レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.105
[114枚目]●チコ・デバージ『アディクション(リアリティ・ミュージック)』<キダー/BMG>(09)
※本文を書くに当たり、荘治虫さんのライナーノーツを大いに参考にしています。
麻薬問題などでダーティーなイメージが拭えないチコである。2007年に薬物所持で逮捕(2度目)された後リハビリ施設も体験し、逆にその体験をテーマとした本アルバムをリリースするに至った。タイトルの『Addiction』は「依存症」と言う意味で、副題として「リアルな音楽」であると告げている。3曲ある「Interlude」も意義深いものになっている。
チコ・デバージは66年生まれで<モータウン>で活躍した姉弟グループ、デバージ(82年スタート)のメンバーではないが10人きょうだいの下から2番目になり、86年にソロシンガーとしてデビューしている。ファースト・アルバム『Chico Debarge』からシングル・カットされた「Talk To Me」がR&Bチャート7位、全米21位のヒットを記録した。その後もR&Bチャートにはランクインするものの「Talk To Me」を超える曲は出せなかった。87年にセカンド・アルバムを出した後、麻薬関連の罪で服役し10年の空白が出来た後、キダー・マッセンバーグが設立した<ユニヴァーサル>系列の<キダー>から3枚目のアルバムを出した。
本アルバムは、通算7枚目で、エグゼクティブ・プロデューサーとしてチコとマッセンバーグがクレジットされており、録音はニュージャージーにあるジョーのスタジオを中心になされたそうだ。細かいクレジットは曲紹介の部分に記載する。
1. Chico Debarge - Addiction Meeting (Interlude)
カウンセリングの場という設定か、話を聞く側の真摯でヒューマンな姿勢が語られた後、自分が元依存症患者である、と告白を始めるところまで表現されている。プロデューサーはマッセンバーグ。
2. Chico Debarge - Nefertiti / Center Of The Universe
チコとジェイムズ・ヘンダーソン(97年や99年のアルバムにも関わっている)の作。プロデューサーはチコ。ベースはジャズ系のリチャード・ボナ(渡辺香津美のニュー・エレクトリック・トリオにも所属)、キーボードがジョン・ディマーティノ(サックス、フルート、クラリネットもこなす)とチコ、ドラムスがヴィクター・ジョーンズ(ジョージ・アダムスやスタンリー・クラークなどと共演)、ギターがジョシュア・ポール・トンプソン。マーヴィン・ゲイ風のサウンドの中、静かに曲が進む。
ファースト・シングル。リムショットのリズムが効果的に刻まれている。チコとジョーとアンソニー・ベスト(バックワイルドの別名を持つヒップホップのプロデューサー兼DJ。ロード・フィネッセやファット・ジョーが所属するD.I.T.C.のメンバーでもある)の作品。プロデューサーはチコとジョー、リード・トランペットがジェイムズ・サンダース・ジュニア、フリューゲル・ホーンがバーニー・ブラウンⅢ、アルト・サックスがマーセル・ジーン(以上3名はZzajeというバンドのメンバー。ジョー「Wanna Be Your Lover」にも参加)、テナー・サックスがフェラー・ホワイト、トロンボーンがブラザー・ランダル・ムハメッド(ジョー「Miss My Baby」にも参加)、ギターがマイケル・ギャラガーとなっている。
4. Chico Debarge - Tell Ur Man
ジョーをフィーチャリング。曲作りとプロデュースは(2)と同じ。ギターはゲイリー・ベル。低音の響きが安定感を構成して、後半の切なげなヴォーカルにつながる。
5. Chico Debarge – Math (feat Talib Kweli)
タリブ・クウェリのラップをまじえ、タメの効いたリズムが心地良い緊張感を作り上げている。 曲作りのクレジットは、チコ、タリブ・クウェリ、S.ダグラス、J.スキート。プロデュースはチコとコルテス・ファリス(ジョーやエル・デバージ、ホイットニー・ヒューストン、アリシア・キーズなどをプロデュース)。プログラミングもコルテス。
6. Chico Debarge - Do My Bad Alone
作曲とプロデュース、全インストゥルメンツはチコ。サウンドの遊びを効果的に張りめぐらせている。
7. Chico Debarge - Slick (Addiction)
ジャズ的なサウンドの中、ヴォーカルも生々しく聴こえる。 作曲はチコ(プロデュースも)とジェイムズ・ヘンダーソンとジョシュア・ポール・トンプソン。ジョシュアは(2)のギタリスト。ベース、ドラム、キーボードが(2)と同じ構成、リード・トランペット、フリューゲル・ホーン、アルト&テナーサックスが(3)と同じとなる。
全インストゥルメンツをチコが手掛けてプロデュースも務めている。手作り感のある曲。
9. Chico Debarge - Medication (Interlude)
これもマーヴィン・ゲイを思わせる間奏曲。マッセンバーグも<モータウン>在籍時マーヴィンの生誕60周年を記念したカヴァー集『Marvin Is 60』を制作しており、チコ同様ひと方ならぬ思いがあったのだろう。前の曲と同様チコひとりで作り上げている。
10. Chico DeBarge - She Loves Me
ギターの響きに存在感がありリズムの核となっている。曲はチコとジェイムズ・ヘンダーソンで作り、プロデュースはチコとジョーが担当。ギターとキーボードは(2)と同じ。ドラムはチコが演奏している。
11. Chico Debarge - I Want You
チコとヘンダーソンの作品。プロデュースはチコ。ゆったりとしたリズムが陶酔へと誘う。
12. Chico Debarge - I Forgot Ur Name
メジャー路線に目配りしたようなキャッチーな曲である。 曲のクレジットは、チコ(プロデュースも)とヘンダーソンとルーサー・ヴァンドロス。ゲイリー・ベルのギター。
チコが作曲とプロデュース。世界的なドラムコンテストで選ばれたというエリック・ムーアのビートがヒップホップ感を強く打ち出している。
14. Chico Debarge - Chico's Prayer (Interlude)
(2)と同じリチャード・ボナのベースをバックに、ストリートで生きる苦難を神へ告白する。 作曲はチコ(プロデュースも)とクリスチャン・ディオール・デバージ。
15. Chico Debarge - Treasure
ボーナス・トラック。明るい兆しが感じ取れるような曲。チコとヘンダーソンの作品。
16. Lylit - Change
<キダー・エンターテイメント>からデビュー予定の新人リリットの曲が付け加えられている。白人女性のようで現在も活動は続けているようである。
<キダー>から3枚目のアルバムをリリースした後、99年に<モータウン>からキダー・マッセンバーグ(97年から2004年までモータウンの社長)と共同プロデュースで1枚出したものの、ふたりの間で意見の対立も生じたようで次のアルバム(03年)は自分で設立したレーベルで作りインディ大手の<コッチ>からリリースした。だが、同年仲間と口論になり刺されて深手を負った。その際に使用された鎮痛剤がドラッグにのめり込むキッカケになったと本人は言っている。本盤の発表が区切りになるかと思いきや、2019年にも薬物所持で逮捕、20年には長男が刺殺され、21年には交通違反で停車させられた際に兄になりすまそうとして、薬物所持、飲酒運転、偽装の罪で起訴された。こういったスキャンダルの話題でこのレビューを終わらせるのはとても残念で切ない。
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