夕暮れソウル
●クラレンス・カーター『ザ・フェイム・シングルス・ヴォリューム2:1970-73』<フェイム/ケント・ソウル>(13)
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私が購入したのは<Pヴァイン>による英文解説対訳付き直輸入盤。
クラレンス・カーターの「パッチズ」を聴くと、夕暮れの田圃を連想する。因みに、シャイ・ライツの「オー・ガール」も。この2曲は、私がまだ「黒人音楽」に関する知識がゼロだった頃、(おそらく)ラジオで聴いて、心に残っていたものだ。中学生の頃(70年~72年)だったろう。
私が通っていた中学校は、周囲が田圃だったので、曲のイメージと風景のイメージを、ほぼ無意識に重ねていたのかも知れない。今の時代は、夜間でも明るい場所は沢山ある。昔の、しかも子供にとって、夕方は一日の対外的活動の終わりだ。あとは、灯りのある自宅で過ごす・・・夕暮れは、一日の終わりを惜しむような、もの淋しさを誘う時間帯だった。
本盤は、クラレンス・カーターの<フェイム>仕事・第2集だ。第1集は、彼がソウル・シンガーとしての地歩を固めていく様子が粛々と伝わってきた。それに比べて第2集は、一曲目の「パッチズ」がいきなりピークで、中々その壁を乗り越えられない忸怩たる思いが、拭い切れない。クラレンス・カーターらしさは出ているのだが、逆に自身のパロディーをやっているような、もどかしさを感じる。とはいえ、一曲一曲を取り上げるとそんなに悪くはない。2曲目とか9曲目とか。また、新しい試みも為されている(首尾よくいったかどうかは別として)。
そうこうする内に、<フェイム>の総帥リック・ホールと配給会社の<アトランティック>の仲は最悪となり決別に至った。<フェイム>も“夕暮れ時”を迎えたのだ。
しかし、カーターは夕陽のように沈まず、新たな一日を迎える事が出来た。リックが<UA>と配給契約を結んだのを契機に心機一転。名手オリヴァー・セインが手がけた本盤13曲目「バック・イン・ユア・アームス」で変わる。演奏のソリッドさからしてひと味違い、カーターらしさを失わずに、新境地に至っている。まさに「変わりゆく変わらぬもの」の実践だ。続いて、NYのJ.R.ベイリー等のプロデュースを得てリリースした15曲目は、ニューオーリンズ調で展開し、カーターが本来持つイナたさを十分に生かした。さらには、ニューオーリンズ・クラシカルの「マザー・イン・ロウ」までカバーしている。
遂に「パッチズ」に代表される、自分自身の呪縛から逃れた。ニューオーリンズ・サウンドは、カーターに似合い過ぎている。「マザー・イン・ロウ」は、彼のオリジナル曲みたいに実にシックリ来ている。
新生クラレンス・カーターは、18曲目「シックスティ・ミニッツ・マン」でひと山築き、現在まで堂々の活動を続けている。
終盤近い21曲目にジョージ・ジャクソン作の典型的サザン・ソウルを配するが、自分にチャンスを与え育ててくれた<フェイム>への親しみを込めた回顧に聴こえる。そして、夕暮れを迎え自宅で過ごすような、ヒューマンな温かみを感じる。
♪"Patches"
http://www.youtube.com/watch?v=IvfsfS6NVUc
♪"Scratch My Back"
http://www.youtube.com/watch?v=-iiugneEUSU
♪"Sixty Minute Man"
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