【書評】ブルースと話し込む
●ポール・オリヴァー著、日暮泰文訳『ブルースと話し込む』<土曜社>(16)
ポール・オリヴァーは、ブルースに関する書物を著した人物の代表格だ。そして、評論家と言う立場からブルースの真髄を伝え続けている日暮泰文さんの訳である。日暮さんは一般的な評論家のイメージというよりは、まるでイタコのように、ブルース・ミュージシャンを歴史から浮かび上がらせ鮮やかに輪郭を象る。社会事情や各々の音楽稼業、或いは日々の生活等を背景に、生々しく存在が顕わになるのだ。
本書は、ブルース・ミュージシャン等へのインタビューを中心に編纂され、当時者の喋り言葉で構成されている。ギッターやミュージシャナーという独特の表現も出て来る。おそらく、原文の段階で黒人訛りがキツかったら、その通りに書かれているのだろう。それを訳した際にも、訛りが強い場合は強烈な田舎言葉で表現されている。他に、丁寧な言葉遣いだったり、ぶっきらぼうだったりするが、原文を忠実に訳された努力が窺え、改めて感服した。もちろん、ポール・オリヴァー自身の精緻な表現力或いは再現力あっての物種だ。
ミュージシャンや関係者の発言は、どうしてブルースを演奏し歌っているのかという本質的な部分や、先述したように社会的背景が見えたり、どんな毎日を送り、どんな場所でどんな風に演奏していたのか、知識として知っている事でも生々しく伝わってくる。
本書の初版は65年に発行されているが、インタビューは60年の時点で纏めてあったとの事。黒人差別が当たり前の社会であったという背景を、まずは意識して読むべきだろう。
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