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【創作】PEACE(3)

♪前回まで
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ピースがカウンターの左端に座ると、クアーズのドラフトビールとリブ肉が3切れ、目の前に置かれた。

「俺の分だ。やるよ」ピースは、ジョーの言葉が終わらぬ内にビールを呷り、満面の笑みを返した。彼の笑顔の効果は大きい。細面の顔の中で、目尻の皺と軟らかい動きを見せる唇は彼のチャームポイントだ。もっとも、セクシーというより癒し効果の方だろう。

切り刻んだリブ肉を咀嚼し始めると、唇は草食動物のようにノンビリと動き、「うまそうに喰いやがる」という称賛ともからかいとも取れるジョーの言葉を引き出した。

ピースの愛すべき点は、見た目だけではない。度を越した他人の悪口は言わないし、自信家でもない。ソコソコ気が回るし、笑いを誘う失敗もたまにする。ユーモアを好むが、軽い人間ではない。とても付き合いやすい男なのだ。ただ一つ他人を閉口させる部分があるとしたら、好きな音楽の話題になると、喋りが止まらなくなる時ぐらいだ。

実はピースは流れ者だ。メンフィス近郊のこの街、エンジェル・シティーに来たのは半年ほど前。街外れにある、イタリア系のオヤジが経営する自動車工場「アルズ・ガレージ」に顔を見せたのが最初だ。例の笑顔で、仕事をくれと頼んで来た。他人を簡単には信用しないアルだったが、どういう風の吹き回しか彼を仮雇いにした。ピースは、自動車整備の仕事は出来ないのだが、従業員の補助や片付け、アルの使いなど明るく積極的に動いた。アルはすっかり彼が気に入り、過去の事を詮索するでもなく、正式に雇った。そして、街中の人間がアルと同じ気持ちを抱くのに、長い時間は掛からなかった。

厨房で、自分が食べる肉を焼いているジョーが出て来るタイミングを待ち、ピースは、チビチビとビールを傾けていた。

リトル・ジョニーテイラーが歌い終わったと同時に、入り口のドアが開き、鮮やかな青いワンピースを着た中年の黒人女性が入って来た。常連のローラだ。

(つづく)

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