
[112枚目] ●V.A.『The Earliest Negro Vocal Groups - Vol.3(1921-1924)』<Document>(95)
1921年から1924年の間に録音されたブルースやゴスペルを歌ったグループを3組紹介している。サザン・ニグロ・カルテット、フロリダ・ノーマル・アンド・インダストリアル・インスティチュート・カルテット、ケンタッキー・トリオの3組である。全24曲となるので2回に分け、今回は14曲収録されているサザン・ニグロ・カルテットをご紹介する。
サザン・ニグロ・カルテットは、ヴァージニア州ノーフォークを拠点とする男性のみのヴォーカル・カルテット。収録曲は<コロムビア>からリリースされており、(9)(10)だけ<コロムビア>系列の<ヴェルヴェット・トーン>から発表されている。(1)~(6)が21年、残りが24年の録音で収録月はバラバラである。収録地は全てニューヨーク。24年の録音からサザン・カルテットと名前が変わったのかと思ったが、SP盤面の表記はつどつど違っているので正確な所は判断が難しい。表記が分かる部分は曲紹介のパートに記載します。CD自体は録音パーソネルの部分で記載を変えているが、アルバムタイトルなど全体ではサザン・ニグロ・カルテットで通しているので、それを第一義に考えて良いと思う。尚「カルテット」のスペルも「Quartette」だったり「Quartet」だったりする。ちなみに<ドキュメント>の編集者はジョニー・パース。
メンバーはジョージ・ペリー、アーサー・バンクス、ジョニー・ジョンソン、レミュエル・ジョーンズ。24年のサザン・カルテットはジョニー・ジョンソンがファースト・テナー、サーマン・ケリーがセカンド・テナー、アルバート・ジョンソンがバリトン、ビーチャー・デイヴィスがベースとCDには表記されている。また、discogsではウォルター・ハリスという人物の名も上げられている。尚、CDの方にはジョセフ・ボウがマネージャーと記載されている。英文ライナーを読んでの話なので誤りがあるかも知れないが、<コロムビア>のセッション・ファイルによれば(1)~(6)はディキシー・カルテット(フォー・ブラザーズ)作品と記載されているようで、24年に登場するアルバート・ジョンソンがジョニー・ジョンソンの兄弟のようで、そういった事から推測されて最終的にサザン・ニグロ・カルテットの作品とみなされているようだ。しかしdiscogsで見られるSP盤の表記にディキシー・カルテットという名前は無いので、データが混乱しているのか私の読み違えもあるかと思われる(ライナーノーツは画像として貼り付けます)。サザン・カルテットにしろ、ジョニー・ジョンソンの名前があるためサザン・ニグロ・カルテットの流れであると判断しているのかも知れない。尚、20年代には、アフリカ系アメリカ人のためのヴォードヴィル・サーキットとしてT.O.B.A.(Theater Owner's Booking Association)が設立されていたが、サザン・ニグロ・カルテットもそこに所属していた。
1. Southern Negro Quartette - Anticipatin' Blues
ヴォードヴィル精神に満ちた曲。何かのテーマ曲ような盛り上がりを持つ。(3)と表裏で21年リリース。作曲者表記が「James」。
2. Southern Negro Quartette - He Took It Away From Me
(5)と表裏。盤面は「The Southern Quartette」 表記で22年リリース。作者はオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドのメンバーでもあるJ・ラッセル・ロビンソン。クラシック・ブルース歌手のラヴィニア・ターナーが歌っている(21年)。コーラスにジャイヴ感が漂う。
3. Southern Negro Quartette - I'm Wild About Moonshine
ヘンリー・クリーマーとターナー・レイトンのコンビが<ブラック・スワン>から21年にリリースしている(ふたりの共同作品 )。ターナーはシンガーソングライターでピアニストでもある。言葉は解らないがストーリー性を感じる歌唱である。
4. Southern Negro Quartette - I Ain't Givin' Nothin' Away
特にコーラスのバランスが取れている。(6)と表裏。盤面は「Southern Quartette」 表記。サディー・ジョーンズ&ハー・ジャザーズというグループが21年<リッチトーン>からリリースしている。作者はルイ・E・ゾーラー。22年にはストライド・ピアノの先駆者であるジェイムズ・P・ジョンソンもリリースしている。
5. Southern Negro Quartette - I'll Be Good But I'll Be Lonesome
ジャイヴ感満載のヴォーカルが競い合うように歌っている。ドイツ系アメリカ人のフレッド・フィッシャーの作品。メイミー・スミスの次に録音した黒人女性シンガー&エンターテイナーのルシール・ヘガミンの持ち歌(21年)。名義はルシール・ヘガミン&ハー・ブルー・フレイム・シンコペイターズ。
6. Southern Negro Quartette - Sweet Mamma (Papa's Getting Mad)
1910年代後半から20年代にかけて活躍し、ブルースも歌ったポップス歌手マリオン・ハリスが20年に発表した曲。作者はジョージ・A・リトル、フレッド・ローズ、ピーター・L・フロストの3人。この曲にもドラマ構成みたいなのがあるように感じる。
7. Southern Negro Quartette - Hard Trials And Great Tribulations
歌い方にもゴスペルシンギングを感じるが「厳しい試練と大きな苦難」というタイトルからも宗教歌であろう。(8)と表裏。25年のリリースで盤面表記は「Southern Quartet」。 ブライアンツ・ジュビリー・カルテットというグループも同名の曲を発表しているが28年以降の作品のようだ。
8. Southern Negro Quartette - My Lord's Gonna Move This Wicked Race
F.M.アスキューが作者。27年にはピルグリム・ジュビリー・シンガーズも録音している。 ジャイヴ感覚のカケラもない真摯なコーラスワークである。
9. Southern Negro Quartette - Hampton Road Blues
元気を呼び起こすような明るいコーラスである。(10)と表裏。24年リリースで盤面表記は「Southern Quartet」。メンバーのアルバート・ジョンソンがコンポーザーである。
10. Southern Negro Quartette - Lullaby Blues
メンバーのジョニー・ジョンソンが作者。 どことなく哀愁を感じる。
11. Southern Negro Quartette - Gonna Raise Ruckus Tonight
ヴォーカルの絡みが曲全体のリズム感を構成している。トラディショナル・ソングで、最初のリリースはノーフォーク・ジャズ・カルテットというグループ(23年)。次が24年のサザン・カルテットと資料にある。歌のタイトルは変わりつつも多くのミュージシャンに受け継がれている曲である。
12. Southern Negro Quartette - My Man Rocks Me
22年トリクシー・スミスが発表(トリクシー・スミス&ザ・ジャズ・マスターズ名義)。J・バーニ・バーバー作。 クラシック・ブルースの雰囲気からは外れるが、メインのフレーズを繰り返し、コーラスなどで一心に固めて聴く者に強く印象づけている。
13. Southern Negro Quartette - Hey Hey And Hee Hee (I'm Charleston Crazy)
前曲と違いクラシック・ブルースの薫りはするが、コーラスの力はここでも生きている。(14)と表裏。盤面は「Southern Quartet」表記。25年リリース。作者は、ジャズ・ピアニストのチャールズ・マットソン、有名音楽出版社を設立し、デューク・エリントンやキャブ・キャロウェイとも契約したアーヴィング・ミルズ、色んな職業を経験しながらソングライターでもあったロバート・アーサー・ブッカーの3人。当曲もマリオン・ハリスが歌った(24年)。
14. Southern Negro Quartette - Moanin' Groanin' Blues
アイダ・コックスが23年にリリースした曲。アイダ・コックス&ハー・ブルース・セレネイダーズ名義。作者はJ・ガイ・スドス(ジョン・アービー)。独唱でスタートしているのでクラシック・ブルースらしさは出ている。コーラスはベースやファルセットもよく聴こえ歌声の層が出来上がっている感じだ。
ヴォードヴィルやジャイヴ・ミュージックからゴスペル曲、ブルース曲まで歌いこなしたサザン・ニグロ・カルテットだが、曲の特徴に沿って伝える技量の高さを感じる。何でも来いっ!て感じなのだ。楽器が無くても人間の歌声だけで素晴らしい音楽は出来上がる証明を成している。
さて、次回は残りの2グループで、フロリダ・ノーマル・アンド・インダストリアル・インスティチュート・カルテットを4曲(22年)、ケンタッキー・トリオを6曲(23年)お送りする。

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