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余裕の奥の情熱

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●ボビー・"ブルー"・ブランド『トゥー・ステップス・フロム・ザ・ブルース』<デューク>(1961)

http://www.hmv.co.jp/product/detail/865667

私は「余裕」は好きだが「貫禄」はキライだ。歌手もベテランになると、貫禄だけで“済ませている”人がたまにいる。超一流になると貫禄が滲んでくるのは仕方のない所かも知れないが、音楽に本人の人間性が投影されていれば、化けの皮はかぶらない。

ここに、ボビー・ブランドの新作があったとする(実際はない)。彼の実績を知る者なら、聴く前から中身が想像できるはずだ。でも実際聴いてみると、彼の魅力のトリコに何度でもなるはずだ。ああ、やっぱりこの人だったら間違いないと思うのだ。これは貫禄の成せる業ではない。

本盤はボビー・ブランドのデビュー作である。40年以上前の作品だ。若い彼の歌声には“うがいシャウト”も聴けず、スムースだ。しかし単なるクルーナーではない。やはり深い。単に丁寧に歌っている訳ではない。曲に対する愛情を超えて、感情に対する愛情みたいなものをその歌声に感じる。静かに情熱的だ。冒頭のタイトル曲からズシンと来る。しかし、深くても暗くならない。聴いていて力が湧いてくるのだ。これぞブルースだ。複雑な人間の感情を正確にトレースし深い感動を覚えさせる。これぞブルースだ。このアルバムを聴かずしてブルースファンは自認できない。というか、ブルースファンを自認する者がこのアルバムを初めて聴いたとしたら、ブルースに対する認識が「2ステップ」は深まるだろう・・・。必携の名盤。

全ての曲が魅力的だが、一つ取り上げてみよう。キャブ・キャロウェイで有名な「セント・ジェイムス・インファーマリー」。ジャイブの王者として、愉楽のエンターテインメントを追求したキャブには、単なるお笑い芸人ではない、独特の哀調がある。サーカスのピエロに似ているかも知れない。ボビー版はその哀調を抜き出して、歌に塗り込めている。見事なバランス感覚。天性のブルースマンだ。

♪"Two Steps From The Blues"
http://www.youtube.com/watch?v=6tjSMp1UgnY

♪"Don't Cry No More "
http://www.youtube.com/watch?v=8yaW_FlWzUA

♪"St James Infirmary "
http://www.youtube.com/watch?v=iHh4wBGQZD0

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