Books

心のファインダー

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●藤原新也著『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』<河出文庫>(12/単行本09)

判で捺したような日常の、微妙な変化によりドラマが生まれる、そんな短編集である。

  根底にあるのは、人間の美しさや愚かさ、強さ弱さを愛おしく思う気持ちだ。作品の中で藤原さんは、写真家の、被写体に対する姿勢について述べている。曰く、撮影中は被写体に深い感情移入をするが、終わった後に気持ちを引き摺ってはならないと。本書の各短編もそんな意識で綴られていると思う。

  民話やファンタジー的感触のもの、大人の恋物語風、人生の深みを味わえるもの・・・感情移入の度合いが等しく強くなければ、同じ輝きは得られないだろう。

藤原さんは、得意なジャンルを持つ作家というより、あらゆる対象に心のファインダーを当てる写真家的作家だ。当たり前の理屈のようだが、実行出来る人はそういないのではないか。

  別の言い方をすれば、写真のキャプションを拡げたような文章だったり、写実性の高い文章というのとも違う。 写真家の心根が溶け込んだ文章なのだ。

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コルシア書店の仲間たち

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●須賀敦子著『コルシア書店の仲間たち』<文春文庫>(95)

一人の人間には必ず一つの人生がある。

イタリア・ミラノに在住していた筆者は、周囲からは「キリスト教左派の集まり」とみなされている「コルシア書店」を中心として様々な人物に出会った。書店を立ち上げたカリスマ的神父から書店で働く人々や出入りする人々。貴族の末裔、移民、農家育ち、ユダヤ人、 各々立場や思想、生活様式は違っても「人生」の変遷は等しく訪れている。

端正な文章で風景や人物の描写が成されていく為、各章毎にスポットの当たる人物に人生に於けるターニング・ポイントが来ても大袈裟にならず深みが増す。
筆者自身も夫を亡くしているのだが、大きく取り上げず、夫の居る自分も夫の居ない自分も、ある種淡々と表現されているのが妙にリアリティーがある。

ヨーロッパならではの民族間の葛藤なども、一市民としての視点から理解させてくれる。

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無名の意味

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●渡辺京二著『無名の人生』<文春新書>(14)

http://www.honzuki.jp/book/239044/review/156809/

渡辺京二さんの本は初めて読んだ。飄々としたお顔と熊本在住である親しみから興味は抱いていた。もちろん、近代史を中心とした諸作のアカデミックかつ読み物的側面も気になってはいた。

  本書は「人生論」の範疇に入るのだが、自然体で、決して教訓的ではない。

  正しい自己愛とは自分を甘やかす事ではない。間違った福祉やケアが管理化に繋がっているなど、何となく多くの人が現代社会の問題として気付きつつ違和感に止まっている事柄を簡明に説明されている。

  最も重要なのは生きる姿勢だろう。「世界」には二種類ある。実際に存在する地理的社会と、自分が生きていく上での自分中心の世界だ。自分中心とはいえ、名を売ろうとか出世しようという考えを無くし、真摯に努力する。たとえ苦しい境遇でも努力する。そして、人間いずれ死ぬのだから、死の瞬間まで生き切る。

さまざまな「人生論」で語られてきた事かも知れないが渡辺さんの立ち位置から述べられると腑に落ちる。

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人間らしい人間同士の関わりの物語

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●高瀬正仁著『とぼとぼ亭日記抄』<萬書房>(16)

小説だが、著者の“思い出”が下敷きとなっている。大学生時代の著者は極端な人嫌いで、友達もいなかった。個性的な、屋台のラーメン店店主・村澤との出会いが、彼の毎日を充実したものに変えた。

  鮮明な記憶を元に綴られる日々は、読む者を温かく包み込む。しかし、単なる人情話に終始しない。著者の仕送りを当てにして、借金を返さないといった、非常識な人物像も浮かんでくる。

  著者はそれでも店主に惹かれ続けている。とんだお人好しではあるのだが、「惚れた弱み」みたいな感覚なのだろうか。村澤の、非常識を常識として貫き通す破天荒な部分に強がりや照れも感じている。また、非常識は非日常にも繋がり、目立たず生きてきた著者にとっては世界が広がり、それも堪らぬ魅力だったのだろうか。

だが、村澤の悪行三昧がエスカレートし、結婚生活の危機を迎える。村澤の為にもなり、彼のせいで悲しい思いをしている人の為にもなりたいと奮闘する著者は、人間的に成長していく。互いの立場から頼られる存在となる。

  終始飾り気のない文章もこの辺りから佳境に入り、飾り気のない分抑制が効き、文字を追う速度も速くなる。終盤は、福岡の大学院に進む事で、手紙と電話のやり取りが主となり、読者としては、相手の様子が判りにくくなる分、展開が謎に包まれた感じもあり面白い。

  思い出語りと微かな光明でラストを迎えるが、結局は人情話・・・人間らしい人間同士の関わりの物語である事に気付く。人生、それに尽きる。

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偉くない「私」が一番自由

音楽もそうだが、文章もスイスイと頭に入るタイプの書き手がいる。米原万理さん、佐藤優さんもその範疇だ。このお二人が「盟友」とは知らなかった。ロシア繋がりではあるだろうが、今回佐藤さんが米原さんのエッセイ等を編纂した文庫本の「まえがき」を読むと、真剣で温かくユーモラスな文章そのものの付き合いであったのが判る。

http://hon.bunshun.jp/articles/-/4728

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偉くない「私」が一番自由  米原万里 佐藤 優編  文春文庫

http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167905989

しかし、読書メーターの評判は今ひとつか。

http://bookmeter.com/b/4167905981

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アメリカの光と影は、どちらも濃密である

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●『物語アメリカの歴史 超大国の行方』<中公新書>(91)

https://www.chuko.co.jp/shinsho/1991/10/101042.html

アメリカは何につけ「あけすけ」なんだろうな。曖昧さを許さない。

  美しい部分も醜い部分もストレートに提示する。ごまかしもごまかしとして押し通す。

  初期の大統領は将軍上りが多いとか。戦争の勝利者がヒーローとして奉られる。しかし「戦争」といっても元々そこに住んでいたインディアンやメキシコ人を追い出すもの。どうひいき目に見ても正義の戦いではない。これでは人種差別も平気なはずだ。

このあけすけさ、良い方向に進むか悪い方向に進むかで状況は変わるだろう。魅力を感じると共に辟易する、ある意味人間臭い国だ。

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人間の土地

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●サン=テグジュペリ著・堀口大學訳『人間の土地』<新潮文庫>(39/55)

詩的な文章(訳者は適任)で綴られている一篇。飛行機乗り(郵便物の輸送)が主人公である。遭難状態から奇跡的な生還を遂げた僚友や、自らの、死線をさまよった話などが軸となる。小さな存在としての人間や、それでも逞しく生きる本能を見つめた作品だと思う。

  作者自身も同業の経験があり、話に出てくるような苦難や歓びを体験し、最後は戦時中の飛行で消息を絶った人生である。

  自然の影響を受けやすい当時の飛行機を操縦する事は、常に死を意識する侍のような心境ではなかったろうか。主人公も、どこかニヒルな所がある。死にたくないと踏ん張る一方で、自分自身の行く末を冷静に見つめている部分がある。それが為に、人間て素晴らしい!と声高にならず(美しい部分ばかり強調せず)、誠実にリアルに、生と死について思いに浸れた。

  巻末に宮崎駿さんの一文。飛行機乗りの心理や、技術者達のロマンばかりでなく、人間の愚かさや醜さも書かれている。まるで、サン=テグジュペリの想いを端的に述べられているかのようだ。

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文学

芥川賞選考委員の一人、奥泉光さんが「既に他の権威ある賞を受賞している作家が芥川賞を受賞するのはどうだろうか?」といった問いに答え、「逆に、他の賞も芥川賞受賞者にどんどん授賞させるべき。芥川賞が一番偉いように思われている」。文学賞に詳しくはないので、コメントの持つ意義は的確には把握できないが、凝り固まった物の捉え方は進歩性が無いという風に解釈すれば腑に落ちる。

芥川賞と直木賞の「区別」にしろ、純文学と大衆文学という事なんだろうけど、どうも現代社会にそぐわない気も。司馬遼太郎さんは「自分に向けて書いているのが芥川賞で他者や社会に向いているのが直木賞」と区別されたそうだ。確かに、直木賞はストーリーテリング性が強いのかも。

  同じコラム記事の中で、選考に落ちた作品の理由(の一つだろうけど)が「日本人」が登場していないというのがあった。これはちょっと吃驚。日本文学に関する賞だから、日本人が登場するのが確かに自然ではあるだろう。だが、決め付けてしまうと、大事なものを見失う可能性だってある。文学の専門家に対して、文句を言うつもりはないが、読者の方が文学を楽しむ術を知っている気がする。それとも楽しんじゃダメなの?もちろん、読みやすい、理解しやすい言葉で書かれたものが楽しめるものではなく、読み応えがある、文字を追うのに、表現に浸るのに、夢中になれるものが「文学」だと思う。

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ジョニー・エイスの真実

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B.B.キング関連のCDや書籍が続発した為、一見便乗商法かと疑ったが、実は中身が濃ゆそうなのがチャールズ・ソーヤー著の『ARRIVAL OF B.B. KING: THE AUTHORIZED BIOGRAPHY / キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング』

http://diskunion.net/jazz/ct/detail/1006906150

B.B.の音楽人生を語れば自ずとブルース/黒人音楽の歴史を語る事になるのだろう。伝統の継承者、メリスマ唱法&スクイーズ...
・ギター、ラジオDJ、ロック・ミュージシャンへの影響、「ブルース」の代名詞、ライブ・パフォーマーと言う名の伝道師・・・本著でのモノサシがこれらかどうかは判らないが、重要なファクターではないかと思う。しかも、B.B.だけでなく、重要ミュージシャンにも触れられているようだ。推測ばかりで申し訳ないが、読み込んでませんので・・・。

今回書きたかったのは、ジョニー・エイスの死の真相を取り上げている部分。もしかしたら私が情報に乗り遅れているのかもしれないが、一般的には、彼はロシアン・ルーレットで亡くなったと伝えられていたと思う。

だが、当時楽屋にいたビッグママ・ソーントンの話が最も信憑性が高いようだ。立ち読みゆえ正確性は欠きます。ご容赦ください。

ジョニーは常に拳銃を所持していた。何しろ、車をぶっ飛ばしながら道路標識に発砲し、数字に穴を開けるのが“趣味”だったとか。しかし、粗暴な人間かと思いきや、ナイーヴな部分もあり、有名になってからも客席をまともに見れず、ピアノを弾く横顔しか見せなかったとか。大体、ナイーヴな性格の人はその反動が大きいとは思うが・・・。拳銃をよく人に向ける事もしていたらしい。

その日もビッグママに銃口を向けた。彼女は全盛期の体格なので、臆することなく銃を取り上げたらしい。ジョニーは懇願し、何とか取り戻す。すると、また態度を翻し、銃でからかいはじめた。その時楽屋にいた女性を膝に抱き、彼女のこめかみへ。

あれこれ、やり取りがあった後、結局自分のこめかみに当て発砲したらしい。回転式拳銃なので、その時、弾が入っていないと思ったか、あるいは元々死ぬ気であったか正確には不明だが、それが悲しい事実である事に変わりはない。

Johnny Ace - - Pledging My Love

https://www.youtube.com/watch?v=AT_eOiTwtoQ

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読む、聴く、出会う。

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●河合隼雄・立花隆・谷川俊太郎著『読む力、聴く力』<岩波現代文庫>(06/15)

http://bookmeter.com/b/4006022700

セミナーでの対談記録と、同テーマに拠る一文(谷川さんは詩)。

「読む」行為も「聴く」行為も、現代人は疎かになっていないか。「読む」は読書に限らず「先を読む」や「気持ちを読む」といった行為も含まれる。「聴く」は音楽を聴く事から、他人の話を聴く事まで含まれる。「耳を傾ける」と言えば良いか。

速いテンポで大量の情報が流れている世の中。文章や他人の話を深く掘り下げるより、情報や知識として「知ってる」「知らない」だけで終わる。これでは「読む」も「聴く」も不十分である。 各氏は各々の立場から「読む力、聴く力」を自己涵養する為のヒントを述べられている。河合さんは、心理カウンセリングの現場でのクライアントの話を聴く姿勢について。立花さんは、音が聞こえる身体の仕組みや、結局世の中は「出会い」であるといった話。谷川さんは、文字や言葉を超えた身体感覚の重要性について。

自分の糧になる「出会い」は、情報や知識のつまみ食いでは得られない。理屈以前の純粋な感動(身体感覚)が有って初めて「出会える」。カウンセリングも、クライアントに喋りたいように喋らせて、泣けてくれば泣くし、つまらなければつまらないと言うとの事。すると、相手の方で自分の問題点を掘り下げていけるらしい。クライアントの立場に立てば、聴いてもらった事で「出会えた」のだろう。

音楽や映画、小説、芸能等で、多数の支持を得ていても、自分にはピンと来ないというのが誰しもあると思う。この感覚が大事な気がする。感じてから考える意識を常に持っていれば、世間の動向に惑わされず、出会える。良い意味での我が道を行ける。

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