レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.103(2)
[112枚目] ●V.A.『The Earliest Negro Vocal Groups - Vol.3(1921-1924)』<Document>(95)
前回は、全24曲中14曲収録されているサザン・ニグロ・カルテットについて書いてみた。書き残しというか一点あとで思いついた事を書かせていただく。ヴォードヴィル、ジャイヴ、ゴスペル、ブルースと広範囲の音楽を取り上げたグループであると書いたが、現代の感覚だとそうなるが、当時の感覚では全て“流行歌”で黒人文化の礎となっているという事こそ重要なポイントではないかと改めて思った次第。今回の2グループについてもその視点をあやふやにせず考えてみたい。
フロリダ・ノーマル&インダストリアル・インスティチュート・カルテットはフロリダ師範工業大学(ウィキペディアの日本語訳)の学生で結成されたカルテット。大学は、現在はフロリダ・メモリアル大学という名称で、創学は1879年と古く、歴史ある黒人の為のバプティスト系大学である。「師範工業大学」の名称は1896年から1950年まで使用されている。1870年代のフィスク・ユニバーシティ・シンガーズのように資金集めという側面もあったようだ。
彼らの録音は全て22年<オーケー>で行われている。資料によれば8曲マトリックス番号が振られているようだが、4曲不明でここに収録されている4曲のみがあらわになっている。尚、2015年に<サンコースト>というレーベルから、ここにある4曲収録のアルバムがリリースされている。
(17)とカップリングされている。とても真面目に曲に対して取り組んでいるような印象。時々汽笛の音を真似るようなコーラスを聴かせるが、それさえ真面目一徹な感じである。シスター・ロゼッタ・サープの持ち歌として有名なトラディショナル・ソング「This Train」のこれが最も古い録音となる。人気のある曲らしくゴスペル関係者にとどまらずヒルビリーやブルースなど多くのミュージシャンが取り上げている。
リードが先導して端正なコーラスで盛り上げる形が彼ららしさなのだろう。アメリカの音楽教育者でフォークソングの収集家でもあるトーマス・P・フェナーが1874年に集めた曲で、奴隷として母親から引き離された子供が歌ったものであると言われている。やがて公民権運動の賛歌ともなり、アリス・ウォーカーの小説のタイトルにもなっている。
前2曲に比べ動きのある曲。コーラスがラップのように響く。
力強いコーラスが映える曲。
ケンタッキー・トリオについてはメンバー名など不明な点が多い。ただケンタッキー州ルイヴィル出身のサラ・マーティンやシルヴェスター・ウィーヴァーの録音とマトリックス番号が近いという事でルイヴィルに関連性が高く、もしかしたらシルヴェスターの妻アンナがメンバーと近い位置にいるかも知れないとライナーノーツには記述されている(私の不確かな英語読みではあるが)。当盤に収録された6曲が<オーケー>に録音した全てで、23年11月2日に一度に録音されている。
ゴスペルを感じる部分とカントリー・ソングを感じる部分が合わさり、愁いと癒しの両方を感じる。
20. The Old Account Was Settled
作者はフランク・グラハム(メソジスト派教会の牧師)。最初の録音はケンタッキー・トリオだがジョニー・キャッシュなどもカバーしている。 コーラス自体のバランスとリードとコーラスのバランスがよく取れている。
21. God Gonna Set This World On Fire
素朴だが祈りの気持ちは確かに伝わる。黒人のスピリチュアルが原典のようだ。
エドワード・C・ディーズとジュリアン・アルフォードが1915年に楽譜出版している。 強弱が比較的ハッキリしているのでメロディーが印象に残る。
特にノイズがひどいので聴きづらい部分もあるが、リードが醸すムードやコーラスの温もりなどは伝わってくる。
24.Lord, I Want To Be A Christian
厳かな雰囲気に包まれた曲だ。オリジナルは、1750年代のヴァージニア州で伝道師サミュエル・デイヴィスの教えを得た奴隷が作曲したと伝えられ、霊歌などの収集家でもあるフレデリック・J・ワークが1907年に編集したらしい。
確かに地味な録音ではあるが、よく「地味」は「滋味」につながると言われたりするように、真摯な歌唱が深みを帯びている。前回のサザン・ニグロ・カルテットはまだエンターテインメント性を感じる部分もあったが、今回の2組はより素直な表現に終始している。日頃聴いているブルースやソウルはどうしても商業ベースの部分に触れなければならないが、今回のアルバムで展開されたグループのように、(全く商業ベースから離れている訳ではないが)まず黒人音楽のレガシーを感じさせてくれる点ではとても重要性を感じたアルバムである。
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