裏日本対決
※6月13日(土)新橋のアラテツ・アンダーグラウンド・ラウンジにて。W.C.カラスVS.デルタビート(金田デルタ正人+わたなべさとし)による『裏日本対決』。
戦前ブルースマンはギターが上手い。一人で弾いている感じがしない。もちろん、全ての音楽ジャンルにギターの名手は存在するだろう。私がブルースが好きだから、ブルースマンのテクニックが心に響くというのが正解だ。とにかく、ギター一本での幅広い表現に長けている。ギターを弾く人にとっては至極当然かも知れないが、右手と左手のバランスの妙が重要なのではないだろうか。「一人インタープレイ」状態が、複合的感覚を生み出している気がする。
実はこれだけの事を以前から考えていた訳ではない。感じてはいたが纏まってはいなかった。今回のカラスさんの演奏を聴く内に思考の断片が繋がった。しなやかに動く右手が弦を叩く、擦る、弾く(はじく)、それらはギターの基本なのかも知れないが、細かい動きの総体がリズムとなり、左手が味付けをする。今回のライブのかなりの時間、私はカラスさんの右手に惹きつけられていた。しかもデルタの薫りを感じられるから尚更だ。
カラスさんの魅力はもちろんギターだけではない。まず一番に述べるべきは、生活感や人生観が日本語を通して「ブルース」として聴き手に伝わっている部分だろう。時には、排泄や嘔吐、死者の目線といった、一見現実をデフォルメしたような歌詞もあるが、実はそういった「常識外れ」の世界観が、実は人間らしさに必要なものかと。常識(とされているもの)は真理ではない。常識から外れた部分に目を向ける事で初めて真理に近づくのだと思う。ディープに到達するのだ。
カラスさんはヴォーカルも豊かだった。マジック・サムを超えるロング・シャウトも登場し、鳥肌も生む。エンターテインメント性もあり、さすが日本ブルースシーンの重要人物である。
金田さんとわたなべさん(ドラム)のデルタ・ビート。金田さんは、構えからしてハウンドドッグ・テイラーを髣髴とさせる。勢いのよいスライドは直線的で、ダミ声ヴォーカルとベストマッチ。今回は弦が度々切れるアクシデントがあり気の毒だった。ブルーム調の曲が信条なだけに、間が空かなければ加速度的に盛り上がったに違いない。
さて、日本人がブルースをやる場合、日本語で歌うべきだろうか。論が分かれる所だろう。私は、日本語で歌われる方が好きだ。音楽全体がそうだろうが、特にブルースは感情表現の権化みたいな部分がある。日本在住の日本人にとって、自然に使っている日本語の方が感情をより伝える事ができると思うのだ。デルタ・ビートの曲の中で秋田弁を駆使した曲があった。私はこれが一番気に入った。もちろん、他のがダメという訳ではない。デルタの伝統に根差して、本人たちの個性も十分感じ取れる。だが、秋田弁の曲はすんなりと心にしみていった。最終的にはミュージシャンが決める部分ではあるが・・・。
日常的にブルースのライブが観られるのは、地方在住としては羨ましい限り。ただ、それは「常識」かもしれないが「真理」ではない。自分の足元を見つめれば、そこにもブルースは漂っている。
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