« 2013年11月 | トップページ | 2014年1月 »

2013年12月

愛すべき精霊

31drfgbrtul__sx230_
●湯浅学著『ボブ・ディラン~ロックの精霊』<岩波新書>(13)

http://book.akahoshitakuya.com/b/4004314534

ボブ・ディランの足跡を丹念に辿り、彼の人物像や音楽哲学を明らかにした一冊。彼のファンでなくても興味深く読める。

ディランは、60年代初頭から現在に至るまで、人々の心に残る音楽を創り続けている。沈黙した期間も有ったが、必ずや次のステップに実を結ぶような沈黙だ。

カリスマ性の強さや、他人を煙に巻くような発言が多いせいで、気難しくてミステリアスな印象を持たれやすい。しかし、実際は、ロックンロール精神、パフォーマー精神に長け、ライヴ好きだ。また、音楽で自己表現する為に必要な知識や技術を得る事に貪欲で一途である。「カリスマ」という言葉が空疎に思えるほどに、人間臭く、根っからの音楽好きの男なのだ。

湯浅さんは「精霊」というキーワードを上げておられる。その言葉が導き出される展開は、本書で最も圧巻な部分なので、そこを説明したら余りに無粋だ。但し、これから頁を開く方は、冒頭から「精霊」を意識して読まれるのも有りだと思う。

ディランの曲創りは詩を書く事から始まる。言葉が浮かばなければ敢えて前には進まない。「詩」は現実を抽象化するイメージがある為、「精霊」云々も頷けそうだが、そういう超人類的な精霊を湯浅さんは指していない。私は人間臭いと表現したが、民俗的というか、人類の営みから自然発生的に生まれ出る真実を、詩的言葉と音楽表現で表す精霊、それこそがボブ・ディランだろう。愛すべき身近な精霊なのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

答えは風に舞っている

●長く続いたしつこい咳が治まったら、今度は歯が痛くなってきた。小さくとも“ブルース”は常に抱えるというのが私の愚論だが、自分勝手な話ではある。トラブルを招いているのは、結局自分自身なのだ。

31drfgbrtul__sx230_

●湯浅学著『ボブ・ディラン~ロックの精霊』から。ディラン登場時のフォーク・ソング界は、政治や社会問題を批判する「トピカル・ソング」が主流だった。「風に吹かれて」は、世事を超え、人間の普遍的命題を歌った曲だ。そこが当時としては新しい。新しい故に誤解もされやすかった。

●「いくつ耳を持てば、民の嘆きは聞こえるのか?」「何人死ねば、あまりに多くの人が死にすぎたとわかるのか?」等と問いかけを重ね、「その答えは、友よ、風に舞っている」と結ぶ。湯浅さんによれば、この曲は世相を糾弾しているのではなく、人間のやるせなさの基盤である虚無的感情を描いたもの。この歌の何故に対して、答えを安直に出そうとする人間をこそ信じてはいけない。問い続けることが必要なのだ。

●それらを踏まえて私が思う「風の中の答え」とは。風は身近にありながら実体がない。“感じ取る”ものだ。他人の意見を鵜呑みにせず、自分自身の、自然な考えで真実に近付け、と教わっているのではないだろうか。本書はまだ途中までしか読んでいない(『セルフ・ポートレイト』がリリースされる直前)が、ここまで読み取ったディランの生き方自体と見事に重なる。やはり、哲学は、人それぞれの生き様に準じて創り上げられるものだ。だからこそ、人々の生き方の共通項ともなるのだ。   

| | コメント (0) | トラックバック (0)

普段着の人生論(もしくは、普段着の愛)

410pxrondkl__sx230_


●色川武大著『うらおもて人生録』<新潮文庫>(84)

http://book.akahoshitakuya.com/b/4101270023

「若者に向けて人生を語る」書。ざっくばらんな喋り口調だが、説得力は抜群。経験の重みから出てくる言葉や考えだからだろう。

子供時代から、異性だろうが同性だろうが、人を愛する気持ちが強い人だった。結局、人間が社会の中で生きる基本は、人間の営みを愛おしく想うかどうかだ。ハリウッド映画じゃないけれど、やっぱり愛は強いのだ。「愛」という言葉が大きいなら、「公平さを保つ」と言い換えても良いだろう。

普遍的愛を背景として、重要なポイントを色川さんは上げていく。●世の中「全勝」は有り得ない。九勝六敗なら御の字。大抵は五分五分で推移している。●自分の好きな事が見つからなければ、出来ない事から削除していく。出来る事なら、好き嫌いは別として一生懸命やる。●周囲をよく観察する。●致命的なものはダメだが、短所は無理して直そうとせず持ち続ける。等々。

若者だけでなく、私のような中高年にも深く響く言葉だ。しかも、額に飾るような言葉ではなく、普段着で発せられたもの。それだけに、とても気持ちが温かくなる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年11月の読書メーター

2013年11月の読書メーター
読んだ本の数:2冊
読んだページ数:617ページ
ナイス数:24ナイス

世の中それほど不公平じゃない 浅田次郎 最初で最後の人生相談世の中それほど不公平じゃない 浅田次郎 最初で最後の人生相談感想
色川武大さんの『うらおもて人生録』と平行して読んでいたので、どちらに書かれていた事か混乱した経緯も。人生への金言は似たようなものなのだろう。人生相談て、質問者への回答の形を取りながら、読者の思いに響くようなものかと。雑誌の企画だけに、現代人の「悩み」も浮き彫りにされる。贅沢な生活は、贅沢な悩みを生み出している感も。
読了日:11月18日 著者:浅田次郎
うらおもて人生録 (新潮文庫)うらおもて人生録 (新潮文庫)感想
若者に向けて語りかけるというシチュエイションの為、読み進めやすい。所詮、人生は五分五分、九勝六敗に至れば御の字。致命傷にならない短所は抱えたまま歩む。示唆的なフレーズがユーモアのオブラートに包まれ、心に溶け込んでゆく。結局、話の冒頭の「他人を愛すること」に集約されるのかな、人生て。
読了日:11月17日 著者:色川武大

読書メーター

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年11月の音楽メーター

11月の音楽メーター
聴いた音楽の枚数:5枚
聴いた時間:274分

ニュー・ヨーク・ブギ~シッティン・イン・ウィズ/ジャックス・レコーディングス 1951-1952ニュー・ヨーク・ブギ~シッティン・イン・ウィズ/ジャックス・レコーディングス 1951-1952
2013.11.23 蔦屋書店三年坂店にてレンタル。
ライトニンはブルースそのものだ。表現ではなく体現。これはファンの共通認識。ジョン・リー・フッカーに敬意を表し、彼のスタイルに近い曲もあるけど、それもやはりライトニン節だ。チャーリー・パーカーにはチョロっと吹いただけのテイクも網羅したアルバムがあるがライトニンもそれができそう。
聴いた日:11月28日 アーティスト:ライトニン・ホプキンス
ピース・オブ・マインド〜ザ・ベスト・オブ・ケント&ロン・レコーディングスピース・オブ・マインド〜ザ・ベスト・オブ・ケント&ロン・レコーディングス
2013.11.23 蔦屋書店三年坂店にてレンタル。
サム・クック直系のソウル・マナーを愉しむのも良いが、ハイトーンに切り替わる部分も味がある。ブルースもバッチシ。彼自身が根っからのソウル・ファンなんだろうなあと思える真摯な歌唱だ。
聴いた日:11月25日 アーティスト:クレイ・ハモンド
スターティング・オール・オーヴァースターティング・オール・オーヴァー
ツボにはまった所の歌唱は流石。演奏は後の「スタッフ」メンバーで、彼の魅力が十分生かされている。
聴いた日:11月17日 アーティスト:フィリップ・ウィン
マジック・オブ・ザ・ブルーマジック・オブ・ザ・ブルー
テッド・ミルズのファルセットは、思わずモーメンツ座りをしてしまいそうな甘茶度の高さ。MFSBのノーマン・ハリスやボビー・イーライが音創りに関わっており、ソツがない。デビュー盤がどうしても絶対的人気だが、本盤もかなり酔える。
聴いた日:11月02日 アーティスト:ブルー・マジック
ザ・ソウル・オブ・ベルザ・ソウル・オブ・ベル
一般的にはビッグネームではないのだが、ディープ系のソウルの手本となるムードに満ちている。スタックスのスタイルも彼に負う所が大きい。私は滅多に人には押し付けないが、これは買いましょう!
聴いた日:11月01日 アーティスト:ウィリアム・ベル

わたしの音楽メーター
音楽メーター

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年11月 | トップページ | 2014年1月 »