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辺見庸著『もの食う人々』

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「食べる」という行為は、人間の根源的な部分に関わるものです。著者は「食」というより、人間が食らう“行為”に拘ります。しかも対象となる場所は、平凡な日常の食卓ではなく、特異な場所に限られています。紛争地帯、エイズが蔓延する村、ベルリンの壁崩壊直後の東西の思惑が混在する刑務所、チェルノブイリの立ち入り禁止区域etc・・銃弾の下をかい潜り、残飯に手を付け、バター・コーヒーに悶絶し、日本の食材に似て否なるものに出会ったりします。しかし、珍しい体験を語っているだけの本では有りません。

確実に死を前にしている少女や、従軍慰安婦としての体験を語る老婆等、かなり重たい状況も出てきます。極めてシリアスな作品なのです。この作品の裏には飽食日本に対する警鐘もあるでしょう。日本人である事が厭になる章も有ります。しかし、その前に、世界中様々な状況で懸命に生きている人々がたくさん居るという「人間ドラマ」が展開されています。辛いけれど人間の逞しさ素晴らしさが伝わってきます。哀切感がありながらも前向きなのです。トーンが暗鬱にならないのは、著者の相手に正対する姿勢が感じ取れるからだと思います(同じ物を食べながら話を聞くのも気持ちを通じ合わせるのに有効だったかも知れません)。著者の人情味とユーモアがダイレクトに伝わり、人々の悲しい気持ちや強い気持ちも彼を通して伝わってくるのです。

辺見さんは元共同通信の記者です。世界中から凄い量のニュースが飛び込んでくる場に居てマクロな視点を持ちながら、一人の市井の人間と交感するミクロな視点も持ち合わせている上に(それだからか)ロマン溢れる文章を物すれば、超一級品で感動を呼ぶルポルタージュが書けない訳がありません。

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