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【創作】PEACE(1)

マーヴィンは、公園の茂みの中から音も立てずに現れた。古いレンガ敷きの舗道を、目的地に向かって歩き始める。足を運ぶ際に上半身をフワッと揺らすさまは、落ち着き払った競争馬のようだった。

マーヴィンは夕暮れ時が好きだった。これからが自分の時間であり、密かな愉しみへの序章として、青と黒が混じり合う空の下、人工的な灯に街が照らされ始める時間帯は、胸踊らせるに充分だった。

馴染みの店の前に着く。ピンクと水色のネオン灯が重なった状態で、クネクネと「Silky Soul」という文字を形作り、店の上部に収まっていた。店の全体はさほど大きくなく、壁の茶色い色調は、薄暗い周囲に同化しはじめている。故に、ネオンサインが際立ち、訪れる者にはネオンの彩りだけが記憶に残っていることが多い。

場所的にも、他の飲食街の連なりから少し外れたところに有るので、余計孤高に佇む印象となっている。

「よぉ、マーヴィン!」背の高い黒人青年が声を掛けてきた。青いツナギを着ているが、さほど汚れていない。ここにも青と黒だ、とマーヴィンが思ったかどうかは微妙なところだ。

ニャア、とマーヴィンなりに心を込めて応える。なにせ自分の名付け親だ。とりあえずは敬意を表そう。

青年は、野良猫とは思えない銀灰色の艶やかな毛並みを持ったマーヴィンの喉元を、曲げた二本の指でさすった。マーヴィンは気持ち好さそうに目をつぶる。お決まりの挨拶だ。マーヴィンがもし人間の言葉を喋れたなら、「よぉ、ピース、調子はどうだい!」ぐらいの事は言っただろう。

しかし、青年ピースに意が通じたのか、「調子はマアマアってとこだな」との返事が返ってきた。そして彼は、ニコニコしながら「シルキー・ソウル」のドアに向かって行った。

マーヴィンは店の前に出来た水溜まりに己の顔を映し眺めていた。ピースが開けたドアからトミー・ヤングの歌声が洩れ聞こえてきたのを機に顔を上げ、次の目的地へと悠々と歩を進め始めた。

(つづく)

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