黒人音楽の歩み(2)・・・アフリカのDNA
●参考書籍・・・ロバート・パーマー著『ディープ・ブルース』(JICC出版)
前回、黒人奴隷が連れてこられたアフリカの地域は、大きく分けて3箇所有ると書きました。実は地域的に音楽の特徴が微妙に違い、どれも現在の黒人音楽シーンに結び付けられそうな事が書いて有りますので、この辺りをまとめてみようかと思います。
①セネガンビア・・・最北端をサハラ砂漠に接するセネガル、ガンビア、ギニアの北部となります。ここで特徴的なのは砂漠に近いため森林の数が少なく、通常アフリカ音楽の重要な楽器・太鼓が他の地域ほど発達していません。代わりに見られるのは「弦楽器」。アラブ起源でヨーロッパに渡り、ギターの元になった「リュート」やリュートに「ハープ」が組み合わさった21弦の「ハープ=リュート」(コラはその一種)などが有るそうです。
「柔らかな金属音」と言ったら変に感じられるかも知れませんが、何ともいえない心地よさです。どことなく、カリブの音楽に通じる感じもします。
楽器の変遷も探り出したら面白そうですが、ここでは割愛させて下さい。あくまで「黒人音楽」に関わる部分だけ見てゆきます。
セネガンビアで他に特徴的なのは「グリオ」という「吟遊詩人」。ピーター・ゲイブリエルとも交流が有り、アルバムも多数出しているユッスー・ンドゥールは先祖がグリオとかいう話でした。グリオは特権階級に侍り、称える歌(叙事詩体になっている家系図など)を歌ったり、ストリート・ミュージシャン化したり、農家や労働者を励ます歌を歌ったりしていたらしいです。扱いは複雑で、富と名声、尊敬は得るのですが、悪霊と付き合いがあると考えられ、死ぬときは「野ざらし」状態という悲しい職位でもあるようです。
②奴隷海岸・・・セネガンビアを下り、コンゴ川の上までは打楽器類の複雑なリズム形式に、リードとコーラスの「コール&レスポンス」が加わり、アフリカ音楽に今も見られるようなシンクロした音空間が創られていたようです。更に複数のコーラスが折り重なりポリフォニー(複合音楽)化すると、より複雑になっていくという訳です。はるか昔から「リズム」を音階のように使い音楽を構成している民族のDNAが、アメリカ黒人に受け継がれているのは事実でしょう。
③コンゴ=アンゴラ地域・・・もう少し南下すると、コーラスのポリフォニー化は促進され、二組のセクションに分かれて展開する各々のコーラスの背景から、ソロ、デュエット、トリオというパターンが次々と現れ複雑さを増したりしたとの事です。この辺の合唱音楽のスペシャリストはバントゥー人という人達ですが、彼等より以前に住んでいたピグミー人の手法を受け継いでいるそうです。
さて、地域的に分けはしたものの共通の特長もあります。
●複数の人々で演奏する事が多い・・・しかも、演奏者と観客に分かれておらず、その場に居る人から、特定の楽器をより上手く演奏する者が演奏者となり、他の者は歌を歌ったり手拍子を叩いたりして「参加している」形です。演奏に対して合いの手を入れたり、拍手をしたりするんじゃなくて、「一緒に音楽を創っている」という事です。黒人音楽の「ライブ性」の高さと、各人の音楽に秀でた資質の高さが頷けます。
●音楽による会話・・・コール&レスポンスだけでなく、ピッチ・トーン言語というのが説明されています。この言語は「適当な音の高さで望んだ意味を表す」というもので、平たく言えば音の高低が言葉になっているという事でしょう。30代後半ぐらいから我々ぐらいの世代の方は、ジュジュ・ミュージックというのを覚えていらっしゃらないでしょうか?
ナイジェリアのキング・サニー・アデがトーキング・ドラムという「喋る太鼓」を駆使し『シンクロ・システム』というアルバムをヒットさせ来日公演も盛況でした。
彼のライブを私もNHKで観ましたが、トーキング・ドラムが曲のリズムに合わせて「ドウモ、アリガトウ」と「喋った」のを興味深く覚えています。思わずアルバムも買っちゃいました。
話を戻しますと、トーキング・ドラムは商品の取り引きをしたり、他人とケンカしたり、訪問者の到着を告げたり、生活の中で使われる事も有ったようです。また、ドラムに限らず、歌いながらフルートを吹いたり(ローランド・カーク!)、ヒョウタンをメガホン代わりに使ったり、より「ホット」なやり方を志していたようです。ジャズのインタープレイとか、リズム&ブルースのドライブ感とか、結構こういう「喋る感覚」「ホットな表現」の名残と考えるのは浅墓でしょうか。
●音を濁らせる・・・ヨーロッパ人がどうしても理解できないアフリカ人の音楽感覚は、「わざわざ音を濁らせる」事らしいです。太鼓の皮や弦楽器のネックにブリキ板を貼り付け、うるさい音を出したり、マリンバや親指ピアノにヒョウタンで作った共鳴器を付け、しかも一部穴を開けて、そこにクモの巣を張り、ファズが掛かったような音を出したりするそうです。この辺もミュート・トランペットやブルースハープのベンディング(音をひん曲げて出す)、しゃがれ声のヴォーカルなどにつながっているようです。
さて、このシリーズ、当面の目標は1920年のブルース初録音なんですが、まだまだそこに至るまで相当かかりそうです。でも、どうせならジックリ取り組みたいので、このペースでやらせて頂きたいと思います。
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