愛すべき精霊
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ボブ・ディランの足跡を丹念に辿り、彼の人物像や音楽哲学を明らかにした一冊。彼のファンでなくても興味深く読める。
ディランは、60年代初頭から現在に至るまで、人々の心に残る音楽を創り続けている。沈黙した期間も有ったが、必ずや次のステップに実を結ぶような沈黙だ。
カリスマ性の強さや、他人を煙に巻くような発言が多いせいで、気難しくてミステリアスな印象を持たれやすい。しかし、実際は、ロックンロール精神、パフォーマー精神に長け、ライヴ好きだ。また、音楽で自己表現する為に必要な知識や技術を得る事に貪欲で一途である。「カリスマ」という言葉が空疎に思えるほどに、人間臭く、根っからの音楽好きの男なのだ。
湯浅さんは「精霊」というキーワードを上げておられる。その言葉が導き出される展開は、本書で最も圧巻な部分なので、そこを説明したら余りに無粋だ。但し、これから頁を開く方は、冒頭から「精霊」を意識して読まれるのも有りだと思う。
ディランの曲創りは詩を書く事から始まる。言葉が浮かばなければ敢えて前には進まない。「詩」は現実を抽象化するイメージがある為、「精霊」云々も頷けそうだが、そういう超人類的な精霊を湯浅さんは指していない。私は人間臭いと表現したが、民俗的というか、人類の営みから自然発生的に生まれ出る真実を、詩的言葉と音楽表現で表す精霊、それこそがボブ・ディランだろう。愛すべき身近な精霊なのだ。
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