[69枚目]●V.A.『エイント・ザット・グッド・ニュース』<スペシャルティ/Pヴァィン>(69/93)
※本文を書くに当たり、鈴木啓志さんのライナーを大いに参考にしています。
1. MY ROCK - Swan Silvertons
2. JESUS IS A FRIEND - Swan Silvertons
3. HE WON'T DENY ME - Swan Silvertons
4. BY AND BY - R.H.Harris & The Soul Stirrers
5. TOUCH THE HEM OF HIS GARMENT - Sam Cooke & The Soul Stirrers
6. MARCHING UP TO ZION - Original Five Blind Boys Of Alabama
7. THERE IS A FOUNTAIN - Original Five Blind Boys Of Alabama
8. I'VE GOT A NEW HOME - Pilgrim Travelers
9. STAY WITH ME JESUS - Chosen Gospel Singers
10. NO HIDING PLACE - Original Gospel Harmonettes
11. I WOULDN'T MIND DYING - Original Gospel Harmonettes
12. AIN'T THAT GOOD NEWS - Meditation Singers
13. TOO CLOSE TO HEAVEN - Alex Bradford
14. THANK YOU LORD FOR ONE MORE DAY - Brother Joe May
15. WHOSOEVER WILL - Bessie Griffin
16. THE BALL GAME - Sister Wynona Carr
ゴスペルのレーベル(だけではないが)として著名な<スペシャルティ>のコンピ盤。プロデュースはアート・ループ。<Pヴァイン>からリリースするに当たり、鈴木啓志さんセレクトの4曲が追加されている。曲順もオリジナルとは違い、男性グループ→女性グループ→男性ソロ→女性ソロと並べられている。
①~③はスワン・シルヴァートーンズ。元炭鉱夫のクロード・ジーターが、38年にウェストヴァージニアにて結成。46年<キング>レコードと契約。<スペシャルティ>には51年~55年の間在籍。その後は<ヴィージェイ>や<ピーコック>に録音を残している。ジーター以外のメンバーは、オリジナルはエディー・ボローアス、ジョン・マイルズ、リロイ・ワトキンス。アフター・メンバーは<スペシャルティ>期外も含むだろうが、ポール・オーウェンス、ヘンリー・ブラッサード、ソロモン・ウーマック、ロバート・クレンショウ、デューイ・ヤング、パーセル・パーキンス等がいる。大黒柱のジーターは、本盤では③で主役を張る。①は解説に、ロバート・オーウェンスと書いてあるが、ポール・オーウェンスではなかろうか。この曲のベースの弾み具合も気持ち良い。②はデューイ・ヤング。女性コーラスも入れてる?②も③も途中から終始吠えまくる展開。バリトンはジョン・マイルズがオリジナル・メンバーとして表記されていたが、ここでもそうだろうか。どうも詳しくなくて申し訳ない。
④⑤はソウル・スターラーズ。④がR.H.ハリス期で、⑤がサム・クック期。④は鈴木さんのセレクトなので両者の違いを意識されたのだろうか。シングル盤のリリースで考えると、50年~58年に10枚のシングルが発表されている。間が空いて72年にJ.J.ファーレイ期のアルバムとサム・クック期のリイシュー・アルバムを出している模様。そこまでいくと本盤とは関係ないが・・・。R.H.ハリスは、ジュビリー・スタイルを改革し、カルテット・スタイルの基本を作った人。アフリカ由来のファルセットの起用、「スイング・リード」と呼ばれる2人のシンガーがリードするスタイルの確立など、ゴスペルの基軸をよりエモーショナルな方向に向けた。それでも、R.H.ハリスのスターラーズは静かなる高まりと呼びたくなる落ち着きと深みを感じる。リード・チェンジの際もスリリングというより技を感じる。これがサム・クックの登場となると、テンダー・タッチとハード・タッチがブレンドされ、興奮度は増す。更に言うならば、ソウル時代のサム・クックは、ハードさを孕んだテンダー・スタイルとでも呼べば良いだろうか。ゴスペルの伝統がソウル・ミュージックに生きているという証明を成した。テキスト的には周知の事実だが、音に触れると改めて確認できる。
ソウル・スターラーズもそうだが、⑥⑦のファイヴ・ブラインド・ボーイズ・アラバマも息の長いグループ。大看板のクラレンス・ファウンテインは惜しくも2年前に亡くなった。53~57年に9枚のシングルを発表している。クラレンス以外のメンバーは、ハードな歌唱のサミー・K・ルイス、ジョニー・フィールズ、オリス・トーマス、ジョージ・スコットなど。⑥は、リードの取り合いという訳ではないが、目まぐるしいほどに入れ替わり、フォローに回った側も強烈なので驚異的な迫力を生んでいる。⑦は一転して緩やかなペースだが、声の力感は凄い。
⑧ピルグリム・トラヴェラーズは、ダイナミックな感動というより、じわじわと来るタイプ。ゴスペルのプロトタイプと言えるかも。彼らも現在まで活動が続いている。ジョー・ジョンソンやウィリー・デイヴィスが中心となって立ち上げ。本曲でリードを取るカイロ・ターナーや、後にサム・クックと<サー>レコードを設立するJ.W.アレグサンダー、キース・バーバー、ラファエル・テイラー、後にはルー・ロウルズも参加。48年~56年にわたり、19枚のシングルを発表している。
⑨チョーズン・ゴスペル・シンガーズ。グループ名も凄いが実力も凄い。特にこの曲で感じるのは、全員がいちどきに攻めてくるような分厚い迫力を感じるところ。ウォール・オブ・サウンドならぬウォール・オブ・ヴォイスか。53年~55年の間にシングル4枚。84年には<ヴィヴィッド>編纂のアルバム、92年にはCDもリリースされている。ヒューストンで50年に結成。メンバーは、J.B.ランドール、アーロン・ワイアット、ウィリー・ローズ、やがてランドールのみ残り、その後はE.J.ブラムフィールド、ジョージ・バトラー、フレッド・シムズ、バリトンのオスカー・クック。ルー・ロウルズの他、ごく一時的にテッド・テイラーも参加していたとの事。
⑩⑪オリジナル・ゴスペル・ハーモネッツ。51年~57年の間にシングル9枚。59年にアルバム1枚出ている。ドロシー・ラヴ・コーツのワイルドな歌唱がグループをリードする。これでもかこれでもかというシャウトは痛快至極。グループは40年にバーミングハムで結成。ピアニストとして評価の高いイヴリン・スタークスや、メゾソプラノのミルドレッド・マディソン・ミラーの他、オデッサ・エドワーズ、ヴェラ・コナー・コルブなど。ドロシーが参加したのは50年初頭のようで、グループは彼女が参加した事で躍進した。ドロシーはステージ上で我を忘れて歌いまくる場面がよくあり、しばしば他のメンバーが彼女をステージに引き戻したという逸話も。ジェイムズ・ブラウンがその様子をステージ・パフォーマンスに取り入れたなんて話もウィキペディアには書いてあった。
⑫メディテイション・シンガーズ。ローラ・リーが在籍していた事で有名。ローラの母親、アーネスティン・ランドレス、デラ・リーズ(彼女の後釜がローラ)、マリー・ウォーターズ、ヴァーリン・ロジャース、ドナ・ハモンド、パトリシア・ライルズ、ヴィクトリア・ビーズリー(ピアノ)など。ジェイムズ・クリーブランド師の名前も。92年にリイシューCD。ドロシーに負けないワイルドさを感じるがこちらの方が抑制が効いてるかな。曲調もあるだろうがコーラスもやや抑えめ。
⑬アレックス・ブラッドフォード。重厚な歌声だが、どこかクラブ・シンガーのような艶っぽさも感じる。53年~58年にシングル11枚。59年と71年にLP、92年と93年にCD。アラバマ州ベッセマー生まれのアレックスは、4歳が初ステージ!13歳で児童ゴスペル・グループに在籍している。学生時代の段階で「教授」の称号を得る。その影響は、ゴスペル関係者のみに止まらず、リトル・リチャードやレイ・チャールズ、さらにはボブ・マーリーにまで及ぶとウィキペディアには書いてある。
⑭ブラザー・ジョー・メイ。50~56年の間にシングル8枚。「中西部のサンダーボルト」と呼ばれる。ブラッドフォードに比べたら声の座りはないが、その分突き抜けるような感覚はある。熱唱型の女性シンガーを想起する局面も。<スペシャルティ>は彼に世俗的録音を提案したが、断固として拒否したと言う。ウィリー・メイ・フォード・スミスの影響を受け、トーマス・A・ドーシーとも関わり、結局J.W.アレグサンダーのスカウトで<スペシャルティ>入り。
⑮ベッシー・グリフィン。ニューオーリンズ生まれ。母親が早くに亡くなり、信仰深い祖母に育てられ、歌う事を勧められたという。マヘリア・ジャクソンの弟子のような感じで帯同。53年にはキャラバンズに加入するも翌年には脱退。58年にロスアンゼルスに移動し<スペシャルティ>と契約した。2枚のシングルがリストにあるが発表年が不明とされている。
⑯シスター・ワイノナ・カー。⑬~⑯も鈴木さんによる追加曲。リズム&ブルースの世界での活躍の方が著名なワイノナ・カーと、正統派のベッシー・グリフィンを対比する事で、ゴスペルの幅広さを提示する意図でしょうか。ベッシーの曲も大衆的な部分も感じるけど。ワイノナは、発表年不明もあるが、53年以降にシングル5曲。92年にはCDあり。オハイオ州クリーヴランド出身で、カー・シンガーズとして活動していた。45年にクリーヴランド/デトロイトをツアー中、ピルグリム・トラヴェラーズに見初められ、<スペシャルティ>との契約に至る。世俗音楽への移行は、本人がアート・ループに直談判した結果だという。「シスター」を冠したのは、シスター・ロゼッタ・サープに影響されたとか。リズム&ブルースとゴスペルを両立させた先達に倣ったのだろう。本曲も人生を野球に例えたポピュラー性と合わせ、真摯ながらキュートな歌声が愉しく印象に残る。
① Swan Silvertones-My Rock
② Swan Silvertones - Jesus Is A Friend
③ Swan Silvertones - He Won't Deny Me
④ R. H. Harris & the Soul Stirrers - By and By
⑤ Sam Cooke & The Soul Stirrers - Touch The Hem Of His Garment
⑥ The Original Five Blind Boys Of Alabama - Marching Up To Zion(Take4という事で本盤と同ヴァージョンかは不明)
⑧ Pilgrim Travelers - I've Got A New Home
⑨ Chosen Gospel Singers - Stay With Me Jesus
⑩ No Hiding Place Dorothy Love Coates & the Original Gospel Harmonettes
⑪ I Wouldn't Mind Dying Dorothy Love Coates & the Original Gospel Harmonettes
⑬ Too Close to Heaven - Prof. Alex Bradford
⑮ Bessie Griffin - Whosoever Will
⑯ Sister Wynona Carr - The Ball Game
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