ブルースを支える空気感
●ジミー・ドウキンス『Kant Sheck Dees Bluze』<イアーウィグEarwig>(92)
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ナチュラル・ファズ・トーンとでも名付けたくなる、くすんだ音のギターが彼の第一の魅力だろう(タイトル曲は尖り気味だけど)。熟練の演奏陣に支えられ、縦横無尽に、しかし、性急な感じはなく、冷静なエモーションとでも言えるような大人の音世界を聴かせてくれる。こうなれば、ヴォーカルにさほど迫力が無い事も功を奏している。
70年代初頭、モダン・ブルースの重要レーベル<デルマーク>や<エクセロ>(英録音)で人気を博したジミー・ドウキンス。“ファスト・フィンガー”と呼ばれ、セッション・ギタリストとしても引っ張りだこの状況だった。
彼を<デルマーク>に紹介したのはマジック・サム。又、オーティス・ラッシュとも交流があったそうで、いわゆるモダン・ブルースの黎明期の空気を知る存在でもあるのだろう。彗星の如くポッと現れたというより、現れるべくして現れた、時代を繋いだブルースマンだと言えるかも。
80年代に入り、健康を害したものの<Leric>レーベルを立ち上げ、ブルースとの関わりは持ち続けていた。ただ、ミュージシャンとしての活動は不本意なもので、ほとんど伝説化される寸前での本作発表だった。
ブルースという音楽は不思議なもので、アマチュアでもブルースの空気感を表現出来れば、熱い感情移入が可能だ。逆に、プロでも滅茶苦茶な時がある。それだけに、一流ブルースマン・ウーマンの安定した表現力には感嘆するばかりだ。
テクニックは無視して良い訳ではないが、ブルース好きのツボを刺激する空気感をいかに表現するかという事こそ、重要な気がする。悪い例にして申し訳ないが、本盤2曲でヴォーカルを取っている女性シンガー、ノーラ・ジーン・ウォレスは、ソツなく歌っているのだが、今ひとつ心に響かない。私のツボを刺激しないのだ。
「ブルースは死んだ」と言われた時代がある。ブルースにも、時代に合った趣向が必要だという意見もある。私は、新感覚のブルースやブルース風味のロックも聴かない事はないが、結局、型崩れしていない、ブルースらしいブルースが好きだ。本盤は、90年代の「ブルース現在進行形」を捉えたシリーズの一枚として出されている。相も変わらぬ事をやっているようで、シッカリと時代を生きるブルースの姿を、本盤は見事に活写している。ジミー・ドウキンスの経歴とセンスが、ブルースファンをゾクゾクさせる空気感を生み出している。それだけの事だとも言えるが、それだけで十分なのだ。
ブルースを愛する人たちに捧ぐ。
♪kant sheck dees bluze
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