心のファインダー
●藤原新也著『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』<河出文庫>(12/単行本09)
判で捺したような日常の、微妙な変化によりドラマが生まれる、そんな短編集である。
根底にあるのは、人間の美しさや愚かさ、強さ弱さを愛おしく思う気持ちだ。作品の中で藤原さんは、写真家の、被写体に対する姿勢について述べている。曰く、撮影中は被写体に深い感情移入をするが、終わった後に気持ちを引き摺ってはならないと。本書の各短編もそんな意識で綴られていると思う。
民話やファンタジー的感触のもの、大人の恋物語風、人生の深みを味わえるもの・・・感情移入の度合いが等しく強くなければ、同じ輝きは得られないだろう。
藤原さんは、得意なジャンルを持つ作家というより、あらゆる対象に心のファインダーを当てる写真家的作家だ。当たり前の理屈のようだが、実行出来る人はそういないのではないか。
別の言い方をすれば、写真のキャプションを拡げたような文章だったり、写実性の高い文章というのとも違う。 写真家の心根が溶け込んだ文章なのだ。
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