[109枚目]●ファクツ・オブ・ライフ『コンプリート・レコーディングス』<クリンク>(08)
※本文を書くに当たり、鈴木啓志さんのライナーノーツと原盤をコンパイルしたトニー・ラウンスのライナーノーツを大いに参考にしています。
日本語解説付き輸入盤。正式なグループ名は冠詞がついてThe Facts Of Life。原盤は<エイス>系<サウスバウンド>発『Just The Facts The Complete Kayvette Recordings 1975-1978』である。タイトルにある通り<ケイヴェット>レーベルの作品集。もっとも、<ケイヴェット>にしか所属していなかったので、ファクツ・オブ・ライフ(以下FOL)の全作品集という事になる。<ケイヴェット>は、<T.K.>系のレーベルで75年~81年まで存在した。ヘンリー・ストーンと共同でレーベルを設立したブラッド・シャピロの奥さんと娘さんの名前を組み合わせたのが、レーベル名の由来だと言う。
ジャケットを見れば判るように、メンバーは、女性1名、男性2名の組み合わせ。となると、女性を中心に据えていそうに思えるが、そんな事はなく3人とも魅力的な歌唱を聴かせるし、絡みもすばらしいものがある。女性は、ジーン・デイヴィス。シカゴ・ソウル界、モダン・ソウル界の重要人物、タイロン・デイヴィスの妹になる。66年~72年まで活動した4人組女性グループ、ハニー・アンド・ザ・ビーズ(のちザ・ヤム・ヤムズに改称)に所属した後、兄の前座などを務めていた。男性2人は双方ともバリトン系の迫力がある。ハイ・バリトンとも呼ばれるテナー・シンガーのチャック・カーター。FOL加入前は66年<ブランズウィック>、69年<ベッドフォード>からシングル盤を出している。バリトンのキース・ウィリアムズは、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズやザ・フラミンゴスに所属していたシンガーとの事。3人ともFOL以後の動きはつかめていない。ちなみにジーンの左手で腕を組んでいるのがチャックで、右手側がキースである。
3人がグループを組んだ経緯には、ミリー・ジャクソンが大きく関わっている。タイロン・デイヴィスのシカゴ公演のゲスト・パフォーマーだったミリーが、タイロンに帯同していたジーンと出会ったのが契機となった。チャックとキースはミリーのご近所さんで、やがてこの3人を組ませようという発想に至った。ミリーはソウル・シーンを代表する名シンガーでパフォーマーだが、プロデューサーとしての手腕も十分にある。まずはグループ名を、自らの74年アルバム『I Got To Try It One Time』内の曲名からゴスペル・トゥルースと名付けた。旧知の間柄(名盤『Caught Up』などの共同プロデューサー)であるブラッド・シャピロの<ケイヴェット>からデビュー・シングルはリリースされた(75年)。本盤ディスク1の(7)と(12)がそれである。(7)「Uphill Peace Of Mind」はフレデリック・ナイトの作品。彼自身は、ゴスペル・トゥルースより1年遅れの76年にシングルで発表、77年のアルバム『Knight Kap』にも収録されている。FOL盤は、残念ながらヒット作とはならなかった。ミリーは、グループ名に「ゴスペル」を付けたためソウル・ステーションが取り上げにくかったのだろうと推察している。同じ76年にハードコア・パンクバンドのキッド・ダイナマイトが取り上げている。
ミリーとブラッドはグループ名を考え直した上、次回曲の構想を練った。ルーサー・イングラムのヒット曲でミリー・ジャクソンもカバーした「(If Lovin' You Is Wrong) I Don't Want To Be Right」のような“浮気ソング”に着目した。同曲と同じ作曲コンビ(ホーマー・バンクス+カール・ハンプトン)で、バンクス&ハンプトン名義で76年にリリースしている(2)「Caught In The Act (Of Gettin' It On)」を同じ76年に発表した。目論見は当たりR&Bチャートの13位に達した。続いてミリーは、カントリー・ソングのヒット曲を取り上げた。ビル・アンダーソン作品で、ビルとメアリー・ルー・ターナーのふたりでカントリー・チャートの1位を制した(1)「Sometimes」である。オリジナルは75年発、FOL盤は76年のリリースである。チャート的にも好調でR&Bチャート3位、ホット100は31位に到達した。本盤の英文ライナーだと(2)→(1)の順番に読めるが、鈴木さんのライナーによれば(1)→(2)の順番のようだし、discogsもその順番で並べてある。ただし、レコード番号は(2)が若番である。もうひとつ、ネットで調べた所(2)→(1)の順番だったのでこちらの可能性が高いか。同年のリリースだけに正確なところがよく判らない。いずれにしろ、2曲とも好成績を収めたのでアルバムのリリースを急いだ。その為プレスの品質が悪く、外カバーにスペルミスも発生してしまった。77年『Sometimes』(R&Bチャート33位、ポップ・チャート146位)がそれである。78年には2作目のアルバム『A Matter Of Fact』をリリースするがあまり振るわず、おまけに<T.K.>自体が経営難に陥って(最終的に81年に倒産)、FOLも同時に沈んでしまった。
録音は全てマッスル・ショールズ・スタジオで、ストリングスとホーンズはマイアミのクライテリア・スタジオが利用されている。
前説が長くなったので、今回の音源の貼り付けはディスク1(全13曲)の内7曲にして、次回につなぐ事とします。
【ディスク1】
アルバム『Sometimes』の11曲にシングルオンリーの2曲がプラスされている。『Sometimes』はガイドブックにもよく登場するので印象に残るジャケットである。
1. Sometimes
「キミ、結婚してるの?」「時々ね」という“大人の会話”ではじまる。カントリー・ソングにも“浮気ソング”があるのだろうか。ジーンは少し鼻にかかったような良い感じにクセのある声で、突き抜けるように歌うさまは、私の好きなトミー・ヤングをほうふつとさせる。
2. Caught In The Act (Of Gettin' It On)
前記の通り、ホーマー・バンクスとカール・ハンプトンの作品。チャック・カーターだろうか、出だしから熱く歌い上げるのにジーンが鋭く絡んでくる。
3. Bitter Woman
ジョージ・ジャクソンとレイモンド・ムーアの共作。 ほど良いミディアム・テンポが心地良い。歌唱というよりサウンド中心に展開する曲。途中のギターソロもなかなか良い。終盤はジーンのシャウトが映える。
4. Lost Inside Of You
バーブラ・ストライサンドとレオン・ラッセルの作品。バーブラのミュージカル映画『A Star Is Born(スター誕生)』の中の一曲(76年)。(5)と併せて77年にシングル化。ジーンを中心にドラマチックに歌い上げる。
5. Looks Like We Made It
80年代にもつながるようなモダンさを感じる曲。ザ・クルセイダーズ「Street Life」などを作詞したウィル・ジェニングスと、イギリスのシンガー・ソングライター、リチャード・カーの作品。バリー・マニロウの76年アルバム『This One's For You』内に収録され、翌年シングル化されている。ビルボードホット100とアダルト・コンテンポラリー・チャートで1位を獲得したヒット作である。
6. A Hundred Pounds Of Pain
歌手志望だったが、ソングライターとしての実績が評価されているローズ・マリー・マッコイ(代表作「It's Gonna Work Out Fine」など)がレニー・ウェルチと作った曲。レニー自身が74年にリリースしている。ベースラインを始めファンキーさが心地良い。
7. Uphill Peace Of Mind
男性ふたりで迫力十分に迫っている。
(つづく)
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