レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.115
[124枚目]●マディ・ウォーターズ『リアル・フォーク・ブルース』<MCA>(94)
※本文を書くに当たり、永井“ホトケ”隆さんによるライナーノーツ、およびキャリー・ベイカー(再発盤)、ウィリー・ディクスン(オリジナル盤)による英文ライナーノーツ(中山義雄さん訳)を大いに参考にしています。
私が持っているのは<チェス・ブルース・コレクション>中の1枚(MVCM-22016)。インナージャケットには30枚載っているがDiscogsを見るとコンピ盤も含め34枚出ているようだ。全体の監修を小出斉さんが務めている。オリジナル盤は66年にリリース(Chess LP-1501)。因みに日本盤には「ザ」が付いていないが、そもそものタイトルは『The Real Folk Blues』である。翌年には『More Real Folk Blues』がリリースされている。尚、サニーボーイ・ウィリアムソンとハウリン・ウルフにも同名のシリーズが2枚ずつあるのはよく知られている。マディ盤がシリーズの最初の1枚だそうだ。
アルバム・タイトルに「Folk」の文字を入れたのは<チェス>の策略だった。マディが最後にR&Bチャートに顔を出したのは58年だったので、若い世代に売り込もうと当時のブームであった「フォーク・ミュージック」にあやかり64年に『Folk Singer』というアルバムを出し、66年に本盤を出したという経緯があるようだ。通常、「フォーク・ブルース」と言うと「ルーラル・ブルース」と解釈され、アコースティックギター1本で奏でられる田舎のブルースとなる。マディには確かにルーラル気質があり、本盤に収録された曲の多くにもフォーク感はあると言えばある。ただ、そこから一歩抜きんでたサウンドがあるのも確かで、となるとタイトル通り「リアル」感はどうなのだとも思うが、これはちょっと頭でっかちな考えだろう。タイトルをどうのこうの言う前に音楽に浸るのが正解である。
内容的には47年<アリストクラット>でのデビュー盤「Gypsy Woman」をはじめ、50年代までの録音がほとんどで64年録音が2曲収録されている。コンポーザーは、マディ単独の作品が(2)(4)(6)(8)(9)(11)(12)、ウィリー・ディクソン作が(5)と(7)であり、他は各曲解説時触れる。尚、マディがギターを弾いていない曲は(3)(4)(10)と記されている。
ホトケさんのライナーノーツの中で、録音順に並べ直しポイントを解説されているので参考にして書かせていただく。最も古いのは(8)で、チェス側としてはシティ・ブルース系のサウンドを狙ったが商業的にふるわなかったそうだ。次に発表した「I Can't Be Satisfied」が好評だったため、その路線で(6)(11)のデルタ・マインドを持つ曲がリリースされた。さらに(2)(5)(9)と同じ路線が続く。徐々にバンド・サウンドを完成させて(1)(3)(10)(4)と絶頂期を迎える。(7)(12)あたりになるとヒット路線からは離れるが円熟味が出てくる、と解説されている。
55年録音、同年リリース。曲の作者は、マディの他エラス・マクダニエル(ボ・ディドリー)とメル・ロンドン。ボ・ディドリーが「Hoochie Coochie Man」のリフを借りて「I'm A Man」を作った(作者はボ本人だけ記載)が、そのアンサーソングとして「I'm A Man」を改作した曲をマディが発表した。オリジナル盤の裏ジャケに載っている曲目作者はウィリー・ディクソンになっている。演奏メンバーはリトル・ウォルター(ハーモニカ)、ジミー・ロジャーズ(ギター)、ウィリー・ディクソン(ベース)、フランシス・クレイ(ドラムス)。 尚、シングル盤のスペルは「Manish」になっている。R&Bチャート5位。さまざまなヴァージョンで聴いてきた名曲の骨格に触れたようで感慨深い。ひたすら男っぽいマディの声で始まりひっぱたくようなドラムが気分を高揚させる。その後クールなタッチも見せて波状的に盛り上がる。深みのあるバリトンヴォイスの力感は、教会のサーモンのようなディープさがある。
繊細に震えるギターにブルースのトラディションを感じる。オリジナルアルバム裏ジャケに記載してある曲名は「Screamin' & Crying」、シングル盤に記載された曲目は「Screaming And Crying」となっている。画像のレーベル名が隠されているが<アリストクラット>である。49年録音、50年リリース。演奏陣は、2種類書かれていて①リトル・ジョニー・ジョーンズ(ピアノ)、ランサム・ノウリング(ベース)、オディ・ペイン(ドラムス)、②リトル・ジョニー、ジミー・ロジャーズ(ギター)、リロイ・フォスター(ドラムス)。
作者はバーニー・ロス。56年録音、同年リリース。バックはウォルター・ホートンもしくはリトル・ウォルター(ハーモニカ)、オーティス・スパン(ピアノ)、おそらくパット・ヘア(ギター)、ウィリー・ディクソン(ベース)、フランシス・クレイ(ドラムス)。「Mannish Boy」の高評価で自信を深めたような威勢の良い歌声だ。
ドラムのバックビートとハーモニカのスタッカートが軽快な風情を作り上げ、マディのヴォーカルもゴキゲンに弾んでいる。58年録音、59年リリース。オリジナルアルバム裏ジャケの記載は「Walking In The Park」。
50年録音、同年リリース。前記した通りウィリー・ディクソンが作者となっているが、シングル盤の作者表記はマディ。また、曲名はオリジナルアルバム裏ジャケ及びシングル盤で「Walking Blues」となっている。伴奏はビッグ・クロフォードのベースのみ。オリジナル(というかヒントにしているのは)サン・ハウス版だがムードはだいぶ違う。しかし、どちらもデルタサウンドだ。マディの流れとしては、41年の「Country Blues」、48年「(I Feel Like) Goin' Home」から本曲へつながっている。ギターの刻みからスライドで延ばす部分など何とも言えない味わいがある。
本曲もビッグ・クロフォードのみ。49年録音、同年リリースの<アリストクラット>盤。裏面は(11)。震えるような細かいスライドを聴かせる。
昔の録音が続いた後に典型的チェス・サウンドが流れると、その黒い空間がヴィヴィッドに伝わる。64年録音、同年リリース。レコード盤の表記は「The Same Thing」。裏面は(12)。 バックは、オーティス・スパン(ピアノ)、ピー・ウィー・マディソンもしくはバディ・ガイとサミー・ローホーン(ギター)、ウィリー・ディクソン(ベース)、フランシス・クレイもしくはS.P.リアリー(ドラムス)。
47 年録音、48年リリースの<アリストクラット>からのデビュー盤。名前が「マディ・ウォーター」になっている。しかもwithサニーランド・スリムと記載しブルース・ファンが手を伸ばしやすくしている感もある。などと勝手なことをほざいたが、実はサニーランドがマディに<アリストクラット>での録音に参加するよう頼み、ついでにマディ名義で録音したとのこと。ホトケさんの解説絡みで前記したように、あまり泥臭くはない。サニーランドの他はベースにビッグ・クロフォード。
スライド多用のギターとだらけたようなヴォーカルが時代を遡らせる。50年録音、同年リリースの<アリストクラット>盤。 両面でPart1とPart2に分かれている。ビッグ・クロフォードのベースのみがバック。 元々は29年録音のハンボーン・ウィリー・ニューバーンの曲(別名「Roll And Tumble Blues」)。尚、同じ50年に<パークウェイ>にてマディがギター、リトル・ウォルターがヴォーカルとハーモニカ、ベイビー・フェイス・リロイがドラムで録音している。名義はベイビー・フェイス・リロイ・トリオで、シングル盤上はリロイのヴォーカルとなっているが、どうも2人の声が同時に聞こえる。しかも歌詞は歌わず唸っているだけ。
バーニー・ロス作。56年録音、同年リリース。 ウォルター・ホートンもしくはリトル・ウォルター(ハーモニカ)、パット・ヘアとヒューバート・サムリン(ギター)、ウィリー・ディクソン(ベース)、フランシス・クレイもしくはフレッド・ビロウ(ドラムス)。R&Bチャートに6週間ランクインして最高7位だった。Wikipediaでは、ジミー・ロジャーズのセカンドギターでの参加の可能性にも触れている。勢いよくかつ引き締まったヴォーカルに、絡みつくようなハーモニカと乾いたドラムが独特の空気感を作り上げている。ピアノとギターのサポートもナイス。
49年録音、同年<アリストクラット>盤にてリリース。 ビッグ・クロフォードのベースのみ。この曲に限ったことではないが、クロフォードの的確なベースがマディの奔放なヴォーカルとギターを映えさせている。
12. You Can't Lose What You Ain't Never Had
定型シカゴ・ブルースと言ってしまえばそれまでだが、全ての楽器がブルース表現に全力を尽くしている。64年録音、同年リリース。オーティス・スパン(ピアノ)、ピーウィー・マディソンもしくはバディ・ガイとサミー・ローホーン(ギター)、ウィリー・ディクソン(ベース)、フランシス・クレイもしくはS.P.リアリー(ドラムス)。
本シリーズの序文として小出斉さんが「本物は常に新鮮で古びない」と書かれている。私自身も改めて本盤を聴いてみて、いやあ、やっぱりマディは凄いと思ってしまう。スパークするような強烈な活力を感じたり、恐ろしいほどの深みを感じたりした。感情の音楽(そればかりとは言い切らないが)であるブルースを体現した最重要人物である事実は、このアルバムからも十二分に感じ取れる。
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