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【創作】涙という名のバー

涙という名のバーがありました

痩せて色の黒い女主人がおりました
いつも首をどちらかに傾け、タバコなんぞふかしています

涙という名のバーがありました

店ではシャンソンが流れています
ブルースだと心が騒ぐ、ジャズだと音を追っかける
気取っているようで温かい
シャンソンが似合う、場末の小さなバーでした

涙という名のバーがありました

男たちは辛そうな顔で、見栄を置いて帰ります
女たちは哀しい顔で、過去を置いて帰ります
止まり木だけの小さなバーでした

涙という名のバーがありました

愛想のない女主人に、何も喋らない客ばかりだけど
なぜか何度も来てしまうのです
何かを捨てるために
何かを捨てる自分に会うために

涙という名のバーが

ある日、無くなっていました
空き地になってました
もう、風さえ吹いていません

涙という名のバーがあった場所に看板が立っていました

「涙がずいぶん集まりました。みんなありがとう」

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