[106枚目]●The Winans 『Decisions』<Qwest>(87)
ゴスペル界にとどまらず、音楽界全体でもなかなか類を見ないのがワイナンズ・ファミリーだろう。事細かには書かないが、両親に始まり10人の兄弟姉妹から配偶者や次の世代まで活躍している。特に著名なのは、7番目と8番目の兄妹ビービー&シーシー・ワイナンズと本盤のザ・ワイナンズだろう。ザ・ワイナンズのメンバーは、2番目から5番目の4人(ちなみに3番目と4番目は双子)のロナルド、マーヴィン、カーヴィン、マイケルである。
このアルバムは、彼らとしては5枚目に当たる。そもそも、アンドレ・クラウチに認められたのを契機に、ゴスペル専門レーベルの<ライト(Light)>からデビュー盤をリリースしている。81~84年に3枚のアルバムを出した後<クウェスト>から85年に1枚出して本盤となっている。<クウェスト>は、クインシー・ジョーンズと<ワーナー・ブラザーズ>が協同して設立したレーベルである。
本盤のプロデューサーは、マーヴィン・ワイナンズで、共同プロデューサーは兄弟の残り3人とバリー・ハンカーソン、エグゼクティブ・プロデューサーとして、クインシーとハンカーソンに加えベニー・メディーナの名前がある。バリー・ハンカーソンは、ワイナンズのマネージメントも兼ねている。一時期グラディス・ナイトの夫だった事もあり、アリーヤの叔父で、彼女やトニ・ブラクストン、R.ケリーのマネージメントも手がけた人物である。ベニー・メディーナは、79年に<ゴーディー>から1枚アルバムを出しているアポロのリード・シンガーに始まり、プロデュース業に転向した人物である。その他、本アルバムのバック・シンガーとして、ビービー・ワイナンズやマイケルの妻、レジーナ・ワイナンズなどが参加している。また、1曲目でアニタ・ベイカー、7曲目にマイケル・マクドナルドがリードを取っている。コンポーザーは、(1)(2)(3)(4)(8)がマーヴィン、(5)(9)がマーヴィン+カーヴィン、(6)はエルトン・ジョンの曲をカバーしたものでロナルドがアレンジしている。残る(7)は、マーヴィン+ロナルドにパーシー・ベイディーがクレジットされている。パーシーは、自身もゴスペル・チャート入りを果たしているシンガー・ソングライター、プロデューサーである。
チャートの動きをみると、彼らの人気の高さがうかがえる。2作目『Long Time Comin'』はゴスペル・チャート8位、3作目『Tomorrow』が同チャート3位、<クウェスト>に替わっての4作目『Let My People Go』でゴスペル・チャート1位に達し、R&Bチャートでも57位となった。本盤もゴスペル・チャート1位を獲得し、R&Bチャート30位、ビルボード・チャートで12位の成績である。その後も90年の『Return』はゴールド・ディスクを受賞している。
(1)Ain't No Need To Worry
前述したように、アニタ・ベイカーが加わった曲。リード・シングル(裏面は「Millions」)としてR&B/ヒップホップのシングル・チャートで15位を記録。88年のグラミー賞も受賞している。別ヴァージョンやインスト版も含めた12inchもリリースされている。テンダー・ヴォイスにしなやかに絡むアニタ。R&B調ではあるのだが、ゴスペルらしさも感じられるし、アニタもメリスマ唱法を意識しているように思える。
(2)Millions
メロウでアーバンな雰囲気が漂う。バリトン系のテナーやファルセットで豊かに盛り上がる。
(3)Breaking of Day
厚みのあるコーラスを聴かせる。トロピカルな感覚も持つダンサブルな曲である。
(4)What Can I Say?
メロディアスなバラード。ラストの1曲みたいだ。
(5)Right, Left In a Wrong World
シンコペーションを効かせた曲。ここまでゆったりめの曲が続いたので、スパイシーなアクセントになっている。
(6)Don’t Let The Sun Go Down On Me(ディスク版が無かったのでライブの様子を)
エルトン・ジョンのオリジナルは、彼らしい切なさを感じる素朴なバラードだが、ワイナンズが手掛けると逞しく盛り上がる。まさにゴスペル化されている。
(7)Love Has No Color
(4)「What Can I Say?」を裏面にしてリミックスを施したシングル盤が出ている。マイケル・マクドナルドの参加曲。3つのヴァージョンを収録した12inchもあり。ゴスペル・グループらしいコーラスが印象的である。
(8)Give Me You
87年に(4)「What Can I Say?」と合わせて3ヴァージョンを収録した12inchが出ている。アルバム全体の落ち着いた雰囲気を考えると、この曲あたりはダンサブルな面もある。乾いたドラムの音が良い。
(9)How Can You Live Without Christ?
ラストにふさわしく、淡々としながらも終盤は締まっている。
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