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2013年6月

原始の魅力

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●深沢七郎著『みちのくの人形たち』<中公文庫>(56)

民話や伝説、昔からの風習等は、たくましく大らかで、どこか秘密めいている。性的な事柄も開けっ広げで、公序良俗的モノサシは通用しない。また、非科学的な話でもどこか納得してしまう(したくなる)不思議な力がある。

深沢七郎が展開する物語にも、民話や伝説的フィーリングを感じる。プリミティヴで、奇妙で、エロチックなのだ。そして、底辺にはおかしみが流れている。ユーモアやギャグとは異質の、そら恐ろしさと背中合わせのおかしさである。陰に隠っているようで、あっけらかんとしているのだ。

文章に独特のリズムがあり、読みにくさを感じる場合もあるが、その「読みにくさ」が、田舎の訛りを連想させ、七郎ワールドへの関門を兼ねているように思える。

素材は、日本のローカル都市に限らず、架空の国の物語にまで拡がる。中には、訛りを超えて言葉自体が奇妙な感覚のものも在る。時間と空間、現実と幻想が自由に交錯し、読者はただ、愉快な刺激を享受するのみだ。   

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現実的物語世界

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●中上健次著『紀州・木の国根の国物語』<角川文庫>(78)

ルポルタージュならぬ文学作品だ。自身のルーツである新宮初め、紀伊半島を自らの足で回り、さまざまに考察した記録ではある。海や山や川といった大自然と共に生きてきた人たちの生活、根深く正体が掴みにくい差別問題、危険な山仕事や遠方への奉公や就職、身売り等きびしい人生の風雪が、読む者の姿勢を正させる。そもそも、中上健次自身が真っ正面に向き合っている。結果、事実・事物の言語化に苦闘している。そういう意味では、本書は、小説作品の皮を剥いで、ナマ身の、未整理の、事実・事物を見せられたようなリアリティーを感じる。読み取るのではなく感じるのだ。

また、訛りや、語りのトーンを正確に描写する事で、有り得ない言葉かも知れないが「現実的物語世界」が構築されている。話し言葉と書き言葉のミックスというのも重要なポイントだ。それは、小説の皮を剥いだ中身の、事実・事物に薄い膜が掛かっている状態に思える。

中上健次曰く、事実・事物は存在そのもの。特に、大きな問題として横たわる差別問題に象徴されている。文学的表現や哲学的思考のレベルとは違う所で、彼は苦闘しているのだ。

紀伊半島は、熊野古道で有名なように、神話や伝説のイメージに繋がりやすい。本書でもその辺りは想起されるが、それより、孤立しやすい「半島」に住む人々の暮らしの翳りが重みを持って強く伝わってくる。いや、古代日本に繋がる部分が有るからこその「翳り」だろうか。

結局、本書で、事実・事物に関する、何らかの結論は得られたのか。それとも結論付ける類いのものではないのか。

私は、中上健次の苦闘の後を垣間見た、それだけで十分な気がする。彼は何かの答えが欲しくて紀州を経巡ったのではない。回答を導けばルポルタージュだ。本作は、読者自身に、お前も考えてみろよ、感じてみろよ、と提示する・・・やはり、文学作品だ。   

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うたえやうたえ

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●琵琶デュオ『琵琶デュオ』<江戸前>(13)

http://www.biwa-mizushimayuiko.com/cd%E8%B3%BC%E5%85%A5/

琵琶演奏家の後藤幸浩さんと水島結子さんのユニット。流派が違い、使われる琵琶も異なる。各々の特長がどう活かされているのか分析するのも面白いだろうが、私にはとても無理。また、琵琶演奏の歴史的背景や、演目に関する知識が有れば、本盤をより適切に“批評”する事は可能であるが、知識に拘るより前に、お二人の“意気”を感じ取り、創られた世界に浸った方が楽しさを満喫できる。

倍音効果による拡がりと、独特の“揺らぎ”を持つ琵琶の音色に、語り、歌、台詞が入れ替わり立ち替わり絡むと“和のグルーヴ”と名付けたくなるダイナミズムを生む。

“和のグルーヴ”とは、日本人に伝わりやすいグルーヴという意味で考えてみた。それは、七五調であったり、掛け声や合いの手のタイミングだったり、昔の日本語が持つリズムだったりする。日本の伝統芸能だから当たり前でしょという意見もあるだろう。確かに一理有り。ただ、琵琶デュオに関して言えば、現代の感覚がフィーチャーされた結果の“和のグルーヴ”だと思料する。だから現代人に伝わるのでは?・・・古典的な伝統芸能を知らない身としては、ここまでしか推測出来ない。

以下、各曲(演目?)毎の感想。

「信徳丸」は、継母に呪いをかけられ盲目となるが、愛の力で救われる話。ライナーを読めば筋は理解できる。しかし、いきなり、演奏・語りを聴き始めても、大方伝わる。あら筋が解るというより、物語の悲しさ、恐ろしさ、喜び、無常感が十分感じ取れるのだ。

間に「予告編」を挟み、大きく二段(2トラック)に分けてある。各々のクライマックスはやはり強く惹き付けられる。

前段の呪いの場面や、後段の、乙姫が愛しい信徳丸を探し回ったり、彼女の為に別れようとする信徳丸を、半ば強引に連れて行く場面等、琵琶の共演、語りや台詞のやり取りで、心がざわめく。

「信徳丸」以外の曲(演目?)は、ミキシングも含め「遊び」の部分を多くしたとの事。琵琶語り・演奏の伝統的な魅力を十分活用した上での革新だ。変わりゆく変わらぬもの。和のグルーヴ。

「うたえやうたえ」は、汎アジア的にも聴こえるし、「風流」を歌にしたようなイメージも湧く。ここで言う「うたえ」とは、詩情を抱けという意味ではなかろうか。

「うた」は歌とも詩とも書く。①「語り」と②「うた」はかなり近い位置にある。③文章(書き言葉)は、それから距離をおく。極端な話、文字がなくても①②は成り立つのだ。音楽や芸能の本質的ライブ性にも想いは至る。「語り」「うた」だからこそ、技巧以前のプリミティブな詩情が映える。幽玄的な琵琶の音も、詩情を掻き立てる一要素だ。

技巧の前に詩情あり。だから、ド素人にも伝わるのだ。もちろん、演奏家側から考えれば、詩情溢れるテクニシャンでなければ、通用しないだろう。

「平家蟹」や「月の舟」にも強い詩情を感じる。聴いていて、うたを愛でている自分を感じる。「五木の子守唄」は、よりフォークロア的で、しかもフリー・フォームだ。寝た子も起きる興奮度。

本盤の適切なレビューとはならなかったが、個人的に和のグルーヴや詩情について想いを巡らすキッカケを頂いた。

日本人なら誰しも、何かを感じるアルバムなのは確かだ。

♪"うたえやうたえ"

http://www.youtube.com/watch?v=gRVC4JYrVP0

♪"五木の子守唄"

http://www.youtube.com/watch?v=adVGlC27KxM

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ソウル・イズ・アライヴ!

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●Rockedge&beetnic『ソウル・ミュージック・ラヴァーズ・オンリーvol.3』<マジックスティック>(11)

http://locosoul.net/?pid=54783218

横須賀の老舗ソウル・バー『カスタム』の、30周年を祝してリリースされた本シリーズも3作目となる。お店のオーナーのshunさんとはmixiでの知己でもあり、私自身あまりヒットしたソウル曲を知らない事もあり、買い求めたのがキッカケで、3作共揃えた。最早、純粋に、このシリーズが気に入っている。

今回は80年代の曲で固めてある。ライナーを読むと、UKとNYが多い。ルーラル志向の強い私には、やや敷居が高い面もある。また、電子音が主流なので、ミックス手法の基本と成っている打ち込みサウンドに自然と馴染む。何度も書いているが、私は打ち込みが苦手である。ただ、全面的に拒否する訳ではない。自分なりの仕分けラインは、昔のビートの延長線上にあるかどうかだ。

本シリーズのサウンドは乗れる。題材が80年代でも関係ない。シリーズ・タイトルにも謳ってある通り、先ずクリエイター側が、ソウル・ミュージックを正しく深く愛しておられるからだ。どんな年代の曲でも“ソウルフルな部分”を抽出する手腕に長けているのだろう。

ルーサー・ヴァンドロスやアレクサンダー・オニールといった、解りやすい、王道の継承者だけでなく、マイケル・ジャクソンのスパイシーなシャウトや、オラン“ジュース”ジョーンズの軽み、ラリー・ブラックモンの粘り気なんぞも“ソウルフルな部分”だ。

軸のぶれない流れの中では、苦手だったソウルⅡソウルや、普段だったら先ず聴かないグローヴァー・ワシントンJr.も心中に沁み込む。自分の耳範囲の狭さに、またもや気付かされるのだ。

デレゲイションやスレイヴなど、興味は有ったが未聴のアーティストも、感じが掴めて良かった。

シリーズも3作目になると、お二人がよく使われる繋ぎのフレーズ等も覚え、そういう意味でも楽しめる。是非、4作目もお願いします。さぁ、次はどこへ行くか?個人的にはあれこれ考えるが、それを書くのは無粋というもの。まっさらな気持ちで、新しい出逢いを待つ。

♪試聴用
http://www.youtube.com/watch?v=2ah0ppyyvwo

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現在(いま)を視つめるから先が読める

●月曜日に休暇を取った翌日から腰痛が和らいでいる。血流が良くなったのか、血圧も下がってきた。新しいCDもだいぶ仕入れたし、気分は快調である。

●娘も快調に通勤している。何しろ、会社の雰囲気が良いらしい。住宅街でのビラ配りもしているが、暑さに文句は言っても仕事の愚痴は出て来ない。今回の職場は、大学新卒者で就職出来なかった者を対象にハローワークが斡旋したもの。3ヶ月働いて、そのまま其処で続けるか、別の職場へ異動するか検討されるらしい(インターン感覚)。企業側も、4月採用だと登録事務が煩雑らしく、敢えて6月採用の形を取っている所も多いらしい。世の中色々だ。娘としては一生懸命働くのみ。

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●藤原新也著『僕がいた場所』を読んでいると、著者の先見性に感心すると同時に、社会の暗黒面の提示に愕然とする。藤原さんには世界各国を歩いた経験と、違和感を感じたモノを徹底して視つめ考察する、行動力や洞察力がある。「自然や他者と共存してこそ人間」という“基本原理”が頁を繰りながら念頭に浮かぶ。

●先読みは誰でもするが、現実の把握は、得てして疎かになりがちだ。

♪The Rolling Stones "Dead Flowers"
http://www.youtube.com/watch?v=RS_yyRk_dj8

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DNAのバラード

●ぬか喜びになるのも厭なので、あまり公表したくない気もするが、就職浪人中の娘の勤め先が決まった(あくまで試用)。小さな旅行代理店だ。仕事内容もパターン化しているので、覚えてしまえば大丈夫だと先方の言。入社も一人ではないので、心強い。良い面ばかりを上げても、正確さに欠けるのは解る。しかし、親としては、どうしてもコトが上手く運ぶ方向に考えを持っていきたくなる。心配し出したらキリがない。

●私自身も、すんなりと就職が決まったクチではない。娘の一連の就職活動をつぶさに知っている訳ではないが、不器用さや気配りの足りなさといった私譲りの欠点が出たのではと邪推する。つまらない見栄が有った私は、真摯な努力と熟慮を怠り、仕事の意義や進め方、人間関係の綾などに気付くのに随分時間が掛かってしまった。娘には少しでも早く気付いてほしい。自分の経験を話す事は出来るが、結局は自分で気付かなければ実にならない。よく、目からウロコが落ちるというが、キッカケになる事柄は有っても、実際にウロコを落とすのは自分自身である。なぜなら、ウロコを貼り付けたのも自分だからだ。

♪DeeDee Warwick "More Today Than Yesterday"

http://www.youtube.com/watch?v=RozUrRZ_1Ik

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ブラックフットのブラック・フィットネス

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●J・ブラックフット『フィジカル・アトラクション』<サウンドタウン>(84)

http://www.discogs.com/J-Blackfoot-Physical-Attraction/release/1700955

伝説的なソウル・ユニット、ソウル・チルドレンを雄々しく牽引していたJ・ブラックフット。ソロになってからも、11年に亡くなるまで印象深い作品を残し続けた。ハード・シャウトの勢いは衰えても、心に届く感動の量は変わる事がなかった。

本盤は、名曲「タクシー」を含む『シティ・スリッカー』(初ソロ作)の後に出された作品。オーソドックスな前作に比べ、微妙に変化が付けてあり、これはこれで面白い。

オールド・ソウルの領域で、サム・ディーズと並ぶ名コンポーザー、ホーマー・バンクスが全面的にフォローしていて、演奏陣もかなりの手練れ揃い。80年代特有のピコピコ音も関わりはするが、基本的には60年代後半~70年代初期、正にソウル・チルドレンのムードを引き摺っており、オールド・ソウルファンの胸を熱くする。

2曲目は「タクシー」のパターンを踏襲しているが、二番煎じとは言いきれない出来の良さ。いかにもソウル・チルドレンがやりそうな3曲目や、サム&デイヴの6曲目は抜群の乗りの良さ。或いは、ボビー・ウォーマックの「ザッツ・ザ・ウェイ・アイ・フィール・アバウト・チャ」に、曲調もタイトルも似ている5曲目で聴かせる哀切感は、終始変わらぬブラックフットの魅力だ。ラストはタイトルもそうだが、アフリカの大地を連想させる。西インド諸島の民謡(宗教歌)だそう。ピート・シーガーらもカバーしている。ソウルの基本となるゴスペルの根っ子みたいなものを感じる。

ブラックフットのアルバムが出る度に、オールドソウルファンは、自分達の拠り所を再確認しただろう。本盤のタイトルは性的な意味合いがあるそうだが、私には、彼とファンとの密接な関係を暗示しているようにも思える。まだまだ、ソウル・フィーリングを失わないベテランは沢山いるが、ブラックフットは最後までイキイキしていただけに、喪失感も大きかった。

♪"Hiding Place"

http://www.youtube.com/watch?v=aHtup7u2pT0

♪"I Don't Remember Loving You"

http://www.youtube.com/watch?v=JhYl-afD4sE

♪"Don't You Feel It Like I Feel It"

http://www.youtube.com/watch?v=-lC4VVsVEuo

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2013年5月の読書メーター

2013年5月の読書メーター
読んだ本の数:2冊
読んだページ数:524ページ
ナイス数:22ナイス

紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)感想
彼の小説作品の表皮が剝がれ、骨や内臓が見えた思い。表現を尽くすばかりでなく、事実・事物の厳然とした存在感に思い悩む姿をさらすのが、とても切ない。正直な作家だ。
読了日:5月27日 著者:中上 健次
命日 (小池真理子 短篇セレクション―幻想篇)命日 (小池真理子 短篇セレクション―幻想篇)感想
恐怖感を味わう作品でも、ただ単に異形の者(死者)を恐ろしい存在として描いていない。底辺に、愛着とは少し違う「せつない気持ち」が常に流れ、人生のはかなさを思い知る。これも「もののあはれ」の一つだろう。小池さんは、タイプの違う小説ごとに文体を変えておられるそうだ。今回初めて彼女の作品を読んだので、また別のタイプのものを読んでみるか。
読了日:5月4日 著者:小池 真理子

読書メーター

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5月の音楽メーター

5月の音楽メーター
聴いた音楽の枚数:3枚
聴いた時間:34分

City SlickerCity Slicker
聴いた日:05月28日 アーティスト:J Blackfoot
ビートルズ・フォー・セールビートルズ・フォー・セール
15番抜き。2013.5.11 ブックオフ渡鹿店にて購入。
カントリー~ロカビリーの影響を強く感じる。それにしてもオリジナル曲は鉄板。カバーが邪魔にさえ思えることも。ビートルズって、代表曲を集めた盤か、後期の盤がどうしても親しみがあるが、初期のオリジナルも味が有る。名盤も良いが、佳作の良さってのも捨てがたいよね。
聴いた日:05月14日 アーティスト:ザ・ビートルズ
Stooges (Dlx)Stooges (Dlx)
2013.5.11 ブックオフ渡鹿店にて購入。
ドアーズ(ジム・モリソン)の影響大という一般的な評価に納得。イギー・ポップの高い芸術性を窺わせる局面もあるが、私の好みから大きく外れる部分もある。
聴いた日:05月13日 アーティスト:Iggy Pop

わたしの音楽メーター
音楽メーター

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