大人の涙
●映画『風立ちぬ』
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大人を対象にしたアニメ映画と謳っている。戦争や悲劇的な死を主題にしているという側面はあるだろう。だが、根本的に、大人でなければ理解が難しい機微が表現されている点が大きいと思う。
主人公・二郎の「飛行機を設計したい」という純粋な気持ちは、夢の中で憧れの設計士と度々出逢う場面等に表れている。常に驚きと楽しさに溢れる世界。それは、二郎が持ち続けている心根だ。
一方では現実問題として、性能の良い爆撃機を造ろうと苦闘する。しかし、どんなにハードな状況になってもめげない。“夢”があるからだ。それにしても「一体日本はどこと戦争するんだい」と問うのはある意味切ない。
ストーリーのもう一つの軸は、愛する女性の死だ。いや、死ではなく、生きた時間の深みだ。結核で病弱な菜穂子との出逢い、仲睦まじく交流するシーン、夫婦となってからの、何気ない愛の交歓、いずれも印象的に描かれている。この辺りも、ある程度の人生経験を持つ方が身に沁みるはずだ。
背景のディテールも、一定以上の世代に訴えかける。木造住宅、土の道路、夜の暗さ、街灯の仄かな明るさ、柱の角のすり減り方、工場の窓の汚れやトタンの錆まで、詳細に描かれている。これらが自分の過去の風景とリンクするのは、やはり“大人”だろう。
ラストシーンを語るのは控えるが、静かに涙腺を刺激してくる。それは、悲しみの涙ではなく、清々しい涙だ。
「夢を持ち続けること」と「人を愛すること」。メッセージは確かに伝わってきた。
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