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【創作】今日子(1)

今日子は、高校2年の春先に転校してきた。重い病気を患っていて、背丈は小さく痩せていた。髪の毛には艶がなく、細かくちぢれ、いかにも櫛が通りにくそうだった。顔色も黄色みが強く、見るからに不健康そう。目の下には濃い隈があるらしく、大きな黒縁の眼鏡で隠していた。

それでも、彼女は明るかった。笑顔の印象しかないぐらいに、いつもニコニコしていた。誰にでも気さくに話しかけ、自然とクラスのムードメーカーになり、いつの間にかクラス全体も仲良くなっていった。

体育はいつも参加できなかったが、普段はちょこまかとよく動いていた。勢い余って呼吸が乱れ、整えるのに時間がかかる事もあった。そんな時も「病気なの忘れちゃったよ」と、皆を笑わせるので、こちらも、彼女の病気を意識し過ぎる事はなかった。

ある日、帰宅途中に今日子が追いかけてきた。不規則な足音と一緒に「永井く~ん」と呼ぶ声。振り向くと足音が止まり、2、3歩手前で俯いてハァハァ言っている。大丈夫かと声を掛けようとしたら「な~んてね」と身体を起こし、胸を反らして明るく笑った。

「何だよ、まったく」
「アハハ、ごめんごめん。ところで永井君、デビッド・ボウイのジギー・スターダスト持ってる?」
「あれは山倉が持ってるよ」
「おっ、それは良かった。今から買いに行くからおいでよ」

何が良かったのか考える間もなく、脇目も振らず歩いて行く今日子の後を、少し離れながら僕はついて行った。彼女は時々振り向いて楽しそうに笑った。別にデートではないのだが、今日子の真っ直ぐな明るさに、気恥ずかしさと浮き立つ気分の両方に包まれていた。

レコード店での買い物はすぐに終わり、今日子の家で聴こうという流れになった。緑が濃さを増してきた田んぼの間の農道を、彼女は元気良く歩いていた。「早く聴きたいね」と一度言ったきり、ほぼ無言で、家に帰ってCDを聴く事が、相当な重要事であるかのように力が籠っていた。

誰かが今日子の事を生き急いでいると言った。でも、僕は少し違うと思う。急いでなんかいない。むしろ、ひとつひとつの体験をゆっくりと愛でている。彼女は僕なんかより、とても濃密な時間を過ごしてるんだ。基は彼女の運命がそうさせるんだろうけど、運命に意地を張らず、自分の感性で素直に生きている。結果、他人との交わりが自然かつ緊密に結ばれているんだと思う。

(つづく)

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コメント

よくわかるよ 今日子ちゃんの気持ち。
と、言ってもお話しはこれからですね。
でも、不思議と共感できました。わたしも生き急いでいたかなと思う時期がありました。

投稿: 萠照 | 2012年8月21日 (火) 19時21分

コメントありがとうございました。じっくりと書き進めようと思っています。よかったらまた読んで下さい。

投稿: k.m.joe | 2012年8月25日 (土) 17時14分

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