

[113枚目]●ヴェスタ・ウィリアムス『ヴェスタ』<A&M>(86)
※本文を書くに当たり、吉岡正晴さんのライナーノーツを大いに参考にしています。
オリジナル盤は10曲だが、私が持っている日本盤は(11)がボーナストラックとして加わっている。プロデューサー、ライター、参加ミュージシャンについては細かくなるので曲紹介の部分で記載する。R&Bアルバム・チャート43位の成績だ。『ビルボード』誌によれば87年にかけての売り上げ枚数は42万枚だったが、1年以上アルバム・チャートには残り続けた。
ヴェスタ・ウィリアムスは、1957年生まれで私と同じである。なんとなく親近感がわくが、残念な事に2011年53歳の若さで亡くなっている(薬物の過剰摂取の可能性があるらしい)。生地はオハイオ州コショクトンで地元初のディスクジョッキーの父親とダンサーの母親の間に生まれた。ロスアンゼルスに移り住んで姉妹と「ウィリアムス・シスターズ」と名乗り活動したり、同地のTV番組にシンガーとして出演していた。後にオハイオに戻り、元フィフス・ディメンションのメンバーでヴェスタのいとこであるロン・タウンゼントのグループ「ワイルド・ハニー」に所属したり、CMソングを歌ったり、グラディス・ナイト、チャカ・カーン、ステファニー・ミルズの録音時やライブ時にバックシンガーとして参加していた。80年代初頭、チャカ・カーンのライブ終了後にジョー・サンプルを通じてプロデューサーのデヴィッド・クロフォードと出会う。デヴィッドはデモテープをプロデュースしてレコード会社への売り込みを手助けし、結果的に<A&M>と契約できた。本盤に関係した複数のプロデューサーの中にデヴィッドの名前もある。ちなみに彼はジャッキー・ムーア「Precious, Precious」のコンポーザー兼プロデューサーやキャンディ・ステイトン『Young Hearts Run Free』のプロデューサーなどを務めている。
1. Vesta Williams - Something About You
ジャネット・ジャクソンを思わせるようなサウンドの中、チャカ・カーン似のヴェスタのヴォーカルが漂っている感じだ。どうしてもサウンド主体とならざるを得ない。プロデューサーはビリー・ヴァレンタインとブライアン・ローレン。ビリーは70年代半ばヤング・ホルト・アンリミテッドで歌手として活躍。ブライアンは幼い頃から音楽活動をしており、12歳で作曲、15歳でプロとしてセッション・ミュージシャンを務め17歳の時にレコーディング契約を結んでいる。ファット・ラリーズ・バンドが最初に所属したバンドだった。当曲もブライアンが作りバック・ヴォーカルにもヴェスタ自身と共に名を連ねている。また、インストゥルメンタル全般も彼が担当だ。尚(2)(3)(5)もバック・ヴォーカル以外このパターンである。リミックスとダブ・ヴァージョンを組み合わせたシングルがリリースされている。
2. Vesta Williams - Sweet Thang
ヴェスタ、ブライアン、ビリーの3人でバック・ヴォーカルを実施。 さらにテンポアップしたサウンドでアルバムの雰囲気を盛り上げている。
3. Vesta Williams - Don't Blow A Good Thing
この曲辺りはヴェスタの歌唱力も楽しめる。シャウトはかなりチャカに近い。バッキング・ヴォーカルはヴェスタオンリーだが、リードへの絡み方など、さすが鍛え上げているだけあってキマっている。 12インチあり。
4. Vesta Williams - Get Out Of My Life
作詞作曲がブライアンとタミー・メゲット。ビリーとブライアンとタミーがバック・ヴォーカル。エクステンデッド・ヴァージョンをA面、ダブ・ヴァージョン、アカペラ・ヴァージョンをB面としたシングルあり。ヴェスタのヴォーカルの力感がよく伝わる。
5. Vesta Williams - I Can Make Your Dreams Come True
サウンドがさほど全面に出ている感じはない。キープされているリズムにヴェスタがよく乗っている。バック・ヴォーカルがブライアンとヴェスタ。
6. Vesta Williams - My Heart Is Yours
曲作りがビリーとブライアン。バック・ヴォーカルがビリーとブライアンに加えてアレックス・ブラウンとジョン・ヴァレンタイン(ビリーの兄でヴァレンタイン・ブラザーズのひとり)。アレックスはアニタ・ベイカーのヒット曲「Just Because」の共同作者。タイトルのリフレインがキャッチーである。
7. Vesta Williams - You Make Me Want To (Love Again)
正統なR&Bで、ヴェスタは情感たっぷりに歌い上げている。ビリーとブライアンのプロデュースで、コンポーザー・コンビはビリーとリオン・ウェア。バック・ヴォーカルがビリーのみ。ストリングス・アレンジがブライアンとジェレミー・ラボック。ジェレミーはイギリス生まれで、77年に家族とロサンゼルスに移住。 ジョニ・ミッチェルの『Mingus』などに参加し、マイケル・ジャクソン「Billie Jean」の指揮とアレンジも担当している。
8. Vesta Williams - It's You
プロデュースがビリー&ブライアンにジェレミーが加わっている。ジェレミーはこの曲でもストリングス・アレンジを担当。曲はリオン・ウェアが書いている。ベースがネイザン・イースト、ドラムはルーファス&チャカ・カーンのジョン・ロビンソン、キーボードがランディ・ウォルドマン、バック・ヴォーカルがビリーとアレックス・ブラウン、 マーヴァ・バーンズとなっている。聴き応えのある歌唱をここでも聴かせている。
9. Vesta Williams - Don't Let Me Down
キュートな魅力が際立つ曲。プロデューサーはデヴィッド・クロフォード、曲作りはヴェスタとルイス・ラッセル、アレンジがデヴィッドとヴェスタ。演奏陣はシンセベースがブライアン、デジタルドラム(リンドラム)がクレイグ・クーパー、ギターがチャールズ・フィアリング、キーボードがジェイムズ・マッキニー、パーカッションがエリック・マッケイン、マザーズ・オブ・インベンションのメンバーにも名を連ねていたイアン・アンダーウッドがシンセサイザーを担当している。バッキング・ヴォーカルはヴェスタのみ。映画『ソウル・マン』のサウンドトラック・アルバムに入っておりドイツ盤の『Vesta』にも収録されている「Suddenly It's Magic」と一緒にシングル化されている。
10. Vesta Williams - Once Bitten Twice Shy
こちらもプロデュースとアレンジは(9)と同じ。曲作りはヴェスタとディーン・ギャント。リンドラムとギターとシンセサイザーは(9)と同じ。その他はシンセベースがレイサン・アーマー、シンセサイズド・ドラムがジェフ・ローバー、パーカッションがパウリーニョ・ダ・コスタ、シンセサイザーのソロがパトリース・ラッシェン(あの人)となっている。バック・ヴォーカルはヴェスタのみ。この曲に限った事ではないが高音の操り方が印象的である。
11. Vesta Williams - I'm Coming Back
メリハリのある歌唱を思う存分聴かせてくれる。(7)のB面でシングルにもなっている。ゲイリー・テイラーが曲作りとアレンジ、プロデューサーからキーボード、シンセベース、DMXプログラミング、ヴェスタと一緒にバック・ヴォーカルを務めている。
本盤から21年後、2007年のアルバム『Distant Lover』(最後のオリジナルアルバム)を持っている。大人の魅力はジャケット写真からも伝わるが、内容も良かった。潤いのある歌声はゆとりを生み出しソウル・アルバムとして高い完成度に至っている。本盤はサウンドが主体となる曲もあるが、いざヴォーカルとなるとチャカ・カーンばりの高音に必ずしもこだわり過ぎず、コクのある地の部分の声があってこそ高音が生かされるという、彼女なりの歌唱の構造に気付かせてくれる。バック・ヴォーカリストとしての経験は、本盤においてバックに回った時も過不足なく機能しているし、おそらくその時代から自分がフロントに立った時の自分の声の生かし方を、理屈だけでなく身体的なレベルに到達するまで修練していたに違いない。正直、歌物に徹した方が彼女の魅力は生かされると思うが、デビュー・アルバムにおいても臆する事無く自分らしさを出しているのはさすがである。



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