
[123枚目]●エドウィン・スター 『ウォー・アンド・ピース』<ポリドール>(93)
※本文を書くに当たり桜井ユタカさんのライナーノーツを大いに参考にしています。
私が持っているのは<ポリドール>で80年代後半から90年代にかけてリリースされた「モータウンオリジナル名盤コレクション」の1枚。オリジナルは70年発の<ゴーディ>盤で4枚目(3枚目は女性シンガー、ブリンキーとのデュオ)に当たる。最大のヒット曲「War」を含む彼の代表作として親しまれているアルバムである。R&Bチャート9位、ホット200で52位に到達している。プロデューサーはノーマン・ホイットフィールド。アレンジャーとしてデヴィッド・ヴァン・デ・ピッテ、ヘンリー・コスビー(ファンク・ブラザーズのサキソフォニスト)、ポール・ライザー、ウェイド・マーカス、ウィリー・ショーターの名が記されている。
エドウィン・スターは、本名チャールズ・エドウィン・ハッチャー。42年、テネシー州ナッシュビル生まれでオハイオ州クリーブランド育ち。やがてデトロイトに住み、56年頃からフューチャートーンズ(チャールズ・ハッチャー名)、メトロトーンズ(オハイオのドゥーワップ・グループとは違うはず)、ビル・ドゲット・コンボなどで活動した。65年に<リック・ティック>から「Agent Double-O-Soul」(R&Bチャート8位)でデビュー。Discogsによれば67年までにシングル盤を4枚リリースしている。一時はミシシッピ州ジャクソンのキャプリーズの流れをくむホリデイズというグループにも所属して「I'll Love You Forever」(R&Bチャート7位)という曲でリードを取っている。スティーヴ・マンチャも参加しているようにDiscogsには記載してあるがハッキリしない。話が逸れるが、ダレル・バンクス盤のレビューを書いた時に、ドン・デイヴィスがホリデイズ盤やマンチャ盤のバックトラックを使用したと資料にあったので記載したのを思い出した。関係があるかも知れないが、どうも混乱していてまとめきれない。
ベリー・ゴーディJr.にとって<リック・ティック>は目の上のたんこぶみたいな存在だったようで、<モータウン>に吸収してしまう。従ってエドウィン・スターも<モータウン>に移籍する形となった。本盤発表前も69年「Twenty-Five Miles」でR&Bチャート、ポップチャート共に6位に達している。アルバム『25 Miles』もR&Bアルバムチャート9位になり、なかなかの実績を残している。
1. War(黒い戦争)
腹の底に響くような低音がベースになり、ベトナム戦争へのプロテスト・ソングらしい力強さに満ちあふれ、怒りや苛立ちといった感情がビンビン伝わってくる。ノーマン・ホイットフィールドとバレット・ストロングによって書かれた曲。当初はテンプテーションズ用に書かれ、70年のアルバム『Psychedelic Shack』に収録されていた。曲に込められたメッセージに共感したリスナー(特に大学生や若者)が曲をシングル化するよう<モータウン>に要望したが、会社としては<モータウン>のスター・グループであるテンプテーションズのイメージを崩したくない。ノーマンは会社にリリースするよう迫ったが、結局あいだを取ってエドウィン・スターに歌わせることになった。ノーマンは、抑え気味だったテンプス版に比べ、エドウィン版により迫力を持たせ、曲はビルボードのポップ・チャートで3週間トップとなった。70年の年間チャートでは5位。グラミー賞のR&B部門、最優秀男性歌唱賞も受賞した。この一曲でエドウィン・スターも一段と名を上げる存在になった。尚、オリジナルズとアンディスピューテッド・トゥルースがバック・コーラスで参加している。ちなみにテンプス絡みでいうと、エドウィンは「Cloud Nine」を71年シングル盤でリリース、アルバム『Involved』に収録されている。この『Involved』と『War&Peace』を組み合わせて(数曲追加と削除)2002年にCDがリリースされている。
2. Running Back And Forth
エドウィン本人とリチャード・“ポップコーン”・ワイリー(ノーマンのかつてのバンド仲間でもある)の共作。桜井さんがエドウィン・スターらしい曲と述べられている。(5)(6)もその線らしい。「War」で発生した熱を冷ますようにスーッと気持ちに入ってくる良質なソウルだ。(9)と一緒にシングル化。
3. Adios Senorita
再びファンキー路線に戻る。パーカッシヴで弾けるような演奏と歌唱にラテン・タッチも感じ取れる。ヘンリー・コスビーとシルヴィア・モイの作品(このコンビはスティーヴィー・ワンダー「My Cherie Amour」や「Uptight(Everything's Alright)」の共作者)。70年<タムラ・モータウン>のメキシコ盤4曲EPに収録されている。他の曲は(1)(8)(9)。
4. All Around The World
ギターリフが導くのでロック的にも感じる。タイタス・ターナーが55年に発表した曲だが、リトル・ウィリー・ジョンのデビュー曲でもある。69年にはリトル・ミルトンが「Grits And Groceries」としてヒットさせている。エドウィン版はミルトン版の押しを強くした感じか。
5. I Can't Escape Your Memory(君の思い出)
アイヴィ・ジョー・ハンターとジャック・アラン・ゴガの共作。モータウン・サウンドをひと捻りしたような曲調。
6. At Last (I Found A Love)
マーヴィン・ゲイが68年にリリース(共作者としてアンナ・ゲイとエルジー・ストーヴァー)。マーヴィンを思わせるミディアムのドライブ感が魅力である。
7. I Just Wanted To Cry(泣きたい気持)
乗りの良さはこの曲でも味わえる。痛快なノーザン・ソウルだ。エドウィン・スターとジョニー・ブリストルが書いた。
8. Raindrops Keep Falling On My Head(雨に濡れても)
これだけ耳に馴染みのある曲をテンポを上げてカバーするのはどうなんだろうと思うのは素人の浅はかさ。ショウアップしたアレンジは、劇場型ソウルとでも呼びたくなる。改めて原曲の魅力を知らしめている。バカラック=デイヴィッドの作品。
9. Time
(2)と同じくエドウィンとリチャード・“ポップコーン”・ワイリー作。「War」と同じようなサイケデリック・ソウル。
10. California Soul
69年にマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルがリリース。彼らのヴァージョンよりダイナミックでハードなアレンジとなっている。コンポーザーはアシュフォード&シンプソン。
11. I Can't Replace My Old Love(過ぎ去った恋)
聴き憶えのあるフレーズも感じるノーザン・ソウル。ハーヴェイ・フークア+アーサー・スコット+ヴァーノン・ウィリアムスが作った。
12. She Should Have Been Home
他の曲に比べれば淡々とした趣のある曲。ジョニー・ブリストルとドリス・マクニールの共作。
<モータウン>を去った後のエドウィンは、<20thセンチュリー>などに所属。「Contact」や「H.A.P.P.Y. Radio」などのヒット曲を出したがしだいに「過去の歌手」となっていき、83年にはイングランドに移住、同地のノッティンガムシャー州で61歳の生涯を閉じた。音楽的には『War & Peace』の存在はやはり大きい。アルバムは確かに魅力的だ。サイケデリック・ソウル、ファンクからノーザンソウルと、充実したサウンドもさることながら、彼の安定した歌唱も忘れてはならない。そして、ついつい「War」だけで彼の功績を語りがちだが、通して聴いてみると、各曲のバランスも良いし、ひとつの曲の中でも気持ちの込もった歌唱を聴かせてくれる。




















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