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夏目漱石著『文鳥・夢十夜』

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解説に「小品」とあるように、短編小説とも随筆とも色合いの違う作品群です。作者の思いや考えがストレートに近い感覚で表現されていて、漱石という人物に近付いた気にさえなります。

映画化もされている「夢十夜」は、実際に見た夢を軸に構成されています。幻想的でホラー感覚を味わえる部分も有りますが、基本的に、昔話や伝説・故事の類に通じるような、土俗的な雰囲気に満ちています。“夢判断”という観点から、人物漱石の心理学的分析も可能なのでしょうが、私の場合それよりも、物語性の深さに単純に引き込まれました。

小学校高学年の頃から本を読むのは好きでしたが、所謂“文豪”と呼ばれる作家のものは余り読んでいません。今回漱石作品に触れ、文章表現の緻密さと、そこから立ち昇ってくるイマジネーションの奥深さに圧倒されるばかりでした。

漱石が大病を患った際の、身体の変調の様子や、病床から見える限られた景色、さまざまな物事に思いを寄せる様子を描いた「思い出す事など」も徹底した表現力に、多大な感情移入をしてしまいます。読んでいて自分が床に臥せているような気になりました。

優れたシンガーが、メロディーの美しさの前に、自らの声質や歌唱力の素晴らしさを印象付けているようなものです。文章自体に味わいとパワーを感じるのです。

たまには文豪も好いものです。

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コメント

こんにちは。
『夢十夜』ですかー。
確か・・・詩でも随筆でも短歌でも俳句でもない、
まさに「小さな作品」じゃなかったでしょうか?
見た夢を忠実に書きとめたものではないと思いますけれど、
読むほどに不安定さが増すので、本から顔を上げた時
夢から覚めた時と同じような不安と重苦しさを覚えた記憶が
あります。

投稿: 梢華 | 2009年6月 7日 (日) 17時29分

漱石の「実力」を思い知りました。

投稿: k.m.joe | 2009年6月 7日 (日) 20時00分

お久しぶりです。この小説・・・うら若き乙女の大昔(汗)に読んだ記憶があります。昔の文豪の文章は、今の言葉遣いと違うのが趣があって良いですね。

投稿: シッポ | 2009年6月11日 (木) 20時46分

そうですね。やっぱり日本語がシッカリしていた時代だったんですね。

投稿: k.m.joe | 2009年6月13日 (土) 14時46分

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