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人間の全ての営みはロマンに基づいている

ニュートンが、リンゴが落ちるのを見て引力の存在に思い至った、というのはフィクション説も有りますが、極めて人間的なエピソードだと思います。「引力の証明」が、科学的データや理論のみで構築されたものではなく、地面に落ちるリンゴを見て気付いたという所に、面白味や親近感を感じます。
そもそも、科学の世界で名を成した人というと、事実と論理をハイレベルに構築して、常人では理解し難いステージに居る感じがします。しかし、高度な専門性は必要でしょうが、それだけではブレイクしないのではないでしょうか?人間ならではの豊かな“感受性”が必要な気がします。その上で(だからこそ)得意分野に対する“ロマン”を胸に抱き、自らの研究に決定的な軸を持ち、重要な転換点に気付く事が出来る(発見出来る)のだと思います。

有名企業の経営者にも“ロマン”を持っている人が多いです。始めにロマンが有り、そこからノウハウが生み出されていると思います。「金儲け」が発想の根本ではないのです。たとえ、もっと儲ける方法を思い付いたとしても、自分のロマンと無関係だったら手を出さないし、結果的にはそれが正解なのです。創業者と後継者(特に世襲の)間にギャップが生まれる場合があるのも、ロマンを抱きやすい環境かどうかというのがあるかも知れません。最初からあれこれセッティングされていると、ロマン至上にはなりにくいんじゃないかとも思うのです。

「ロマン」というと解りにくい(何より私がよく解ってない)かと思い、ケータイの辞書機能で正確な意味を調べてみました。

【ロマン】=小説。物語。夢や冒険に満ちた事柄。

因みに【ロマンチック】=非現実的な甘い美しさを求めるようす。

ごく簡単にまとめると「非現実的な心地好い夢想」となるでしょうか?
さらに、私が考えるロマンの定義を書いておきます。「自分の感受性を元に、自分なりに醸成していく、ポジティブな気持ち」というものです。もちろん辞書的意味が優先されるのは当たり前ですが、私がこの文章で言わんとする事を表現するのに「ロマン」という言葉しか思い付かなかった為、使用しました・・・という長ったらしい言い訳を一応しておきます。“ロマン”という言葉に違和感を抱かれる方も居られるかなあと思ったものですから・・・。

科学や経営というと、人間の営みの中でも“現実的”なものの筆頭のような気がします。そこには明確な“結果”が要求されます。だけども、それに携わっている人間には“非現実的”な感覚が必要なのです。“非現実”を“現実”に重ね合わせる過程が必要だと思うのです。というか、人間の営みとしてそれが自然な過程ではないのかなあと思うのです。“非現実”というと“有り得ないもの”と捉われそうですが、ここでは“現実”の展開に沿わないものというニュアンスで使っています。通常、人の頭の中に自由に浮かぶ“想念”を考えると解りやすいんじゃないかと思います。何を食べようかアレコレ考えたり、昨日のデートの事を考えたり、昔の曲を聴いて懐かしさを感じたり・・・人間が現実に沿って生きるだけの存在なら、“無駄”ともいえる想いです。しかし、そういう想いを抱く存在だからこそ、人間は進化したんじゃないかと思います。無駄は余裕を生み出します。余裕のある人間だからこそ、新しい発想や集中力が生まれるんだと思います。また、余裕があれば考えも煮詰まりませ
ん。

しかし、こういった“人間らしさ”が現代社会に生かされているのかと考えると、ちょっと暗澹としてきます。本来自分の頭の中に有るべき“非現実”がそのまま本人の“現実”になっている(なりやすい世の中)ので、“非現実な想い”をポジティブな“ロマン”に転換できないのです。酷くなると「自分の存在を認めさせる為に人を殺す」というような悲惨な発想さえ出てきます。これは、現実と非現実が逆転して、自分の頭の中(非現実)に周り(現実)を合わせようとした結果という側面も有るかと思います。

心にロマンを持てば、恋愛感情や友情、尊敬の気持ち、奉仕心などの感情が程度の差こそ有れ“自然に”現れ、周囲と溶け込んで正常な社会生活を営め、自分らしさも出せると思うのです。

最後に、何度か書いた事がある私の大好きなエピソードを一つ。

NYハーレムに有るアポロ劇場の観客は、「世界一厳しい観客」といわれています。大物スターもステージ前には緊張するほどです。名物の一つに「アマチュア・ナイト」と呼ばれる素人歌合戦が有ります。

ある時登場した一人の青年は、メチャクチャ歌が下手でした。当然ブーイングの嵐。演奏も止まったのですがアカペラで歌い続けます。やがてマイクが床に収納され始めました。それでも彼は止めません。床に開いた穴に向かって歌い続けたのです。その一心不乱な姿を見て、ブーイングは拍手の嵐に変わり、マイクも再度上がり、彼は思う存分歌えたそうです。

青年には歌のセンスは無かったものの、大いなるロマンが有ったのです。有名なシンガーにはならなくても、充実した人生を送れた事と思います。

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