Bob Dylan

転向

ボブ・ディランという人、フォークからロックへの「転向」、ユダヤ人でありながらキリスト教への「転向」と、その時代では批判の矢面に立ったものの、音楽的には、さまざまの愛する音楽要素の「どの部分に深く関わるか」で作品を生み出しライブ演奏をしているのではなかろうか。

ミュージシャンは誰でもそうなんだろうけど、彼の場合、要素への関わりのディープ度が強過ぎて、それまでのディラン・ミュージックの流れでは、しばし理解できないのかな。時代の先を行くとかじゃなく、極端に掘り下げ過ぎなのか。

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意味のある繰り返し

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稚拙を承知で書く。ボブ・ディランを聴いていると、歌詞が判らなくても惹き付けられる。一つ思ったのは、絶妙の繰り返し感覚が彼の曲にはあるからではないか。パターンを楽しむ面も持つ、ブルースやロックンロールの善き体現者である事。そして、歌詞を詩的に綴る事。「詩」は訴えかける内容だけでなくリズムも重視される。曲構成と言葉綴りの両輪が心の琴線を弾ませるのだ。

♪"Desolation Row"

https://www.youtube.com/watch?v=hWq_sOMoq9w

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余分な力の抜けた力作

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●ボブ・ディラン『タイム・アウト・オブ・マインド』<コロムビア>(97)

http://www.bobdylan.com/us/home#us/music/time-out-of-mind...

アルバム冒頭から、個性的なダミ声に引き込まれる。特に1曲目は、慣れさせようとするかのように響く。ダミ声とはいえ、ハウリン・ウルフみたいなハードさも、トム・ウェイツみたいなクドさもない。スイスイ気持ちの中に入り、そっと苦味を置いていくような味わいがある。

サウンドも、淡々としているようで、独特の雰囲気(音の風景)を持つ。プロデューサーは相性の良いダニエル・ラノワ。プランの段階から、二人で徹底して音創りを進めたようだ。ある時は、ベーシストのみ固定し、二つのバンドを同時に演奏させたりも。しかも、各自の得意楽器でない物に当たらせたとか。またある時は、ブルース・ギタリストにブルースを封印させる等。これらは決して“実験”ではなく、二人の頭の中には、効果のほどが想定内としてあったと思う。

楽器のプレイヤーでもなく、音楽関係の仕事をしている訳でもない、凡人の私にその意図は読めない。ただ、こういう事をやると、ミュージシャンの刺激になり、各自の才能の原点、テクニック以前の地点に立ち返るような気がする。

結果的に出て来た音の、何と自然な事。まるで、川の流れや風のそよぎのようだ。痒い所に手が届く音という表現はよく聞くが、本盤の演奏は身体中撫でられて、自分の気付かなかった痒みを見つけて貰っているような感覚だろうか。統一感と、自由なインプロヴィゼイションが共存している。

  一度は、新曲は書かないと表明していたディラン。ツアーを重ねる内、ファン層に若い世代が増えてきたので、また曲を書こうと決意したそう。そして、生まれたのが、傑作の誉れ高い本盤。普通は気合いが入りそうなシチュエイションだが、この自然体。しかも新しい試みも成されている・・・。

ボブ・ディランはどう在るべきか、時代の様相や人々の想いにどう関わるべきか。そこを解っていて作品を創り上げるところが一番凄い。

♪"Not Dark Yet"

http://www.youtube.com/watch?v=0Yavmjh1Luo

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愛すべき精霊

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●湯浅学著『ボブ・ディラン~ロックの精霊』<岩波新書>(13)

http://book.akahoshitakuya.com/b/4004314534

ボブ・ディランの足跡を丹念に辿り、彼の人物像や音楽哲学を明らかにした一冊。彼のファンでなくても興味深く読める。

ディランは、60年代初頭から現在に至るまで、人々の心に残る音楽を創り続けている。沈黙した期間も有ったが、必ずや次のステップに実を結ぶような沈黙だ。

カリスマ性の強さや、他人を煙に巻くような発言が多いせいで、気難しくてミステリアスな印象を持たれやすい。しかし、実際は、ロックンロール精神、パフォーマー精神に長け、ライヴ好きだ。また、音楽で自己表現する為に必要な知識や技術を得る事に貪欲で一途である。「カリスマ」という言葉が空疎に思えるほどに、人間臭く、根っからの音楽好きの男なのだ。

湯浅さんは「精霊」というキーワードを上げておられる。その言葉が導き出される展開は、本書で最も圧巻な部分なので、そこを説明したら余りに無粋だ。但し、これから頁を開く方は、冒頭から「精霊」を意識して読まれるのも有りだと思う。

ディランの曲創りは詩を書く事から始まる。言葉が浮かばなければ敢えて前には進まない。「詩」は現実を抽象化するイメージがある為、「精霊」云々も頷けそうだが、そういう超人類的な精霊を湯浅さんは指していない。私は人間臭いと表現したが、民俗的というか、人類の営みから自然発生的に生まれ出る真実を、詩的言葉と音楽表現で表す精霊、それこそがボブ・ディランだろう。愛すべき身近な精霊なのだ。

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答えは風に舞っている

●長く続いたしつこい咳が治まったら、今度は歯が痛くなってきた。小さくとも“ブルース”は常に抱えるというのが私の愚論だが、自分勝手な話ではある。トラブルを招いているのは、結局自分自身なのだ。

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●湯浅学著『ボブ・ディラン~ロックの精霊』から。ディラン登場時のフォーク・ソング界は、政治や社会問題を批判する「トピカル・ソング」が主流だった。「風に吹かれて」は、世事を超え、人間の普遍的命題を歌った曲だ。そこが当時としては新しい。新しい故に誤解もされやすかった。

●「いくつ耳を持てば、民の嘆きは聞こえるのか?」「何人死ねば、あまりに多くの人が死にすぎたとわかるのか?」等と問いかけを重ね、「その答えは、友よ、風に舞っている」と結ぶ。湯浅さんによれば、この曲は世相を糾弾しているのではなく、人間のやるせなさの基盤である虚無的感情を描いたもの。この歌の何故に対して、答えを安直に出そうとする人間をこそ信じてはいけない。問い続けることが必要なのだ。

●それらを踏まえて私が思う「風の中の答え」とは。風は身近にありながら実体がない。“感じ取る”ものだ。他人の意見を鵜呑みにせず、自分自身の、自然な考えで真実に近付け、と教わっているのではないだろうか。本書はまだ途中までしか読んでいない(『セルフ・ポートレイト』がリリースされる直前)が、ここまで読み取ったディランの生き方自体と見事に重なる。やはり、哲学は、人それぞれの生き様に準じて創り上げられるものだ。だからこそ、人々の生き方の共通項ともなるのだ。   

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DJディランの微笑みと温もり

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●V.A.『テーマ・タイム・ラジオ・アワー・ウィズ・ユア・ホスト・ボブ・ディラン』<エイス>(08)

http://diskunion.net/portal/ct/detail/0413RK8264

熊本在住のカントリー歌手・チャーリー永谷さんは、日曜朝8時半から30分民放AMラジオで番組を持っておられる。私はその時間帯に床屋に行く事が多い。倒された椅子に身を委ね、蒸しタオルを当てられ目をつむっていると、カントリーソングが心地良く耳に入ってくる。休日の朝に、カントリー系の歌はよく似合う。身も心もゆったりと寛ぐ。媒体がラジオなのも、関係していると思う。

音楽の聴き始めがラジオだった事もあってか、ラジオから流れる音楽というシチュエイションは、種類を問わず耳に馴染む。音質云々より、音楽を通して伝わってくる「温かみ」みたいなものに惹かれていたのだろう。パーソナル性の高いラジオは、掛かる音楽のパーソナリティーをも感じやすくさせているのかな。番組を進行する人をパーソナリティーと呼ぶのも言い得て妙である。

天下のボブ・ディランと上記の戯言を一緒くたにするのは申し訳ないが、ディランもこの気持ち解ってくれそうな気がする。本アルバムを聴きながらそんな事を思った。

『テーマ・タイム・ラジオ・アワー』は、放送回毎にテーマが決められている・・・「父」「母」「食べ物」「銃」「女性の名前」など多彩だ(本盤に選ばれた曲がどのテーマに基づくか付記有り)。ボブ・ディランは06年~09年の間、この番組のDJを努めた。彼が各テーマについてどんな事を喋ったのかも興味があるが、本CDには喋りは一切入っていない。しかし、各曲のタッチに共通する「愉快な感覚」から類推するに、喋りも滑らかだったのではないだろうか。

全てがそうとは言えないが、Disc1は和む曲、Disc2はテンションが高まる曲が多い。ジャンルはカントリー(もっと細分化されるだろうが生憎と門外漢)、ジャズ(小唄からミンガスまで)、ブルース、ジャンプ、ソウル、ロック、ポップス、ジャマイカ、テキサス&メキシコと広範囲だ。先に触れたが、聴いていて愉しいものが多い。私と同じ音楽嗜好の方なら、メンフィス・ミニーやシスター・ロゼッタ・サープのギターワークが象徴的だとか、スリム・ゲイラードも登場と書けば、大体感じは掴めて頂けるかと。

ロックは全体にヨレヨレ系が多い。「トミー・ガン」(大好き!)が収録されているクラッシュのジョー・ストラマーを思い浮かべてほしい。もっとも、クラッシュはサウンドはタイトでヨレてはいないが。他のバンドはサウンドも心地好く揺れている。ディランがロックンロール系のバンドを演るならこんな感じになるんじゃないか。

数は少ないソウルも、サザンよりはノーザン寄りだ。あるいはアーリー・ソウル系。ジェイムス・カーもさほどコッテリではない。全体的に、ディープ過ぎないよう心掛けているかのようだ。情念のブルースマン、オーティス・ラッシュもアッサリ目。

このアルバムとラジオ番組の存在は、ピーター・バラカンさんの著書で知った。その時は、ディランの選曲なら、さぞかし懐旧モードで渋みの極致じゃないかと推測した。加えて「チェイン・オブ・フールズ」や「トミー・ガン」といった好きな曲も有ったので迷わず購入。結果、予想は気持ち好く裏切られた。

シリーズは3作品有る。アナログなペースで集めて行こう。

♪Charlie Rich "Tears a go go"
https://www.youtube.com/watch?v=_uLp3kyiH_I

♪The Donays "Devil In His Heart"
https://www.youtube.com/watch?v=hRAGi8lXFmk

♪The White Stripes "Seven Nation Army"
https://www.youtube.com/watch?v=0J2QdDbelmY

♪Joe South & The Believers  "Walk A Mile In My Shoes"
https://www.youtube.com/watch?v=4DYZP1ckfyA

♪Memphis Minnie "Me And My Chauffeur Blues"
https://www.youtube.com/watch?v=KiRoNuw5x4M

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ライク・ア・ローリング・ストーン

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●電気シェーバーの外歯を買い替えたら、スムーズなヒゲ剃りが出来るようになった。剃り跡がヒリヒリしていたのも無くなり、思いの外快適だ。もっと早く替えれば良かった。自分が置かれた状況は、変わってみなけりゃ分からない事もある。

●「理屈」という言葉は、A「正しい筋道」とB「こじつけ」と、両面的な意味がある。Aである事に自信満々な場合ほど、Bだったりする。それに気付かせる為、ふたつの意味を抱えているのかも知れない。真理は、放っておいても、周囲の人が必ず光を感じる。語る側は寡黙だ。

●ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」に詩われている「ストーン」は、「道端に転がっている石」の意味らしい。何の飾りもなく、目立った特徴もないのだが、常に一定の存在感を保持している・・・という内容の歌ではないが、私は「道端の石」にそんな魅力を感じる。ディランは、ご承知のようにカリスマ的な音楽家だ。道端の石みたいな存在なんて表現は当たらないかも。ただ、彼の魂は、石のように無駄な飾りはなく、昔から変わらず在るのではないだろうか。ディランのアルバムを聴き続けている訳ではないが、音楽的な変化は、彼の魂が変化した結果ではないはず。正に「変わりゆく変わらぬもの」だ。そういえば、マイルスの「それがどうした」は、ボブ・ディランにも当てはまる。

♪Bob Dylan "Like A Rolling Stone"

http://www.youtube.com/watch?v=hk3mAX5xdxo

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