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レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.52

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[61枚目]●ミリー・ジャクソン『コート・アップ』<スプリング>(74)

 

寅さん映画の名場面のひとつに、甥の満男が「人は何の為に生きてるの?」という質問をし、寅さんが応える場面がある。正確な記憶ではないが「生きてる内に何度か幸せだなあと感じる瞬間があるだろ、その為に生きてるんじゃないの」という感じの返事だった。このやり取りを転用して、ソウル・ファンは何故ソウル・ミュージックに感動するかを考えてみた。グルーヴに乗って聴いている内にゾクッとする瞬間がある、それを味わいたいが為に聴いている・・・と思うのだ。豪快なシャウト、声の裏返り、ギターの切り込み、ドラムのフィル・インetc...。楽曲自体の魅力も勿論あるのだが、一瞬の美しさ、コクが何よりの魅力ではないだろうか。ソウルに限った魅力ではないかも知れないが、少なくとも私はそういう部分が何とも言えず好きだ。

 

妙な前文を書いたが、ミリー姐さんの本盤を聴いて益々その感を強くした。組曲形式で、曲同士が繋がっているのも一因かも知れない。わあこれこれ、これが堪らない!という瞬間の集積のようなアルバムなのだ。ソウル・ミュージックかくあるべし、ソウルらしいソウル・アルバムだ。

 

ミリー・ジャクソンは、70年<MGM>でシングル1枚リリースした後、72年、関連の<スプリング>から初アルバムを発表。そこからは稀代のソウル・シンガー、エンターテイナーとして歩み続ける。本盤は<ワーナー>発のサントラを挟み5枚目のアルバムとなる。私が持っているのは04年に『ミリー・ジャクソン』『イット・ハーツ・ソー・グッド』『フィーリン・ビッチ』と合わせいずれもボーナス・トラック込みで再発された一枚である。英文ライナーの為、正確には読めないが、ミリーに惚れ込んだブラッド・シャピロが、彼女の魅力を生かせる音創りを念頭に彼女と共にプロデュースしている。演奏はスワンパーズが担い、鉄壁である。

 

冒頭は、ルーサー・イングラムの「イフ・ラヴィング・イズ・ユー・ロング」という超有名曲。素人考えではやりにくいんじゃないかと思ったりするが、ミリーが、固定されたイメージに引きずられるわけがない。淡々と歌っているようでも力強い。その為聴く者に力感が蓄積され、ここぞという時のシャウトで開放される。正にゾクッとする瞬間だ。間に「ザ・ラップ」という曲を挟み2部構成の形ではあるが、前述した通り、自然に繋がっている。「曲順」という発想が言い当ててないが便宜上の4曲目「オール・アイ・ウォント・イズ・ア・ファイティング・チャンス」はファンキーな立ち上がりから、ミリーの呼びかけに応える別の女性とのやり取りが特に印象的だ。次は一転落ち着いた曲調の「アイム・タイアード・オブ・ハイディング」(フィリップ・ミッチェル作)。「イフ・ラヴィング・ユー~」の感覚も。ストリングスやピアノが美しい。

 

LPならB面1曲目となる「イッツ・オール・オーバー・シャウティング」は再びファンキーに攻める。ホーン陣のキレやタイミングもお見事。そしてまたゆったりペース。これもフィリップ・ミッチェル作「ソー・イージー・ゴーイング・ソー・ハード・カミング・バック」。ファンキー一辺倒ではないミリーの哀切感が沁みる。続くボビー・ウォーマック作品の「アイム・スルー・トライング・トゥー・プルーヴ・マイ・ラブ・トゥー・ユー」は、LPではラス前となり大団円への導入部にも思える。そして「サマー(ザ・ファースト・タイム)」で静かに盛り上がり本編は終了。

 

ボーナス・トラックは"オルタネイト・ライブ・ヴォーカル"と題された3曲。"ライブ"と言ってもライブ演奏ではなく「デモ・テイク」のような感じ。まず「アイム・タイアード~」と「アイム・スルー~」だが、一聴十分リリースできるレベルと思ったが、本編を聴き返すと、より繊細で魂が込められていると感じる。ミリーの歌手としてのレベルの高さを知る所となる。

 

「フィール・ライク・メイキング・ラブ」は、76年作「フリー・アンド・イン・ラブ」内の1曲。これも公式に出ている方が迫力があるような。最後は同じ「フリー・アンド~」に収録の「ア・ハウス・フォー・セール」のカラオケ?これはスワンパーズの演奏力の素晴らしさを伝えているような物。インストとは言えかなりの聴き応えあり。

 

ミリー・ジャクソンは、過激なジャケットや猥談だらけのライブなどの印象から、ビッチの代表格に上げられる。しかし、切々としたバラードではつつましい女性らしさを感じる面もある。自分を生かす道も心得ている人だし、曲を創るというより、ソウル・フィーリングを生み出すクリエイターである。そして何より聴く者に力や幸福感をもたらす。さらに、飾り気がなく等身大で歌いかけたり語りかけたりしてくれる。グレイトなソウル・シスター、ソウル・マザーである。

 

(If Loving You Is Wrong) I Don't Want to Be Right~The Rap

 

"All I Want Is A Fighting Chance"

 

I'm Tired Of Hiding

 

It's All Over But the Shouting

 

So Easy Going, So Hard Coming Back

 

I'm Through Trying to Prove My Love to You

 

SUMMER (THE FIRST TIME)

 

 

 

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