レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.98
[107枚目]●B.B.キング&ボビー・ブランド『トゥゲザー・フォー・ザ・ファースト・タイム・・・ライヴ』<ゲフィン/ユニヴァーサル>(15)
※本文を書くに当たり、鈴木啓志さんのライナーノーツを大いに参考にしています。
オリジナルは、74年<ABC>系の<ダンヒル>から2枚組LPでリリースされた。スタジオ・ライヴであり、ふたりの家族や友人が観客として招待され、中にはジェームス・ブラウンも居たとの事だ。私が持っているのは、B.B.キングの作品を安価でシリーズ化した内の一作である。尚、76年には第2弾がリリースされている。プロデューサーは、ボビー・ブランド作品他数々のアルバムに関わっているスティーヴ・バリ。バックは、B.B.のバンドとボビーのバンド双方から参加している。B.B.側はソニー・フリーマン(ドラムス)、ロン・リヴィ(ピアノ)、ルイス・ヒューバート(テナー)、ボビー・フォルテ(テナー)、ウィルバート・フリーマン(ベース)、ブランド側は、メルヴィン・ジャクソン(ドラムス)、ハロルド・ポティアー(ドラムス)、メル・ブラウン(ギター)がライナーで紹介されている。
上記のメンバー以外にも裏ジャケットに多くの人物がミュージシャンとしてクレジットされている。ある程度調べて見た。尚、担当楽器等は不記載なので、当方で調べた楽器を本盤内で演奏しているとは限らない事をご了承ください。記載人物は以下の通り。
マイケル・オマーティアン(キーボード)、ベン・ベネイ(ギター、ハーモニカ)、ミルトン・ホプキンス(ギター)、ケイトー・ウォーカー(B.B.のバンドでサックス)、ジョセフ・バートン(B.B.のバンドでトロンボーン)、エドワード・ロウ(トランペット)、チャールズ・パーク(不明)、トミー・パークソン(ソニー・フリーマンとバンドを組んでいるのでおそらくB.B.側、トランペット、バリトン・サックス)、セオドア・アーサー(不明)、セオドア・レイノルズ(不明)、レオ・ペン(不明)、ジョセフ・ハーディン(不明)、アルフレッド・トーマス(不明)。
主役ふたりの年齢は、B.B.が5歳年上であり、お互いに最初のヒットを放ったのもB.B.が51年、ボビーが55年と4年ほどの開きがある。あまり意味は無いかも知れないが、一応B.B.が“先輩”になる。
B.B.51年のナンバーワン・ヒット「3 O'Clock Blues」でスタート。<クラウン>からの1stアルバム『Singin' The Blues』所収。シングルは<RPM>名義。元々は、ロウエル・フルソンが<ダウンタウン>から48年に放った最初のヒット曲。B.B.にとっても記念すべき最初のヒットであり、5週連続1位で17週間チャートに入り続けた。ブランドのハードな歌唱に合わせたか、B.B.もテンション高めに歌っている。終盤のやり取りは特にヒートアップしている。
興奮を鎮めるかのように、語りから始まり自然な流れで歌に入り、歌から語りに戻っている。元々は、ジョン・リー・フッカーが54年<チェス>からリリース。タイトルは「It's My Own Fault」。B.B.の持ち歌としては、65年の『Live At The Regal』からシングル・カットされた。ブランドがB.B.に初めて歌詞を教えてもらった曲だそうだ。
チャールズ・ブラウンのヒット曲として有名だが、正確には彼が所属していたジョニー・ムーアズ・スリー・ブレイザーズが45年に発表したもの。そもそもは、チャールズが高校生の時に書いた曲であり、祖母に教えてもらったゴスペル・ソングをヒントに作ったそうだが、チャールズ自身がゴスペルとブルースを混ぜ合わせた事に気が引けていて、周囲の勧めにも関わらずスリー・ブレイザーズに参加するまで録音しなかったとの事だ。ボビー・ブランドが68年に<デューク>盤でシングル化して、同じ年のアルバム『Touch Of The Blues』にも収録されている。ライナーノーツによれば、デビュー当時からの持ち歌のようだ。余裕たっぷりの歌いまわしやギター演奏で、ひしひしとブルース濃度を感じる。終盤は、強打のドラム、突き刺すようなホーンズに負けない“うがいシャウト”が連発され、カオスにも似たエンディングを迎える。
ボビーが62年に「Call On Me」を裏面にしたシングル盤でR&Bチャートの1位を獲得した。両方の曲名をそのままタイトルにした63年のアルバムにも収録されている。解説によればソウル・スタイルに踏み込んだ曲。確かにソウル感覚が光っている。
B.B.キングが69年に発表したアルバム『Completely Well』に収録されている「You're Losin' Me」の曲名を変えたものだそう。ただし終盤はアドリブ曲に変わる。ひと通り演奏が終わった後、観客も巻き込み、パートナーを引き留めるための手立てをレクチャーし「ソーリー」のキーワードを繰り返す一幕を演出する。
ボビー・ブランドが59年に発表し、61年のデビュー・アルバム『Two Steps From The Blues』に収録されている曲。ホット100の89位。O.V.ライト、エタ・ジェイムス、エルヴィス・コステロ、ヴァン・モリソンなど多くのミュージシャンがカバーしている。ブルック・ベントンが作った曲。悲嘆に暮れる女性に寄り添っている、淡々としながらも温かみを感じるブランドの歌である。
テンポを上げてブランドの曲が続く。ドラムやホーンの軽快なリズムが歌唱を引き立てている。(6)と同じアルバムに収録され、62年に「St. James Infirmary」と共にシングル化されている。ウィルソン・ピケットのカバーあり。
(8) Don’t Want A Soul Hangin’ Around
次はB.B.の出番だ。タイトル表記は違うが「Don't Answer The Door」(66年Part1と2に分けシングル化)。67年のアルバム『Blues Is King』にも収録。ハリのあるギターに、力強いが力みのないB.B.の歌が満喫できる。ボビーは合いの手でフォローしている。
10曲のメドレー。a.「Good To Be Back Home」は当ライブでのアドリブ曲らしい。b.「Driving Wheel」はジュニア・パーカー61年のヒット曲。R&Bチャートに11週間とどまり最高5位だった(ポップ・チャート85位)。オリジナルは36年のルーズヴェルト・サイクス作。71年にはアル・グリーンが<ハイ>からリリース。R&Bチャート46位に達した。B.B.キング62年のアルバム『My Kind Of Blues』に収録されている。c.「Rock Me Baby」。起源は、リル・サン・ジャクソンの「Rockin' And Rollin」(51年)。56年にはマディ・ウォーターズが「Rock Me」として取り上げ、B.B.は64年「Rock Me Baby」名で発表した。同年のアルバム『Let Me Love You』にも収められている。d.「Black Night」はチャールズ・ブラウンが51年R&Bチャートを制したヒット曲。ボビー・ブランドが64年に発表、ホット100で99位になっている。アルバム『Ain't Nothing You Can Do』に収録。
e.「Cherry Red」は、ジョー・ターナーがピート・ジョンソンの助けを得て51年に発表。エディ・“クリーンヘッド”・ヴィンソンの持ち歌としても有名。B.B.キング65年のアルバム『Confessin' The Blues』に収録。f.「It's My Own Fault Baby」(2)で説明済み。g.「3 O'Clock In The Morning」(1)で説明済み。h.「Oh, Come Back Baby」は、本アルバムには作曲者にビッグ・メイシオの名が記載されているが、解説によればロウエル・フルソンやレイ・チャールズのカバーがあると書いてあるのでウォルター・デイヴィス起源の「Come Back Baby」と思われる。63年のアルバム『B.B.King』所収。i.「Chains Of Love」はジョー・ターナー作品。51年発でR&Bチャート2位。ドク・ポーマスが書いたのだがアーメット・アーティガンが著作権を得ている。ふたりともカバーしており、B.B.が62年、ボビーが69年にリリースしている。ボビーのヴァージョンはR&Bチャート9位、ビルボード・チャート60位を記録している。j.「Gonna Get Me An Old Woman」はB.B.キングの曲。
メドレーは、各曲をそのまま歌うのではなく、女性を巡るふたりの喋りが中心(昔の音楽の話も少し)であり、艶っぽい話も交えながら曲名に掛けたストーリーが展開しているようだ。
(10) Everybody Wants To Know Why I Sing The Blues
B.B.の曲で「Why I Sing The Blues」。69年にシングル盤がリリース。収録アルバムは同年発表の『Live & Well』。オリジナルに比べより軽快なシャッフル仕立て。終始ギターのキレが良い。ベースソロが緊張感を引き継ぐ場面も。
セントルイス・ジミーが42年<ブルーバード>から、56年<パロット>からリリースしている。同名のアルバムにも収録。ハウリン・ウルフが62年にシングルでカバー。同年のアルバム『Howlin' Wolf』に収録。ボビー・ブランド版は73年シングル化。同年のアルバム『His California Album』に収録されている。R&Bチャート17位、ホット100で69位になっている。最後のトドメとばかりに正統ブルースを思いっきり。
B.B.キング73年の曲。同年のアルバム『To Know You Is To Love You』所収。ラストに相応しい開放的なナンバー。観客?にも歌わせて盛り上げている。
円やかな味わいのB.B.キングと、独特の苦味を持つボビー・ブランドの相乗効果は、ある程度予想出来ても、実際聴くとやはり感嘆してしまう。ライブ盤を多数発表していて旧知の仲のふたりとしては、相手と駆け引きをするというよりさりげないフォローや、ここぞという時に盛り上げるタイミングが抜群である。2作目を作ろうとしたのも当然だろう。
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