノウツ、ドロシー・ムーア、コニー・フランシスなどの名前が並んでいる。
アルバムのプロデューサーは、クオーターマンの他にビル・テイトとコッター・ウェルズのふたり。ビルはメリーランド州シルバースプリングで71年<トラック・レコーダーズ>というレコーディング・スタジオを設立した人物。本アルバムもほとんど<トラック・レコーダーズ>で録音。例外は(4)(5)で<マッスルショールズ・スタジオ>を利用しているとの事だがクオーターマンのインタビューによれば(4)は使用しなかったと言っている。しかし、アルバムにはリズムパートだけは<マッスルショールズ・スタジオ>で収録と記されている。(10)~(13)はシングルのみでリリースされたボーナストラックである。尚、2007年に日本の<クリンク>から出されたCD(CRCD-3059)には全18曲収録されている。
プロデューサーの3人は(1)~(3)(5)~(8)のアレンジャーでもある。尚、(4)のホーン&ストリングスのアレンジャーにトニー・カミロの名前がある。彼は<モータウン>や<インヴィクタス><ホットワックス>で活動している。フリー・ソウルのメンバーは、ヴォーカルとトランペットがクオーターマン、ベースがグレゴリー・C・ハモンズ、ドラムスがアレン・スチュワート、ギターがジョージ・R・リーとウィリー・パーカー・ジュニア、キーボードがカリッサ・フリーマン、サックスがレオン・ロジャーズとなっている。また、クオーターマンのインタビューではドラムスがアレンではなくチャールズ・ステップトゥー、トロンボーンとしてジョニー・フリーマンの名前を上げている。その他discogsによれば、ギターのR・リーは86年にアルバム『Free & Easy』を発表したマイナー・ブラコン・グループのチョイス・リユニオンに所属している。また、サックスのロジャースはフリー・ソウル前にゴセッツ、フリー・ソウル後にサルヴェイション・エア・フォースというバンドに所属しているそうだ。フリー・ソウルは、69年かもしくは70年の結成以来ワシントンDCで活動し、後にゴーゴー・サウンドの旗手となったチャック・ブラウン&ソウル・サーチャーズともしのぎを削っていた。子供が描いたようなアルバム・ジャケットの絵は、クオーターマンがアートワークを依頼する際にイメージとして描いたものがそのまま採用されたとの事。これもまたファンキーなアイデアである。
サー・ジョー・クオーターマンは、子供時代は教会の聖歌隊で歌い、高校生になってからコーラス・グループを結成。高校時代から「サー」と呼ばれていたそうだ。やがて、トランペットを覚えた事でジャズやファンクに傾倒していった。フリー・ソウル結成前は複数のバンドを経てエルコロルズというバンドに所属し、ツアーでワシントンDCを訪れるスティーヴィー・ワンダー、レイ・チャールズ、オーティス・レディング、カーティス・メイフィールド、リトル・リチャードなど数多くのミュージシャンのバックを務めている。72年に地元レーベルの<マンティス>から「(I've Got) So Much Trouble In My Mind」をリリース、R&Bチャート30位のヒットとなっている。クオーターマンはインタビューで、影響を受けたミュージシャンにジェイムズ・ブラウン、スライ・ストーン、シカゴの名前を上げている。
1. (I Got) So Much Trouble In My Mind
JB風のサウンドに乗って、ギターのカッティング、ドラムのビート、ホーンセクションのタイミング、中盤のギターソロと聴かせどころがふんだんにある。カミソリのようなキレの良さを見せる部分もあれば、それとバランスを取るように重量感を見せる部分もある。
2. I Made A Promise
Pファンク風の曲調。スラッピンベースやゆらぐキーボード、終盤のギター・カッティングなど魅力的である
3. The Trouble With Trouble
(4)(7)と合わせカーティス・メイフィールド感が平野さんに指摘されている。私としてはサウンドの余韻を上手く使っているなと感じるぐらい。
4. The Way They Do My Life
踊り出さずにはいられないリズム。ベースのリフが基本になっている。ストリングスの使い方もナイス。(5)と共にシングル化。スチャダラパーがサンプリングしているらしい。
5. Find Yourself
タイトルを歌ってコーラスが応えるのが主な流れとなり乗りにつながっている。2017年にラップやゴーゴーをリリースしている<アル&ザ・キッド>から出されているシングルはヴァージョンが違い荒々しい。フリップサイドは「No Time For Dreaming」という曲で70年の録音らしい。
6. Gonna Get Me A Friend
Pファンク系のリズム。コーラスも楽器の一部となっているようなキレの良さがあり、太いベースはボディブローのように効いてくる。
7. Give Me Back My Freedom
ベースのうごめき、ギターのカッティング、ドラムの独特の入りで、ゆったり気味だが乗りが生まれているファンキー・ソウル。
8. I Feel Like This
サイケデリックとまではいかないが、SEやヴォーカルも含めて「音の効果」に気を使った作品である。
9. Live Now Brothers
オリジナルアルバムではラストの曲。サザンソウルの感覚もあるが都会的な展開も見せる。雰囲気のあるサックスソロなどが入る。
10. This Girl Of Mine (She’s Good To Me)
73年に(8)と共にシングル化。グリッティさとクールさの中間をいくひたすら黒いサウンドだ。
11. Thanks Dad
シングルの表裏でPart1とPart2に分けて思う存分ファンクしている。
12. I'm Gonna Get You
74年のシングル。(13)が裏面。明るく開放的なサウンド。細かい所にJBを感じる。クオーターマンの歌声はテンダーな味わいがあるのでこの手の曲も似合う。
13. No
YouTubeで拾えず。サウンドに色々と工夫が為されておりユニークな曲となっている。(12)(13)のシングル盤は、王道的ではないが面白い取り合わせだと思う。
サー・ジョー・クオーターマンは本アルバムを出した後、ソロ・ミュージシャンとしての契約を数社から打診されたが、グループでなければダメだと拒否した。サー・ジョー・クオーターマン&フリー・ソウルが、切り離すことが出来ない一体感を保持している事はアルバムを通して聴けばよくわかる。自分自身の音楽家としての道より、仲間と作り出すサウンドを選んだクオーターマンは仲間思いと言うだけでなく、よりレベルの高い音楽を目指した人物だったのだろう。それだけにアルバムが1枚に終わったのは残念である。ちなみに2014年に来日し、オーサカ=モノレールと共演している。これもまた納得のいく出会いだったのだろう。


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