【映画】『キャディラック・レコーズ』
レーベル史を映画化した訳ではないので、<チェス>にはまだまだ個性的なブルースマンが居ると言っても続々出せないでしょうし、増えても混乱するばかりです。今の状況でも十分混乱している感じ。そういう意味では、もっとひとりの人物に集中した方が、ストーリー的には落ち着いた感じもします。
登場人物各々のキャラクターは好く出来ていると思います。リトル・ウォルターやハウリン・ウルフ、チャック・ベリーは、事実かどうかは別として、いかにも彼らが起こしそうな事・言いそうな事かなとも思いました。ただそれも映画の中のエピソードの一つに終わっている印象です。かと言って、主人公(と思える)のレナード・チェスにしろ、深く掘り下げて描き切れてない感じがするのです。
音楽マニア向け映画の宿命かというと、そうでもないと思います。例えば『レイ』辺りは音楽好きを喜ばせると同時に、レイ・チャールズという“人間”の才気や苦悩を見事に表現しています。レイ・チャールズが何者か知らない人でも、愉しめる作品だと思うのです。『ドリームガールズ』にしろ、ビヨンセ、ジェニファー・ハドソン、エディー・マーフィー等の、歌唱を通して演技しているような高度な芸に、ストーリー自体の面白さが相まって、心に残る映画となりました。
ビヨンセの名前を出したので『キャディラック・レコーズ』に於ける彼女について書いてみます。エッタ・ジェイムス役での登場でしたが、美人過ぎた感じがします。蓮っ葉そうな歩き方から下品な物言いまで“熱演”しているのですが、どうしても浮いた感じがします。エッタを知っているからこその思いかも知れませんが・・・。歌に関してはパワフルな“唸り”の部分などよく似せていますが、エッタ本人の場合は、地の声の部分に独特の“はかなさ”があります。それが逞しさと裏腹の色っぽさにつながり深い魅力に繋がっています。ビヨンセは『ドリームガールズ』の時はダイアナ・ロス的に甘い声を出し、この人もこういう歌い方が出来るんだと感心したものですが、今回は変身度が今一つだったかも知れません。もちろんエッタと比較しなければ感動する歌声です。
マディーに関してはもう少し貫禄が欲しいかなとも思いましたが、スターになってもマメで働き者だったらしいので、映画のようにコセコセした感じの人だったかも知れないですね。
私に黒人音楽の魅力を教えてくれた<チェス>レコードの話で、胸ときめかせたブルースマン達を描いているにも関わらず、冷めた印象に陥るのはなぜか?どうも明確に表現できないなあと思っていたら、ふとマーティン・スコセッシが企画した『ブルース・ムービー・プロジェクト』の事を思い出しました。あの一連の作品は一般的なエンターテインメント作品とは言い難いです。しかし、観た人にブルースの爪痕を残す作品群だと思います。ブルースファンなら涙の滲むような深い感動を覚えます。『キャディラック・レコーズ』との違いは何か?ドキュメンタリーに近いというのも有るでしょうが、基本的に、映像に漂うブルース臭の濃淡だと思います。ブルース映画にはなっていないという事ですね。<チェス>やブルースの存在を世間に知らしめはしたのですが、実際に<チェス>作品に耳を傾けた方が、遥かにブルースを理解できる手立てになるというのが、私が経験から結ぶ結論です。
http://www.imdb.com/title/tt1042877/
http://www.sonypictures.jp/movies/cadillacrecords/
http://www.youtube.com/watch?v=YApNirMC9gM
http://www.youtube.com/watch?v=A1FK620bS7A
http://www.youtube.com/watch?v=ez5izCf2DLI
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