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2014年3月

夕暮れソウル

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●クラレンス・カーター『ザ・フェイム・シングルス・ヴォリューム2:1970-73』<フェイム/ケント・ソウル>(13)

http://diskunion.net/portal/ct/detail/50Y131001109


私が購入したのは<Pヴァイン>による英文解説対訳付き直輸入盤。

クラレンス・カーターの「パッチズ」を聴くと、夕暮れの田圃を連想する。因みに、シャイ・ライツの「オー・ガール」も。この2曲は、私がまだ「黒人音楽」に関する知識がゼロだった頃、(おそらく)ラジオで聴いて、心に残っていたものだ。中学生の頃(70年~72年)だったろう。

私が通っていた中学校は、周囲が田圃だったので、曲のイメージと風景のイメージを、ほぼ無意識に重ねていたのかも知れない。今の時代は、夜間でも明るい場所は沢山ある。昔の、しかも子供にとって、夕方は一日の対外的活動の終わりだ。あとは、灯りのある自宅で過ごす・・・夕暮れは、一日の終わりを惜しむような、もの淋しさを誘う時間帯だった。

本盤は、クラレンス・カーターの<フェイム>仕事・第2集だ。第1集は、彼がソウル・シンガーとしての地歩を固めていく様子が粛々と伝わってきた。それに比べて第2集は、一曲目の「パッチズ」がいきなりピークで、中々その壁を乗り越えられない忸怩たる思いが、拭い切れない。クラレンス・カーターらしさは出ているのだが、逆に自身のパロディーをやっているような、もどかしさを感じる。とはいえ、一曲一曲を取り上げるとそんなに悪くはない。2曲目とか9曲目とか。また、新しい試みも為されている(首尾よくいったかどうかは別として)。

そうこうする内に、<フェイム>の総帥リック・ホールと配給会社の<アトランティック>の仲は最悪となり決別に至った。<フェイム>も“夕暮れ時”を迎えたのだ。

しかし、カーターは夕陽のように沈まず、新たな一日を迎える事が出来た。リックが<UA>と配給契約を結んだのを契機に心機一転。名手オリヴァー・セインが手がけた本盤13曲目「バック・イン・ユア・アームス」で変わる。演奏のソリッドさからしてひと味違い、カーターらしさを失わずに、新境地に至っている。まさに「変わりゆく変わらぬもの」の実践だ。続いて、NYのJ.R.ベイリー等のプロデュースを得てリリースした15曲目は、ニューオーリンズ調で展開し、カーターが本来持つイナたさを十分に生かした。さらには、ニューオーリンズ・クラシカルの「マザー・イン・ロウ」までカバーしている。

遂に「パッチズ」に代表される、自分自身の呪縛から逃れた。ニューオーリンズ・サウンドは、カーターに似合い過ぎている。「マザー・イン・ロウ」は、彼のオリジナル曲みたいに実にシックリ来ている。

新生クラレンス・カーターは、18曲目「シックスティ・ミニッツ・マン」でひと山築き、現在まで堂々の活動を続けている。

終盤近い21曲目にジョージ・ジャクソン作の典型的サザン・ソウルを配するが、自分にチャンスを与え育ててくれた<フェイム>への親しみを込めた回顧に聴こえる。そして、夕暮れを迎え自宅で過ごすような、ヒューマンな温かみを感じる。

♪"Patches"

http://www.youtube.com/watch?v=IvfsfS6NVUc

♪"Scratch My Back"

http://www.youtube.com/watch?v=-iiugneEUSU

♪"Sixty Minute Man"

http://www.youtube.com/watch?v=jNRf8gllhNQ

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センチメンタル・ファンキー・マン

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●シル・ジョンソン『ダイアモンド・イン・ラフ』<ハイ>(74)

http://diskunion.net/portal/ct/detail/54C120327705
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冒頭、枯れた音のピアノが奏でられ、やや意表を突かれるが、直ぐにソウル・ミュージック満開の世界となる。但し、印象的なピアノは所々で蝶のように舞う。ヴィリー・ミッチェルのセンス披露の一端だ。

シル・ジョンソンの最大の魅力がファンキー・ソウルに有るのは、言わずもがな。本盤でも十分堪能出来る。<ハイ>はもちろんメンフィスだが、元々泥臭さより洗練されたものを感じる。シカゴ育ちのシルとコラボしたことで、グリッティーさよりも、シカゴ・ソウルらしい洒脱さを強く感じる。

とはいえ、どこかクールには成りきれない人間臭さを感じる歌手だ。ファンキー系ではないが4曲目のバラード。サビの部分の裏声が、切なく絞られ、何とも言えない味わいになっている。懸命さが伝わる。甘茶のドリーミーさとは、違う角度から鳥肌が立つ。さらに、淡々とした女性コーラスが菩薩的に包み込んでいる。

3曲目や5曲目の、現代のインディー・ソウルに繋がるような明るさも痛快。 7・8・10曲目はブルース。8が好きかな。

私は、リトル・ジョニー・テイラーやテッド・テイラーといった、高い声のソウル・シンガーは好きな方だ。シルもその系統にある。朗々と歌い上げていない所に、独特の切なさや潤いを感じるのかも知れない。

♪"Let Yourself Go"
http://www.youtube.com/watch?v=eYiJ8Xon5BA

♪"Could I Be Falling In Love"
http://www.youtube.com/watch?v=eGbxF1eq8jo

♪"Please, don't give up on me"
http://www.youtube.com/watch?v=F9Niz6hbT3Y
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感情表現としての音楽

※3月10日~3月15日の間に聴いたアルバムを「音楽メーター」に登録済み。コメントを加筆修正して転記します。

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●タワー・オブ・パワー『バック・トゥー・オークランド』<ワーナー>(74)

個人的にはどうも今ひとつ。音数が多すぎる。ヴォーカルのレニー・ウィリアムズは好きなタイプだが、彼の歌ぢからで静かに盛り上がる所をストリングスが煽ったりとか。他もテクニシャン揃いだけにガンガン弾きまくっている。そこが私の好みではない。無性にミーターズが聴きたくなった。

音楽においてテクニックは重要ではある。しかし、第一義的なものではない。もちろん好みの問題だろうが、歌い手や演奏者の思いは技巧より表現力で伝わるものだと思う。

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●ボブ・ディラン&ザ・バンド『ザ・ベースメント・テープス』<コロムビア>(75)

ストーンズの『メインストリートのならず者』に似ている印象。同じ宅録ではあるが。本質的には、ハンドメイド感覚とか仲間内のセッション感覚とかを強く感じる。ディランが交通事故で隠棲中の作。 音楽活動を休止しているタイミングでこれらの作品を録音したのは、結果良かったのかも。充電と呼ぶに相応しい。

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●アル・グリーン『リヴィン・フォー・ユー』<ハイ>(73)

アル・グリーンはピアノ線だ。とても細いが力強い。甘茶系とは違う角度から、ソウル・ミュージックの美しさを知らしめてくれる。ゴスペルライクな「アンチェインド・メロディー」もイイネ!

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●アート・ブレイキー他『バードランドの夜Vol.1』<ブルー・ノート>(54)

素晴らしい!ジャンプ・ブルースが好きなのでバップ系のジャズは素直に入ってくる。夭折の天才クリフォード・ブラウンも凄い、ルー・ドナルドソンも凄い、そしてブレイキー御大も凄い!これは買わなきゃ損をするアルバム。

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●インディア・アリー『Testimony 2: Love & Politics』<ソウルバード/ユニヴァーサル>(09)

この人の立ち位置も面白い。フォークを感じたり、ワールド・ミュージックを感じたり、リッキー・リー・ジョーンズ風SSWを感じたり・・・。そして全てのベースとして現代R&Bの王道(即ち旧ソウル感覚)がある。トレンドに色目を使わない所が大正解。

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レディー・シンガー・オブ・ゴールド

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●フリーダ・ペイン『バンド・オブ・ゴールド』<インヴィクタス>(70)

http://diskunion.net/portal/ct/detail/54C050915289
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評判通りの好盤。滑らかな歌い口はバックとよく絡み、過不足のない音世界を創り上げている。曲の中でギア・チェンジする場面も、自然に無理なく声が出ており、聴いていて気持ち好い。声質も、囁き状態でもシャウト状態でも潤いを帯び、女性シンガーならではの魅力に溢れている。

ミディアム・テンポのタイトル曲から引き込まれる。③は、ほど良いストリングスも印象に残る、ワイドレンジな曲。広さも深さも感じる。これが一番好きかも。⑤シンコペーションが効いている。トミー・ヤングの影。⑥⑦とゆっくり目の曲が続いた後に、⑧少し沈んだ感じの出だしから盛り上がるバラード。ややキャンディ・ステイトン調。⑨でまたアップ。声を張り上げる局面が特に多いが、圧巻のヴォーカル・コントロールを聴かせる。⑩少し興奮を冷ますかのように、泣き濡れ気味の歌い口。⑪再びトミー・ヤングの影からポップスの匂いもチラリ。

大体において<ホットワックス/インヴィクタス>作品は、キャッチーというより、聴けば聴くほど味が滲み出てくるスルメタイプだ。本アルバムの曲順をみても、同系統の曲が並んでも、微妙に表情を変えている所等が味わい深さに繋がっている。

H=D=Hが、<モータウン>ライター・チームの座を離れ、創りたかったのは、シュガー・コーティングを剥がしたモータウン・サウンドだったのかも。その為には南部サウンドへの接近も考えられるが、其処にドップリ浸かってもいない。ノーザン系の明るさ・テンポの良さと、南部の湿り気を折衷させている所がニクイ。

♪"Band Of Gold "

http://www.youtube.com/watch?v=rIDeK7bVfUk

♪"Deeper & Deeper "

http://www.youtube.com/watch?v=47d2Z7uSbvQ

♪"Unhooked Generation"

http://www.youtube.com/watch?v=fPo-MkweSNg
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哲学を語る姿勢ではなく、高校生の為を思う姿勢が先に立っている。

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●手島純著『高校教師が語る16歳からの哲学』<彩流社>(14)

http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-1977-4.html

哲学の入門書でもあるが、知識の垂れ流しではない。何より、高校生が興味を持ち理解出来るように、ポイントを浮かび上がらせている。ポイントとは、人生を歩む時、世間的流れに流されるだけで終わらぬよう、自分の気持ちに打ち込む楔だ。そういった意味では、流されかけている大人より、高校生の方が共鳴するものが多いかも知れない。

ソクラテス→プラトン→アリストテレスといった、哲学の基本(物事を考えるのに忘れてはならない基本)。三大宗教から学ぶもの。一見無縁に思えるマルクス。ニーチェやサルトルといった近代哲学のビッグネーム。カテゴリーの選択基準からも「哲学」の事より「高校生」の事を考えたラインナップと言える。

自分の頭で考える事は難しい。しかし、別に論理立てる必要はないと思う。まず、感じる事だ。目から鱗を落とすのだ。そして納得する事だ。一つ一つのフィーリングから得た事柄を結びつけられなくても、自分の哲学として基本律にする。基本律はそんなに沢山は要らない。

本書には、そのヒントが無数に存在する。読み終えて、数日経っても心に残っている言葉、そこから考え始めたら良いように思う。

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2014年2月の読書メーター

2014年2月の読書メーター
読んだ本の数:2冊
読んだページ数:586ページ
ナイス数:56ナイス

ぼくは散歩と雑学がすき (ちくま文庫)ぼくは散歩と雑学がすき (ちくま文庫)感想
「雑学」とは、非日常な事物を日常的に語る事ではないかと本書を読みながら思った。そして、「散歩」とは、足の向くまま気の向くまま楽しみを探してゆく、植草さんの姿勢、そして文章そのままだと思う。
読了日:2月24日 著者:植草甚一
ブルース&ソウル・レコーズ 2014年 02月号 [雑誌]ブルース&ソウル・レコーズ 2014年 02月号 [雑誌]感想
マジック・サムの新作ライブに関するコラムが特に面白いです。
読了日:2月11日 著者:

読書メーター

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2014年2月の音楽メーター

2月の音楽メーター
聴いた音楽の枚数:10枚
聴いた時間:266分

Trout Mask ReplicaTrout Mask Replica
崩した状態のルービック・キューブでもなく、完成した状態でもなく、作成途中の感。あ、こんな所にこんな色が出てきた、という驚きを愉しむ世界。全28曲中、20曲目ぐらいから慣れてくる。
2014.2.9. 蔦屋書店嘉島店にてレンタル。
聴いた日:02月25日 アーティスト:Captain Beefheart
Bitches BrewBitches Brew
ジャズ史や音楽史における価値を云々したいが、シンプルにマイルスが吹くトランペットの音世界の拡がりと美しさに感動!他のメンバーのセンスも伝わる。日頃ジャズを聴かない音楽ファンにも伝わるよ。
2014.2.9. 蔦屋書店嘉島店にてレンタル。
聴いた日:02月23日 アーティスト:Miles Davis
ENGLISH ROSEENGLISH ROSE
「ブラック・マジック・ウーマン」ばかりが注目されがちだが、本盤の中ではツナギ程度の存在感^^
エルモア調の曲をよく演っており、その際はヴォーカルもエルモア風になってるのが微笑ましい。最近はボブ・ディラン始めアメリカのロックを聴くことが多かったので、ひさしぶりのコテコテ・ブリティッシュでした。
2014.2.9. 蔦屋書店嘉島店にてレンタル。
聴いた日:02月17日 アーティスト:Fleetwood Mac
ダイアモンド・イン・ザ・ラフダイアモンド・イン・ザ・ラフ
ファンキー・ソウルは絶品!ミッド~スローも妙な切迫感がありニンマリ。ハイのリズム・セクションのクールさがシルの魅力5割増し。
2014.2.9. 蔦屋書店嘉島店にてレンタル。
聴いた日:02月16日 アーティスト:シル・ジョンソン
Let's Get It on (Dlx)Let's Get It on (Dlx)
2014.2.9. 蔦屋書店嘉島店にてレンタル。
エモーショナルな歌唱に注目しがちだが、音世界の構成力も見事。前に出す音や声、後ろに引かせる音や声・・・サウンドスケイプと呼びたくなる立体感や広がりを持つ。
聴いた日:02月14日 アーティスト:Marvin Gaye
ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー+2ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー+2
プライドと見栄を履き違えた男。自分の実力の核心に気付いていたのかな?アンプリファイドのパワーと、粗野な性格のため、音も荒々しいイメージを抱くが、フレイジングとかは実に繊細。スローバラードで聴かせる音の波ももはや芸術的。ギター陣の切り込みやフレッド・ビロウのドラムも聴きどころ。
聴いた日:02月10日 アーティスト:リトル・ウォルター
リユニオンリユニオン
デヴィッド・ラフィンとデニス・エドワーズの対マン勝負なんぞを期待したい所だったが、それが無くてもこの充実度はどうだ。メンバー全員キメドコロを熟知している。世界遺産です。
聴いた日:02月06日 アーティスト:テンプテーションズ
Vol. 2-Fame Singles 1970-73Vol. 2-Fame Singles 1970-73
曲の完成度なら第一集が凄い。本盤の魅力はカーターの音楽人生の転変がリアルに伝わる部分。大ヒット曲「パッチズ」の呪縛、彼の型に拘り過ぎた結果の苦悩のシャウト。フェイムがアトランティックと喧嘩別れした結果、オリヴァー・セインやアラン・トゥーサンの力を借り、新しいカーターが生まれた。
聴いた日:02月05日 アーティスト:Clarence Carter
Amazing Grace: The Complete RecordingsAmazing Grace: The Complete Recordings
サム・クックのハーレム・スクエア・ライブを聴いた時の衝撃を思い出す。いや、あれ以上かも。完全無欠のヴォーカル・コントロールに、クワイヤ、バンド、さらには観客(会衆?)の合いの手までがコール&レスポンスの妙味を創り出している。エイメン!
聴いた日:02月03日 アーティスト:Aretha Franklin
Love & TheftLove & Theft
タイトルを訳すと「愛と剽窃」だそう。ブルース、カントリー、初期ジャズなどのルーツ音楽への深い愛情と、自分の音楽への昇華を見せている。真面目に遊んでいる感覚、大好きだな^^
聴いた日:02月01日 アーティスト:Bob Dylan

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