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北風と太陽

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カーティス・メイフィールドの『There's No Place Like America Today』。昔から好きな一枚です。タイトルやジャケットにも表現されているように、社会的メッセージ性の高いアルバムといわれています。しかし、音世界は彼らしい温かさに充ちた穏やかなトーンのアルバムです。ファンキーな曲にはやや緊張感が感じられるものの、強い口調で責め立てるといった切迫感は有りません。

♪サンプル(DISC1が該当)
http://www.vh1.com/artists/az/mayfield_curtis/148059/album.jhtml

♪ユーチューブ
http://www.youtube.com/watch?v=0T6sHBMvEEc

しかしながら、決して「まったり」感に終始したアルバムではないです。メッセージ性というのが念頭にあるからかも知れませんが、本盤には強い意志の力が通底していると思います。それが分かりやすい形で表出せず、カーティスの人間性や“哲学”を通過する事で、平和主義者に温和に説得されているような感覚さえ抱きます。つまり、最初から激しく熱いのではなく、自然に暖まっていく感じなのです。

「ブラックパワー」という言葉があります。60年代の人種差別反対運動で、ストークリー・カーマイケルら“急進派”に主に使われていた言葉(スローガン)です。この言葉を知らなかった日本人にも印象的だった場面は、68年のメキシコ・オリンピックで表彰台に上がった黒人アスリート3名が、黒い手袋をはめ拳を握りしめ天に向かって高々と上げたものでしょう。私は当時小学生で、何をやってるんだろうと思ったものの、ここで初めて世の中に差別されている人たちがいるという事を知ったように思います。

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どちらかといえば「ブラックパワー」は、迫害する白人に黒人が一致団結して抵抗する「力対力」のイメージがあります。明確に私も説明できませんが、実際にそれに近いと思います。それでは“穏健派”と呼ばれたキング牧師はこの言葉を使わなかったかというと、違う解釈をしていたようです。つまり黒人だけに闘いを呼びかける形でなく、白人を説得して社会全体の「正常化」を目指す方向に「パワー」を結集すべきといった感じだと思います。著書を読むと、実に理路整然としていて、尚かつ理屈屋に終わらず訴求力も十分あります。黒人活動家というより、平和活動家だったんだと思います。ちょうどカーティス・メイフィールドのように、温かさを根底に持ち、淡々としながら芯のシッカリした人物だったんだと思います。また、相手(白人)を、差別する者として対応するのではなく、最初から同等の立場で語りかけている感じです。

悲しいことに、彼は結局暗殺されました。彼を失った事はアメリカ~世界の大きな損失だと思います。キング牧師の有名な「アイ・ハブ・ア・ドリーム」演説は63年、奴隷解放宣言が出されて約100年後。100年経っても人種差別に関しては殆ど何も改善されなかったといえます。

キング牧師の暗殺から40数年、アメリカに黒人の大統領が誕生しました。白人とのハーフだからとか、差別意識が残る南部ではマケインが強かったとか、暗殺計画もあったとか、逆に、今まで共和党の“聖地”だった州もオバマを支持したとか、投票なんか興味も無かったホームレスも投票したとか、20世紀初頭以来の投票率とか様々なエピソードが「黒人大統領」を考えるタームとして与えられています。しかし、最終的にはオバマ氏本人の力量が問題だし、力量を見極められる状況だけは作ってほしいし、マスコミもそのポイントだけは外さないでほしい。彼がアフリカン・アメリカンなのは歴史的な事だけど、もっと歴史的な事を彼には成し遂げてほしいし、つまらない偏見で彼を潰すのだけは最低限やめてほしいと思います。

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キング牧師の言葉に、身分や品性などで「差別」される事と、肌の色だけで差別する事には大きな開きがある、みたいなのがあります。偉大なるデューク・エリントンも人種差別を受けたそうですし、ダイナ・ワシントン、サム・クック、ジミ・ヘンドリックスらは黒人でなかったらあの時点で命を落とさなかったかも知れません。いわれのない差別に対して強い態度に出るのも解らないではないです。しかし、繰り返しになりますが、キング牧師は差別をしている人間自体を「差別」することなく差別を無くそうとしていたのです。それこそ強力なパワーと忍耐力を必要とすると思います。オバマ氏のスマートな物腰と説得力ある演説内容はキング牧師の理知的な人柄につながる感じもします。黒人も白人も関係ない、と演説しているように、真の平和主義精神で世界に影響力を与えて頂きたいと思います・・・彼のスローガン「イエス・ウィ・キャン」は「アイ・ハブ・ア・ドリーム」に対する答えのような気もします。

差別を無くすには、自分が相手を差別しないこと。人生「太陽」ばかりでは成り立ちませんが、基本的な心持ちはやはり「太陽」であるべきでしょう。

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