リスペクトする事でリスペクトされる
99年の作品『メアリー』です。それまでサングラスなどで顔のキズを隠していたメアリーが、はっきりとアルバム・ジャケットにそのキズを見せています。「メアリー・Jという人間を有りのままに見せる」という決意にも見てとれます。
自分自身を見つめ直すからといって、自分一人でアルバムを創り上げた訳ではなく、むしろ今までよりも多くのゲストの手を借りているようです。しかし、その素晴らしいアーティスト達との関わりの中で、メアリー独特の感覚は健在で、むしろゲスト達のエキスを吸収して一回り大きくなったような気さえします。「自己を確立するには他人の存在が重要」という証明か?・・・いやいや、そんな簡単な理屈ではないでしょうが、いずれにしても色々なアーティストをリスペクトしている、彼女の姿勢自体とその姿勢が音楽に現れている事に、そして彼女のオリジナリティーとして開花している事実に、多くのアーティストや聴き手がリスペクトを捧げているんだと思います。
①オール・ザット・キャン・アイ・セイ・・・柔らかいベースにきれいな音をちりばめて、やがてメアリーのかすれ声が低く聴こえてくる・・・ローリン・ヒルが創った曲での立ち上がり。サビの部分で複数のメアリーが唸りあうけど頂点に達する前に2曲目へ。
②セクシー(フィーチャリング・Jadakiss)・・・淡々とした曲。しかし、決して印象は薄くないメアリーらしい曲創り。
③ディープ・インサイド(フィーチャリング・エルトン・ジョン)・・・冒頭我々の世代には懐かしいエルトンの「ベニー&ジェッツ」のイントロのピアノをサンプリング、と思いきや本人を呼んで弾かせる徹底振り。以前テレビで観たライブでこの曲を一曲目に持ってきて、ステージ後方の階段を下りて登場してくる時、ややよたり気味で、しかし、リズムに乗りながら下りてくるのを観て思わずにんまり。何とも言えず「素直さ」みたいなのを感じました。
http://www.youtube.com/watch?v=lHdB8UPRnHM
④ビューティフル・ワンズ・・・エルトンどころか今度はアール・クルーの手を借ります。サンプリングと本人の演奏。更にセシル・ワードという人がデュエット。しかし、メアリー節は健在。サビでコブシがころころ回ります。
⑤アイム・イン・ラブ・・・何やらポップスとジャズの中間の様な曲。彼女の世界には有るんですが、彼女が本領を発揮するタイプの曲ではないような気もします。でも一生懸命丁寧に歌っています。はっきり言ってこのアルバム辺りまではそんなに歌が上手くなく、「熱の込もる部分」だけを私も気に入って聴いていたんですが、現段階での最新作『ラブ&ライフ』ではかなり上手くなってます。この曲辺りはその芽が見てとれなくもないです。
⑥アズ(デュエット・ウィズ・ジョージ・マイケル)・・・このアルバム、実に多彩なゲストが居るんですが、ここではジョージ・マイケル登場。熱唱がスティーヴィー・ワンダー作のこの曲を盛り上げます。メアリーは遠慮がちに絡んでいますが、時々アレサみたいな声を出す部分も有り、「歌が上手くない」という私の暴論を軽くいなしてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=k6Za7zdUHOY
⑦タイム・・・スティーヴィーの「パスタイム・パラダイス」とアル・グリーンの2曲を使い、プロデュースは盟友チャッキー・トンプソン。「パスタイム・パラダイス」は「ギャングスタ・パラダイス」のヒントにもなっており、この曲もじゃっかん「ギャングスタ・・・」ぽい所が有ります。しかし、彼女独特のクールな感覚で仕上げられています。
⑧メモリーズ・・・ソウルショック&カーリンという名前は聞き覚えが有りますが、私は勉強不足でよく知らないチームがプロデュース。メアリーとも初絡みです。解説によると今までのプロデュース曲の感じでは無いとの事。メアリー・Jの音楽を把握した上での好プロデュースなんでしょう。
⑨オールモスト・ゴーン(インタールード)・・・レイラ・ハザウェイの作曲・プロデュース。
⑩ドント・ウエスト・ユア・タイム(デュエット・ウィズ・アレサ・フランクリン)・・・大物アレサとのデュエットという豪華版。実は最近のアレサに私はさほど期待しておらず、往時の声のふくよかさ、シャウトのしなやかさは戻るまいと思ってました。確かに以前の余裕は無いです。しかし、面白い事にメアリー風な歌い方になっておりサビのやりとりは大盛り上がりでは有りませんが、聴き物です。つられてしまったか?ベイビーフェイスのプロデュース。
⑪ノット・ルッキン(デュエット・ウィズ・K-Ci・ヘイリー)ゴスペル風な最初の一声に始まり、ひたすら熱を込め歌い続けるK-Ci。メアリーの一声はいつもに増してクール。しかし、進むにつれて「メアリー節」炸裂。K-Ciも日頃二人組みで歌っているせいか、フォローする部分、絡む部分のやり繰りが上手い。曲の前半をK-Ciが盛り上げ、後半はメアリー主で、彼が後方に回ったという感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=8sSJnkRFbx4
⑫ユア・チャイルド・・・ジェラルド・アイザックという若手がプロデュース。現代R&Bにありがちなバラードだけど、メアリーは実に楽しそうに歌っている感じがします。唸らぬままかと思ったが、後半軽く唸っちゃいました。
⑬ノー・ハッピー・ホリデイズ・・・これも味の有るバラード。ドラマティックス風効果音もチラッと登場。
http://www.youtube.com/watch?v=9lkc5NCkzOk
⑭ラブ・アイ・ネヴァー・ハッド・・・ジャム&ルイスのプロデュース。ややダイナミックな曲。女王は負けていません。
⑮ギヴ・ミー・ユー(フィーチャリング・エリック・クラプトン)・・・ストリングスでまったりと明ける曲。クラプトンのギターがどこで入るかと待っていた所、曲自体がクラプトンがやりそうな枯れた感じ。作曲はバラードに定評のあるダイアン・ウォーレンです。ギターはあくまで遠慮勝ちに盛り立てます。クラプトンの他にポール・パスコという人も入っています。曲自体はアルバムの終焉にふさわしい。
⑯レット・ノー・マン・プット・アサンダー・・・やや旧い感じのファンク・ビートというかディスコに近い。ファースト・チョイスという女性グループのものがオリジナルだそうです。こういう曲でのメアリーの歌いっぷりも好き。こういう曲をもっと取り入れても面白いと思いつつ、ぐいぐいと「メアリー節」に引き込まれて行くのでした。
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