« 2012年9月 | トップページ | 2012年11月 »

2012年10月

【創作】今日子(2)

♪前回分
http://hajibura-se.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-71...

着いた場所は、周囲を古い石塀で囲まれた、敷地の広い農家だった。門扉はないが、石塀に比べて新しい、スベスベした門柱が両脇に据えられていた。年季の入った分厚い表札が掛けられ、崩した文字で「杉山」と書いてある・・・今日子が教えてくれたから読めたんだけど。その下には、簡易なプラスチック製の表札が貼り付けてあり、今日子の母親と今日子の名前が横書きに、並べて書いてあった。今日子の「子」の後にはニコニコマーク。いかにも彼女がやりそうな事だ。

門を入ると、左手に形が整った庭木が数本。平屋の母屋が奥に見える。正面には、納屋と、作業場のようなスペースがあった。軽トラックが一台止めてある。右手に、真新しい二階建ての家屋。今日子は、母親とふたりでこの離れに住んでいる。母親の実家に越してきていたのだ。彼女たちの為に急造したのか、今日子の案内に連なって入ると、新築の匂いがした。台所にいた母親に挨拶し、狭い階段を彼女の部屋へと上がっていった。

女子高生の部屋として、また日頃の彼女のテンションから考えると、意外にもよく整理整頓された穏やかな空間だった。机や本棚、数々のインテリア類はブルーやピンクのパステルカラーを使用した物が多く、素っ気ないが統一感があった。

今日子は「お疲れお疲れ」と言いながら、机の椅子を窓際まで引き、鞄をベッドに乗せると、レコード店の袋からCDを取り出し、早速、白一色のミニコンポに吸い込ませた。

デビッド・ボウイが、地球に流れ着いた異星人の物語を歌い始めると、今日子の母親が、お盆持参で入ってきた。ウーロン茶のグラスが2つと、カステラが2切れ、一つの小さな皿に載っていた。

「カステラは今日子食べないから全部良いわよ。え~と」
「あ、永井と言います」
「ああ、音楽好きの永井君ね」
「えっ」動きが止まった僕に対しておばさんは、今日子によく似た笑顔で応えた。  
「今日子がクラスの皆さんの話ばかり聞かせるから覚えちゃったのよ」

「はははっ」と、窓の外に視線を向けたままの今日子も少し笑った。面白がってはいたけれど、横顔にやや疲れが見えた。

おばさんが下に降りても、今日子はしばらく黙って窓の外を眺めていた。声を掛けるのが妙に憚られた。仕方なく僕は、CDジャケットを見るともなく見ていた。カステラも、ひと切れ食べたら次に進めなかった。

「スターマン」が歌い出された。歌に合わせて小さく口笛を吹いていた今日子が、いつものトーンで喋り始めた。

「あ~、それでも私、死んだら星にはなりたくないよ。雲がいいなあ、雲が。のんびり空に浮かんでぼんやりしたいよ」今日子はこちらに顔を向け、明るい笑顔を見せた。重病人の発言と考えれば重苦しいが、これだけニコニコされると、快活なユーモアとして受け止められた。

笑顔のまま窓際を離れながら、更に笑わせてくれる。「でも、探してもらえないだろうな。あれ?こないだ確かにこの辺で見かけたんだけど、なんてね」

天井を、人差し指で何度か差した今日子は、そのままコンポを止め、トレイからCDを抜き取った。僕がジャケットを差し出すと「はいはい」と受け取り、丁寧に収めた。

ある筈のない埃を払って立ち上がった僕に、袋に入れたCDを渡そうとした。「貸してあげるよ」「いや、俺、山倉に借りて焼いてるからいいよ」「あ、言い方悪かった。借りてちょうだいよ」

意味を考えていると、言葉が継がれた。

「人に物を貸しておくと返ってくるまで生きられるような気がするの」

いくら鈍感な僕でも、さすがに戸惑った。自然とCDを手にしたが、さよならのひと言がこの場に相応しくなく思え、「じゃ、また月曜」と喉の奥からようやく発声した。

今日子は何も気にしてない様子で、「またねー」と右手をヒラヒラさせた。「私ちょっと休むから、下でお母さんに言っといて」

階段を半ばぐらいまで降りかけた時、激しく咳き込むのが聞こえてきた。いつの間にか階段の下におばさんが現れ、複雑な表情でありがとうねと言うと、今日子の部屋へと上がって行った。

外はとても好い天気だったけど、僕の気持ちは混乱していた。いつもの今日子のようで、いつもの今日子ではなかった。急に悲しい気分になり、足取り重く帰って行ったのを憶えている。借りたCDは袋から出さず、他のCDの列の上に横に置き、少し奥に押しやった。

沈んだ気持ちは、休みの間中続いた。終日部屋に居て、次々と音楽を聴いていたが、全く気は晴れなかった。月曜が待ち遠しい、また今日子の笑顔を見て安心したい。落ち着かない想いの中で、それだけはハッキリしていた。

(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

幸福と生と死

●私より若い人が脳梗塞で倒れた話を聞いた。同い年ぐらいの同僚と、50を過ぎれば何時死んでもおかしくないと自嘲気味に語る。自然と、将来の事より一日一日の大切さや、何気ない幸福感に思いが到る。死を意識すれば、生の充実を求める。「充実」は欲望を満たす事ではない。「善く生きる」事だ。何が善かは自分で感じ取るものだし、自分の意思に沿わなければ、真の充実感は訪れない。もちろん、自分勝手な意思は論外だ。

●他人の命を奪って金を得て、自分は贅沢品に囲まれて幸福な生活を送る。実はそれは「幸福」とは言えないのだが、本人は幸福感を得ていた(のだろう)。やがて裁きを受け、自分の成した事が犯罪なのだと指摘された時、どんな思いを抱くだろうか。元々、自分の幸福の為にした事で、何で他人にとやかく言われなくちゃならんのか、ぐらいにしか思わないだろうか。とても淋しい人間だ。高級品の無い、何の飾りも無い部屋で日々拘束されれば、いつかその淋しさに気が付くだろうか。

♪Kipper Jones "Footsteps In The Dark"
http://www.youtube.com/watch?v=tImODdIuBDQ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

見えざる敵

●ひと月ほど前から、夜になると、2階の天井裏でタタタタタと音がしていた。以前にも聞いた事があるネズミの走る音だ。物干し竿で突っつくとピタッと止むが、暫くするとまた運動会。後日、ヨメさんが袋入りの殺鼠剤を買って来たので、天井裏の何ヵ所かに放り投げた。それでも時々足音はしていた。

●ある日、キッチンに保管していた、ビニール袋に入った大豆やら、小麦粉やらカップラーメンが食い荒らされていた。サラダ油の容器まで。三段式のプラスチック製ケースに入れていた分などだ。よく見ると側面に隙間があり、そこが侵入口らしい。怒りに燃えたヨメさんは、食品全てを缶やタッパーに入れ、先ず入り込まないだろうという高い位置に仕舞った。食べ物を手に入れていたので、殺鼠剤はシカトしていたんだろうという結論。

●またまたある日、私がまだ帰宅していなかった時間。リビングにいた娘が、玄関に向かって何かが廊下を走って行ったのを目撃。チュウと鳴いたとも言う。人が居る所には出て来ないんじゃないかとも思ったが、一応寝る前に、リビングの扉を閉め、玄関と廊下部分を区切り、殺鼠剤を数ヶ所に置いた。夜、トイレに起きた時に見ると、殺鼠剤は残らず無くなっていた。ヨメさんとふたりで周囲を捜索したが、ネズミも殺鼠剤も発見には至らず。どうやら、自宅に土産として持って帰ったようだ。代わりという訳ではないが、リビングの小さな棚に載せている、私専用の酒のツマミ(乾きもの)を入れたタッパーが齧られているのを発見した。蓋の平面部は無理なので、蓋と受け部が合わさっている箇所に、努力の跡は集中していた。しかし、所詮無理。向こうも必死なのだなあと改めて思った。さて、これからどうなるか。続編を書かずに済む事を祈る。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

【創作】涙という名のバー

涙という名のバーがありました

痩せて色の黒い女主人がおりました
いつも首をどちらかに傾け、タバコなんぞふかしています

涙という名のバーがありました

店ではシャンソンが流れています
ブルースだと心が騒ぐ、ジャズだと音を追っかける
気取っているようで温かい
シャンソンが似合う、場末の小さなバーでした

涙という名のバーがありました

男たちは辛そうな顔で、見栄を置いて帰ります
女たちは哀しい顔で、過去を置いて帰ります
止まり木だけの小さなバーでした

涙という名のバーがありました

愛想のない女主人に、何も喋らない客ばかりだけど
なぜか何度も来てしまうのです
何かを捨てるために
何かを捨てる自分に会うために

涙という名のバーが

ある日、無くなっていました
空き地になってました
もう、風さえ吹いていません

涙という名のバーがあった場所に看板が立っていました

「涙がずいぶん集まりました。みんなありがとう」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

甘酸っぱい何か

591_2

●今年の春に高校のクラス会が行われた。私は所用で参加出来なかった。まとめ役の同級生から、名簿やクラス会の写真等送られてきた。実家の方に届いていたので、手元に来るまでに少々時間が掛かった。高校卒業以来初めてのクラス会だったので、ほとんどの人が三十数年ぶりだ。さすがにひと目で判別できない。でも、見ている内に、高校時代の記憶が断片的に甦ってきた。あたり前だが、一人一人に一人一人の時の流れがあったんだろうなあと、しばし感慨の中。

●前々から気になってはいたクラッシュの『シングルズ』という編集盤。ブックオフのCD20%引きに釣られ、ジミヘンの『ブルーズ』と共に購入。大学の頃クラッシュなどのパンク系はよく聞いていた。久しぶりに聴くと懐かしさが先に立ち、音楽的にどうこうという思いが湧かない。元々パンクロックに音楽批評は似合わない。勿論、批評は成立するが、考える前に勢いを味わうのがパンクだ。クラッシュは素っ裸で武骨。カッコ悪さがカッコイイような所もある。音楽的な工夫や歌詞に表現された主義主張はあるが、突っ走るのが前提だ。当時の私は社会に出る一歩手前の時期。結局、私はクラッシュのような突破力を発揮出来なかった。いや、発揮しようとしなかったのだ。理想と言い訳がこんがらがり、真摯にぶつかるエネルギーを出さなかった。クラッシュを聴いていると、爽快さの奥に、甘酸っぱいようなモヤモヤした気持ちが浮かぶ。クラッシュは、私にとっては特に、批評不要の音楽だ。

♪The Clash "White Riot"
http://www.youtube.com/watch?v=qzXkbV4lEKU

♪The Clash "Train in Vain"
http://www.youtube.com/watch?v=q3Yl4ehzX-o

♪The Clash "Hitsville UK"
http://www.youtube.com/watch?v=tVKC5YE85Ks

| | コメント (0) | トラックバック (0)

命・知らず

●借りている駐車場から、歩いて角を一つ曲がる時。角のお宅の庭木が道路側に張り出して、端に寄って歩けない。無造作に車が曲がってきたら危ないので、いつもカーブミラーを注視している。何も来てないので曲がろうとしたら、男子高校生の自転車が猛スピードで駆け抜けて行ったーー。咄嗟に止まったので大事には至らず。もし、下でも見て歩いていたら・・・あるいは、狭い歩道なので、彼が反射的に車道に下りて車と接触したら・・・などなど考えると恐ろしい。果たして、彼はどこまで考えてくれただろうか?

●ショッピングセンターの駐車場。ママ友同士か、母子ワンペア計4人が車から下りてきた。ひとりのママがくわえていたタバコを、自分の子供が傍に居るのも構わず、投げ捨てた。マナーの悪さもさることながら、自分の子供に当たる可能性を考えないのだろうか。その前に子供と一緒の車内で喫煙するだけでも驚きだが・・・。

●子供を虐待する親は、精神的な問題もあるだろうが、子供を子供と思っていないのでは。子供が小さい内は「保護」が必要だが、子供と思ってないなら、保護する意識もない。保護の気持ちがないから、感情のままに泣いたりする子供に対して、自分も感情のままに暴力で黙らせようとする。ひとつ上の立場から対応出来ないのだ。

●親子関係は、人間が最初に経験する感情の交流の場だ。親からのスキンシップや正しい躾、親自身の行動が、やがて、子供が他人と交じわる際のバックボーンとなる。他人の感情を受け止め、自分の感情を出せるようになる。親子関係は、子供に「命」を吹き込み、人間として形成させるものではないだろうか。ノウハウを教えるのではなく、感情を芽生えさせる。もちろん、理想通りにはいかない。むしろ綻びがある方が人間らしいかも。子育てに苦労した方が、伝わる感情も豊富なものになりそうだ。

♪Dan Greer "Thanks to you"
http://www.youtube.com/watch?v=yRVvyrNbVMc

| | コメント (0) | トラックバック (0)

歌の人

41x85rnf11l__sx230_


●エッタ・ジェイムス『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・エッタ・ジェイムス~チェス・イヤーズ』<スペクトラム/ユニバーサル>(05)

http://ongakumeter.com/m/B0009F2C3Y

3枚組CDだが、安価で求めやすい。

エッタの<チェス>在籍期間は60年~75年。リズム&ブルース、ブルース、ソウル、ファンク、ゴスペル、ロック、ジャズと、曲に含まれているフィーリングも考慮に入れれば、黒人音楽史的視点(曲の表情の変化)から見ても本盤は愉しめる。

ディスク1は60年~62年。リズム&ブルース期の初期と言えるだろうか。シュガーコーティングされたR&Bの世界が目立つ。ハーヴェイ・フークアとの共演曲「If I Can't Have You」などは思わずニンマリしてしまう。

ストリングスの調べに乗って、時にジャズっぽく展開されたりも。全体的にこの時期は、パンチ力より、バラードの切なげな歌い口にスポットが当たっている感じだ。もちろん、深みや渋みは十分感じ取れる。

ディスク2は62年~67年。個人的には最も好きな時代だ。強烈なドライブ感、感涙を誘うバラード、どす黒いブルース、と聴き所満載。今回YouTubeで動画を選ぶのに、各ディスクから一曲と決めたが、本ディスクは何を選んだら良いか迷うぐらいの充実度だ。ジャンル的には、ロッキン・リズム&ブルースと、正統派ブルース、初期ソウルの時代と言えるだろう。ストリングスからホーンズ中心に変わったのも特徴の一つ。ストリングス使用の曲が一曲だけあるが、キレ重視の使い方でディスク1とは異にする。

喉を締め付けるような唸り、圧力のあるシャウト、フッと引いた時の色っぽさ・・・これらがエッタの歌唱で際立つ魅力かと思うが、本ディスクではそれらを堪能出来る。また、全般的に丹念に歌いこなした結果、演奏陣との一体化を成している。「南部詣で」の成果も大きい。

ディスク3は67年~75年。60年代ソウルのピークと70年代ソウルの初めからニュー・ソウルやジャズ・ソウル的様相をも窺わせる。オーティス・レディングやウィルソン・ピケットといった、アップテンポの曲を持ち味とするシンガーの物は特に映える。また、シャウトの極みが味わえる「アイ・ファウンド・ア・ラブ」も、聴いていて、凄まじさに震える。

ディスク3でちょっと残念なのは、ジャズ・ソウル的展開を見せる曲。卓越した演奏でグルーヴを生み出す意図は解るが、曲が始まり2分近くもエッタが歌い出さないのは興醒め(あくまで個人的意見)だ。曲は悪くないが、形として“エッタ主導”でないのがシックリ来ないのだ。

エッタ・ジェイムスは、とかく「迫力の人」と取られがちだが、それだけでなく実に器用な人だ。「歌の人」という大まかだが奥深い表現が適切だと思う。或いは、亡くなる直前まで、声はかすれ、艶を失っても尚真摯に歌い続けた姿勢からは、「生涯一歌手」という表現も頷ける。そのベースにはブルースが在る。ブルース性を強く感じる場合の彼女に、個人的には特に魅力を感じる。

自分の好みや時代性といった物に囚われなくても、多彩な曲をこなす「歌の人」ぶりが愉しめるセットではある。

♪Etta James/ Harvey Fuqua "If I Can't Have You"
http://www.youtube.com/watch?v=BoX1OhZwjvQ

♪"TWO SIDES TO EVERY STORY"
http://www.youtube.com/watch?v=0z7mWb2Vdg4

♪"I found a love"
http://www.youtube.com/watch?v=TkRI_9WPEIg

| | コメント (0) | トラックバック (0)

すっぴんFAME

51n6qu0pzl__sx230__2


●V.A.『ホール・オブ・フェイム』<エイス/ケント・ソウル>(12)

http://diskunion.net/black/ct/detail/XATW-00125714

<フェイム>作品の未発表曲を集めたもの。

『フェイム・スタジオ・ストーリー』というアーカイブ的にも優れた3枚組CDが出た後だし、アーティスト別の編集盤も出ている。つまり、考えようによっては、かなり堀り尽くされた後の残滓とも取られかねない。

しかし、仮にも<エイス>仕事。しかも南部ソウル。悪かろうはずがない。事前の評判も良いものばかりだったので、疑う気持ちなど微塵もなく、楽しみな気持ちの方が大きかった。

結果、十分満足のいく出来だ。それだけではなく、改めて、南部ソウル、引いては南部サウンドについて、深く想いを致すキッカケになった。

『フェイム・スタジオ・ストーリー』は、時間軸に沿って、ヒット曲を中心に並べられていたので、フェイム・サウンド(マッスル・ショールズ・サウンド)の“歩み”を楽しめた。

一方本盤は、未発表作品や別ヴァージョンを集めてある。だからと言う訳でもないだろうが、フェイム・サウンドを云々する以前の(もちろんフェイム・サウンドなのだが)、各アーティストの魅力が素の状態で出ている感がある。

例えばクラレンス・カーター「テル・ダディ」「トゥー・ウィーク・トゥ・ファイト」。ちょうどカーターの<フェイム>音源集を購入していたので聴き比べてみた。

http://diskunion.net/black/ct/detail/XAT-1245572527

世に出た物の方が、どちらも演奏の密度が高い。「テル・ダディ」のベースやホーン等、迫力満点。カーターの歌い口も「乗らされた」というと聞こえが悪いが、テンションが高い。「トゥー・ウィーク・トゥ・ファイト」も声に張りがある。

しかし、本盤のカーターにも味がある。先述のように「素の魅力」を感じ取れるのだ。哀切感で言えばこちらの方が強い。

演奏陣と歌手の丁々発止の絡みが南部ソウル(南部サウンド)の肝ではあるが、その骨格と成っている音世界を、本盤は教えてくれているのではないだろうか。練り上げていなくても、南部のおおらかさ、切なさ、熱さは十分伝わるのだ。アルバムはジョージ・ジャクソンのデモ録音「フォー・ユー」で終わっているが、この曲など特に飾っていないので同様の気持ちを強くした。

若干の蛇足。リック・ホールの言では、ジミー・ヒューズの「スティール・アウェイ」がマッスル・ショールズ・サウンドの始まりだと言う。当然『フェイム・スタジオ・ストーリー』の最初の方に収録されている。本盤には、同曲の3年後の67年版がフィーチャー。これがストレートなブルースでかなりカッコイイ。逆に素に戻したパターンだろうか・・・。

本文は、同じ頃に買った<サウンズ・オブ・メンフィス>の編集盤『ロスト・ソウル・ジェム』と並べてレビューしようかと思っていたが、分ける事にした。今回の分を書き進める事で、もう一方の魅力も見えてきた思いがする。どちらも優れた<エイス>仕事である。

http://diskunion.net/black/ct/detail/54CV120601702

♪Ralph "Soul" Jackson "You Really Know How To Hurt A Guy"
http://www.youtube.com/watch?v=TIsQUDi37JI

♪unknown "love changes a man"
http://www.youtube.com/watch?v=Sev74skHsFI

♪O.B. McClinton "Two Big Legs and A Short Red Dress"
http://www.youtube.com/watch?v=DrNZO5kAf5U

| | コメント (0) | トラックバック (0)

秋もよう

●朝は早いので、スーツの上着を着てちょうど良いぐらいになった。金木犀の香りの中で、空気がすっかり秋だ。リビングのエアコンは口を閉じ、自然な冷気の中で熱いお茶を啜るのが、なによりの和み。

●豚汁・だご汁の類が好きだ。この時期から食べる機会が多くなるので嬉しい限り。果物も、梨と柿が好物だ。シチューやおでんのCMには反応するし、鍋物の回数も増える・・・罪なる者、汝の名は食欲の秋。

●物事を納得するところから始める。納得はしても固執しない。それまでの自分を全否定する事態になっても、そこで納得するものが生まれていれば、次に進める。妥協ではなく納得。得心。難しいが、実はシンプルなのかも知れない。シンプルなのに、一生確定出来ないかも。でも、納得する姿勢を続ければ、自分なりの物の考え方(モノサシ)に気付いてくる。後は自信を持って測るのだ。実行しなければ手応えは得られない。考えなければ何も見えてこない。

♪The Beatles "Come Together"
http://www.youtube.com/watch?v=axb2sHpGwHQ

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年9月の読書メーター

9月の読書メーター
読んだ本の数:3冊
読んだページ数:778ページ
読んでた本の数:2冊
積読本の数:11冊
読みたい本の数:3冊

▼読んだ本
現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)
専門書の領域ではある。一般読者として捉えるポイントは、「情報」「消費」とも自分が求めている以上のものが現実社会には溢れており、混乱するというのが一点。さらに本書内でキーワードとして章立てされている「環境」「貧困」。こちらも、破壊する必要がないのに破壊している環境と、大国の思惑で、貧困化に追いやられている小国。別の言い方だと、経済的発展の闇の部分を活写している部分が理解しやすいし重要だ。毎日のニュース等でこれらのキーワードに着目できるようになっただけでも読んだ価値あり。
読了日:09月30日 著者:見田 宗介
台風の眼 (新潮文庫)台風の眼 (新潮文庫)
山河の遠景から、植物、虫、水滴まで、自然の事どもが、存在感、匂い、触感、色彩などを通じ細かく描写されている。そのせいか人物像が薄い。これは良い意味で非日常的な存在として惹きつけられる。時代背景も、占領下の韓国から敗戦後の田舎への疎開。旧制高校から大学へと変わりゆく「東大」時代。新聞記者としての戦時下のソウルやベトナム駐在。いわば舞台も非日常的。現実と異界のハザマをふらふらさせてくれる小説らしい小説。
読了日:09月16日 著者:日野 啓三
民族の世界地図 (文春新書)民族の世界地図 (文春新書)
大国支配の醜さが印象に残る。各民族の特徴を、次々と展開していくので飽きがこない。こういう知識は頭の片隅に置いておくべき。
読了日:09月09日 著者:
▼読んでた本
高校生のための批評入門 (ちくま学芸文庫)高校生のための批評入門 (ちくま学芸文庫)
著者:
群衆 - 機械のなかの難民 (中公文庫)群衆 - 機械のなかの難民 (中公文庫)
著者:松山 巌
▼積読本
うらおもて人生録 (新潮文庫)うらおもて人生録 (新潮文庫)
著者:色川 武大
日本の色を歩く (平凡社新書)日本の色を歩く (平凡社新書)
著者:吉岡 幸雄
米原万里の「愛の法則」 (集英社新書 406F)米原万里の「愛の法則」 (集英社新書 406F)
著者:米原 万里
二人がここにいる不思議 (新潮文庫)二人がここにいる不思議 (新潮文庫)
著者:レイ ブラッドベリ
槿 (講談社文芸文庫)槿 (講談社文芸文庫)
著者:古井 由吉
女と男  ~最新科学が解き明かす「性」の謎~ (角川文庫)女と男 ~最新科学が解き明かす「性」の謎~ (角川文庫)
著者:NHKスペシャル取材班
幸せな哀しみの話―心に残る物語 日本文学秀作選 (文春文庫)幸せな哀しみの話―心に残る物語 日本文学秀作選 (文春文庫)
著者:
絶対音感 (新潮文庫)絶対音感 (新潮文庫)
著者:最相 葉月
旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)
著者:湯川 秀樹
「声」の資本主義 ---電話・ラジオ・蓄音機の社会史 (河出文庫)「声」の資本主義 ---電話・ラジオ・蓄音機の社会史 (河出文庫)
著者:吉見 俊哉
取り替え子 (講談社文庫)取り替え子 (講談社文庫)
著者:大江 健三郎
▼読みたい本
地の果て 至上の時 (講談社文芸文庫)地の果て 至上の時 (講談社文芸文庫)
著者:中上 健次
モードの迷宮 (ちくま学芸文庫)モードの迷宮 (ちくま学芸文庫)
著者:鷲田 清一
原色の街・驟雨 (新潮文庫)原色の街・驟雨 (新潮文庫)
著者:吉行 淳之介

読書メーター

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年9月 | トップページ | 2012年11月 »