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ぬか漬け

☆招いてくれた人は、システムキッチンの下扉の一つを開けた。大き目の青いポリバケツが見えた。重しを除ければ独特のニオイ。ぬか床だ。「母から分けて貰ったの」西洋風な顔立ちの彼女にはそぐわない気もするが、趣味人であり、凝り性な面もある事を思えば納得がいく。彼女は真剣な顔で、ぬか床を何度かかき混ぜた後、一本のキュウリを浅く沈ませた。「明日は美味しい一夜漬けを振る舞うわ」そう言うと彼女は、ぬか味噌だらけの手で楽しそうに笑った☆

★黒人音楽が磐石なのは、歴史の遺産が息付いているからだと思う。伝統をそのまま受け継いだスタイルはもちろん、トレンディーなR&Bでも
“黒い音世界”の奥には“黒い遺産”が見え隠れする。音楽界全体のグローバル化は確かにあり、オールドファンが踏み込みにくいブラックミュージックも多々ある。しかし“黒い遺産”は今の時代にも間違いなく存在している。そんな事をボンヤリ考えていたら、“黒い遺産”ってぬか床みたいなものか?と、いつもながらの妄想が湧いて出た。時代が進んでも、先人の技や知恵や魂は、音世界に味を付け、聴く者に“昔ながらの感覚”を思い起こさせている気がする。また、日本食なら日本人にしか訴求しないかも知れないが、黒人音楽ぬか床のニオイや味わいは、黒人自身の感じ方とは違うだろうが、広範囲の訴求力を持つ。考えて見れば不思議なぬか床だ★

☆朝食のテーブルの一角に、キュウリの一夜漬けは置かれた。強烈な二日酔いの頭は、先ずそこに箸を向かわせた。酒と煙草で汚れきった口中から喉奥へと、微かな塩味を伴ったキュウリが、風味豊かに通過して行った。しばらくは箸が止まらない。何よりのもてなしに彼女の静かな笑顔も加わった。

もし人生が真理に出会う旅だと仮定したら、私にも掴んだ真理がある。食べ物と音楽は人の心に情感を満たす。これもまた、ぬか床のようなものかも知れない。

♪Jodeci "Play Thang"
http://www.youtube.com/watch?v=PkxH1_ZtDYw

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