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2020年4月

レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.52

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[61枚目]●ミリー・ジャクソン『コート・アップ』<スプリング>(74)

 

寅さん映画の名場面のひとつに、甥の満男が「人は何の為に生きてるの?」という質問をし、寅さんが応える場面がある。正確な記憶ではないが「生きてる内に何度か幸せだなあと感じる瞬間があるだろ、その為に生きてるんじゃないの」という感じの返事だった。このやり取りを転用して、ソウル・ファンは何故ソウル・ミュージックに感動するかを考えてみた。グルーヴに乗って聴いている内にゾクッとする瞬間がある、それを味わいたいが為に聴いている・・・と思うのだ。豪快なシャウト、声の裏返り、ギターの切り込み、ドラムのフィル・インetc...。楽曲自体の魅力も勿論あるのだが、一瞬の美しさ、コクが何よりの魅力ではないだろうか。ソウルに限った魅力ではないかも知れないが、少なくとも私はそういう部分が何とも言えず好きだ。

 

妙な前文を書いたが、ミリー姐さんの本盤を聴いて益々その感を強くした。組曲形式で、曲同士が繋がっているのも一因かも知れない。わあこれこれ、これが堪らない!という瞬間の集積のようなアルバムなのだ。ソウル・ミュージックかくあるべし、ソウルらしいソウル・アルバムだ。

 

ミリー・ジャクソンは、70年<MGM>でシングル1枚リリースした後、72年、関連の<スプリング>から初アルバムを発表。そこからは稀代のソウル・シンガー、エンターテイナーとして歩み続ける。本盤は<ワーナー>発のサントラを挟み5枚目のアルバムとなる。私が持っているのは04年に『ミリー・ジャクソン』『イット・ハーツ・ソー・グッド』『フィーリン・ビッチ』と合わせいずれもボーナス・トラック込みで再発された一枚である。英文ライナーの為、正確には読めないが、ミリーに惚れ込んだブラッド・シャピロが、彼女の魅力を生かせる音創りを念頭に彼女と共にプロデュースしている。演奏はスワンパーズが担い、鉄壁である。

 

冒頭は、ルーサー・イングラムの「イフ・ラヴィング・イズ・ユー・ロング」という超有名曲。素人考えではやりにくいんじゃないかと思ったりするが、ミリーが、固定されたイメージに引きずられるわけがない。淡々と歌っているようでも力強い。その為聴く者に力感が蓄積され、ここぞという時のシャウトで開放される。正にゾクッとする瞬間だ。間に「ザ・ラップ」という曲を挟み2部構成の形ではあるが、前述した通り、自然に繋がっている。「曲順」という発想が言い当ててないが便宜上の4曲目「オール・アイ・ウォント・イズ・ア・ファイティング・チャンス」はファンキーな立ち上がりから、ミリーの呼びかけに応える別の女性とのやり取りが特に印象的だ。次は一転落ち着いた曲調の「アイム・タイアード・オブ・ハイディング」(フィリップ・ミッチェル作)。「イフ・ラヴィング・ユー~」の感覚も。ストリングスやピアノが美しい。

 

LPならB面1曲目となる「イッツ・オール・オーバー・シャウティング」は再びファンキーに攻める。ホーン陣のキレやタイミングもお見事。そしてまたゆったりペース。これもフィリップ・ミッチェル作「ソー・イージー・ゴーイング・ソー・ハード・カミング・バック」。ファンキー一辺倒ではないミリーの哀切感が沁みる。続くボビー・ウォーマック作品の「アイム・スルー・トライング・トゥー・プルーヴ・マイ・ラブ・トゥー・ユー」は、LPではラス前となり大団円への導入部にも思える。そして「サマー(ザ・ファースト・タイム)」で静かに盛り上がり本編は終了。

 

ボーナス・トラックは"オルタネイト・ライブ・ヴォーカル"と題された3曲。"ライブ"と言ってもライブ演奏ではなく「デモ・テイク」のような感じ。まず「アイム・タイアード~」と「アイム・スルー~」だが、一聴十分リリースできるレベルと思ったが、本編を聴き返すと、より繊細で魂が込められていると感じる。ミリーの歌手としてのレベルの高さを知る所となる。

 

「フィール・ライク・メイキング・ラブ」は、76年作「フリー・アンド・イン・ラブ」内の1曲。これも公式に出ている方が迫力があるような。最後は同じ「フリー・アンド~」に収録の「ア・ハウス・フォー・セール」のカラオケ?これはスワンパーズの演奏力の素晴らしさを伝えているような物。インストとは言えかなりの聴き応えあり。

 

ミリー・ジャクソンは、過激なジャケットや猥談だらけのライブなどの印象から、ビッチの代表格に上げられる。しかし、切々としたバラードではつつましい女性らしさを感じる面もある。自分を生かす道も心得ている人だし、曲を創るというより、ソウル・フィーリングを生み出すクリエイターである。そして何より聴く者に力や幸福感をもたらす。さらに、飾り気がなく等身大で歌いかけたり語りかけたりしてくれる。グレイトなソウル・シスター、ソウル・マザーである。

 

(If Loving You Is Wrong) I Don't Want to Be Right~The Rap

 

"All I Want Is A Fighting Chance"

 

I'm Tired Of Hiding

 

It's All Over But the Shouting

 

So Easy Going, So Hard Coming Back

 

I'm Through Trying to Prove My Love to You

 

SUMMER (THE FIRST TIME)

 

 

 

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黒人差別とアメリカ公民権運動

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●ジェームス・М・バーダマン著『黒人差別とアメリカ公民権運動』<集英社新書>(07)

https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html…

黒人音楽を趣味とする私は、黒人文化や人種差別問題等に関しても気にはなっている。ジム・クロウ法、ローザ・パークス、バス・ボイコット、NAACP、キング牧師、KKK、アーカンソー州リトルロック、シット・イン、フリーダム・ライド、ジェイムズ・メレディス、ウィー・シャル・オーヴァーカム、アラバマ州バーミングハム、教会爆破、ケネディー大統領暗殺、長く暑い夏、ワシントン大行進、ミシシッピ・バーニング、マルコムX、アラバマ州セルマ・・・などなど知識としては捉えていた。


しかし、本書を読んで、各事柄の把握が不十分なのを痛感した。もちろん一読して完璧に把握できたとは言い難いが、丁寧に描かれている事でより深く理解できたのは事実だ。「名もなき人々の戦いの記録」と副題にあるように、大局的な、歴史的政治的流れを背景にしながらも、一般の社会人や学生の言動を主体に描かれている為リアリティーを感じたのも一因だろう。

さらに、各事案のあらましは、学術的考察というよりストーリーテリングの感触で語られる。その為映画のような衝撃を伴う。闘争というより戦争であり、悪役の底意地の悪さは、フィクションでは逆にやり過ぎと言われそうな非情さを生み出している。

これらが実際に起きた事であると改めて気づくと、怖ろしさとやるせなさに包まれる。人種差別についてはある程度改善されてはいるものの、日本でも話題になっているヘイト問題などを合わせて考えると人間の醜い部分を見せつけられ、逆に、光明が見える箇所では人間の果てしなき勇敢さも感じる。

 

 

 

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エリザベスとヘイゼル

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人種差別闘争を象徴する写真は多数ある。1957年、アーカンソー州リトルロック・セントラル高校へ入学した最初の黒人であるエリザベス・エクフォードに対し、怒りをあらわにする白人たちを写した一枚もひと目で脳裏に焼き付く。中でも背後から噛みつかんばかりに大きく口を開けて罵る様子の女性。ヘイゼル・ブライアンという名のこの女性と、エリザベスには後日談がある。


写真から6年後の1963年。結婚し子供をもうけていたヘイゼルは、自分の行動を恥じエリザベスに電話ではあるが謝罪。エリザベスも一応は受けた。しかし、直接会って謝罪したい気持ちは募っていた。


97年、高校の40周年記念行事に先んじエリザベスの自宅で会う事ができた。仲を取り持ったのは写真を撮影したウィル・カウンツだった。語り合う事でエリザベスにもヘイゼルの気持ちが通じ、しかも性格的に似ている部分が2人にはあり、友情へと発展した。その後人種問題を考えるミーティングにも2人揃って参加したという。


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人間、環境次第で正しい道を見失う場合もあるが、自分に素直に向き合う事で状況は打開できるものだ。


※ジェームス・M・バーダマン著『黒人差別とアメリカ公民権運動』P240~242.


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サム&デイブのはじまり

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サム・ムーアは地元のゴスペル・カルテット在籍時、ソウル・スターラーズから加入の誘いを受けたが、彼はジャッキー・ウィルソンタイプに夢中だった(代わりに入ったのがジョニー・テイラー)。


その後アマチュア・コンテストでジャッキーの「ダニー・ボーイ」を熱演し、優勝。賞金に加え、マイアミでは有名なクラブ「キング・オブ・ハーツ」のアマチュア・コンテストの司会を担当する事になる。


地元のゴスペル・グループでリードを担っていたデイブ・プレイター・ジュニアがそのコンテストに挑戦。サム・クックの「ワンダフル・ワールド」を歌いたかったがハウス・バンドは演奏出来なかった。ジャッキー・ウィルソンの「ドッギン・アラウンド」を提案される。ところがデイブは完全には歌詞を憶えていない。しかし、サム・ムーアは歌えたので「ぼくが後ろから歌詞を教えてあげる」という事でステージへ。



歌詞を憶えていない箇所に入りかけた時、ジャッキーの両膝をつくアクションに挑戦しようとしたが、バランスを崩しマイクを落としそうになった。とっさにサムがマイクを拾い、一緒に歌った。


サム&デイブの誕生である。もし、バンドが「ワンダフル・ワールド」を演奏できたら、もし、デイブがこけそうにならなかったら、なんて考えちゃいますね。


その後、クラブのオーナーが2人を気に入り、ステージに上げ、やがてマイアミのドン、ヘンリー・ストーンによってレコーディングに至る。


『スタックス・レコード物語』p103より。


 


 


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ロウ・ブルース

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ジョニー・テイラー69年発の<スタックス>3枚目(ベストを除く)『ロウ・ブルース』。タイトル通り、無駄な飾りは一切ない、剝き出しのソウル、ブルース、ゴスペルの世界。YouTubeで全曲見つかりめでたしめでたし。


 


WHERE THERES SMOKE THERES FIRE


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