【雑誌を読んで】『本の雑誌』No.514 2026年4月 桜烏賊かっぽれ号
特集は「日記の時代」。日記の専門店<日記屋 月日>の店主、内沼晋太郎さんの「日記の時代」宣言。植本一子(うえもと・いちこ)さんと古賀及子(こが・ちかこ)さんの日記の書き手対談。3年連用日記の実験(藤岡みなみさん)。『断腸亭日乗』と『富士日記』の読み方(川本三郎さん)。日記に書かれる人の弁(山田剛史さん)。日記出版への道(佐藤舞さん)。おすすめ日記(諸氏)。日記で振り返る日本の歴史(永江朗さん)。
内沼さんは、日記を書く理由を「書くことで、私が見たものや感じたことが輪郭を持って記録される。そのことに私は生きている実感を得て、安心する。ここに書いておけば忘れない。ことばには限界があるし、私の筆力も不十分だが、消えてほしくないことを、書けるだけ書く」と述べておられる。「日記」は個人の生きた証(生きている実感)になり得る。人はその為に日記を書いているのだろう。内沼さんの「宣言」の背景にはそういった思いがあるのだと思う。
植本さんと古賀さんの対談は「書けないことは書いてない!」のタイトルで、「記録」と「エッセイ」のハザマを行き来する「日記文」に関して書く姿勢を中心に語られている。「自分の中にない言葉を使ったりしようとするとモゾモゾする」ストレートな表現者の植本さんと、ギミックを使う場合もある古賀さん。姿勢は違っても読み手を引き込めば(そして本人に一定の達成感があれば)OKだろう。
角川文庫編集部の山田さんが書かれているのは西村賢太さんの<日乗>シリーズに関すること。西村さんの人柄、日記に登場する人物としての心情、多少の誇張やすり替えの話、シリーズを通して変わった部分と変わらない部分について述べられている。私はシリーズを全巻購入済みなので読むのがいっそう楽しみになった。
『笹塚diary』の著者、佐藤さんは、日記を書く楽しさから製本した喜び、そして何より即売会で購入される感激について素直な文章で書かれていて、読みながら思わず笑みを浮かべた。市井の人が書く日記の魅力にも触れられ、面白くない日記はないと述べられているのは同感である。
各氏の「おすすめ日記」のコーナーで紹介されている日記は確かに面白そうで興味深かった。気になる作品はAmazonのリストに入れておいた。
「日記の歴史」は934年から2021年まで紹介されている。中で数編『青空文庫』というサイトで読めることを知り、いくつか読んでいたら『古川ロッパ昭和日記』とか読んでみたいなと思えたがアマゾンで探しても良い感じの物が無く、有っても高額である。この辺は記憶に残しておこう。そして時々『青空文庫』で読もう。
特集以外では、椎名誠さんのエッセイ「むかしはよかったなあ⑦ 銀座のカラスだった頃」が面白かった。諸般の事情から、会社のビルの屋上のさらに塔屋にテントを張り夜を過ごすことになり、おもいがけない数々の発見が語られる。椎名さんらしい、文字を追うのが楽しいエッセイだった。
スズキナオさんのエッセイで紹介されている中村安希さんの『うちに食べにきませんか』。異国での突然の家庭内での食事の誘い、うさん臭く思うのも無理ない状況で、中村さんは素直な気持ちで申し出を受ける。社会に排他的な空気が流れている時代、「もてなす喜び」が紡ぐ人間関係の美しさが伝わる一冊のようだ。
徳永圭子さんの書評エッセイも面白かった。紹介されているのは矢野隆さんの『猪之噛』(いのがみ)。女性猟師が主人公の物語。本の内容に触れるだけでなく、矢野さんと主人公のモデル、濱田暖子(あつこ)さんのトークイベントについても書かれている。『猪之噛』にも濱田さんにも興味はあったが、何しろ徳永さんの文章がスイスイ読めて内容の魅力以上に楽しかった。まるで素麺でも食べるように滑らかに頭に入り美味だった。
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