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【創作】PEACE(5)

♪前回まで
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「アルズ・ガレージ」の作業場は、個人経営の整備工場らしく、こじんまりとしている。ピットは2台分で、ベテラン作業員が2名、あうんの呼吸で日々の仕事をさばいていた。店主アルの厚意だけで働かせてもらっているピースは、清掃や、作業の手伝い、アルが事務所に居ない間は電話番などと、それなりに忙しく立ち働いていた。

外へ出る事もある。アルの兄が経営するレンタカー屋へ届け物を運ぶ時が多い。見た目がポンコツな割りにはよく走る、黄色いピックアップトラック。皆から「イエロー」と呼ばれている車を使って20分ほどの道のりだ。イエローは、ほとんどピースが専属で使っているようなものだった。使い走りの後アパートまで乗って帰ることもある。

その日もアルに頼まれて、小さな荷物を届ける事になった。ピースがイエローを運転する時に、好きな音楽が聴けるのも愉しみな事だ。常時20本近くカセットテープを載せている。乗車すると、暫くラベルを眺めてから、一本取り出しカーステレオに吸い込ませた。

ドン・ブライアントの、問答無用な乗りに引っ張られて快適にスタートした。
やや賑わいのある並木通りに差し掛かった。片側一車線の路面に、繁った葉が影を落とし斑模様になっていた。一定の速度で走る事で、影がリズミカルに車体を撫でて行く。

反対側の舗道に、鮮やかなオレンジ色のワンピース姿が見えた。この界隈であれだけ派手な色を着こなせるのはただひとり。ローラだ。ローラは俯きかげんながら、やや早足で歩いていた。並びそうになったので声を掛けようとした時、彼女の隣にスリムな女性がいるのに気が付いた。

軽くソバージュを掛けた肩までの髪。肌の色はブラウンで、タマゴ型の輪郭。目鼻口が小さく大人しめの顔立ちだ。ローラの方を向きながら話しているので歩きにくいらしく、時々、歩みを調節していた。そのやり方がスマートで、リズム感のある女性である事を窺わせた。彼女はローラに向かって懸命に何かを訴えていたようすだ。文句を付けるのではなく懇願している感じだった。ピースは声を掛けそびれ、ミラーで二人の姿をチラチラ見ながら進行していった。

その夜、ジョーに、ローラと知らない女性を見かけた話をしようと「シルキーソウル」の扉を開けると、その二人がカウンター席に座っていた。

(つづく)

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