[100枚目]●V.A.『HALL OF FAME』<KENT SOUL>(12)
英<エイス><ケント・ソウル>のシリーズ物の充実度には定評がある。<フェイム>関連の作品集も、次から次へと濃い内容でリリースされている。2011年に3CDで『The Fame Studios Story』が発表された翌年に本盤が登場した。全24曲中21曲が未発表トラックで、残り3曲も初CD化というソウル・ファン垂涎の作品集である。コンパイルは安定のトニー・ラウンスだ。尚、<Pヴァイン>経由で日本盤も出ている。私が所有しているのは輸入盤。
1. YOU'RE SO FINE ・ JAMES BARNETT
ジェイムズ・バーネットは1枚のシングルのみを残しているシンガーだ。ダン・ペン=スプーナー・オールダム作品の「Keep On Talking」(66年)である。本曲はザ・ファルコンズ59年のヒット(R&B2位)のカバーだ。直接関係ないが、61年にロカビリー系の同姓ミュージシャンジョニー・バーネットもアルバムに入れている(綴りはBurnette)。偶然の一致だ。尚、ジョニーの方は64年に30歳の若さで亡くなっている。閑話休題。オリジナルに負けじと勢いの良い歌いっぷりを聴かせている。「Keep On Talking」が完成された感があるのに対して、本曲は粗い部分も感じ取れるのが却って魅力的に感じる。
2. I WORSHIP THE GROUND YOU WALK ON ・ JIMMY HUGHES
代表作「Steal Away」(64年作品で今回本盤に67年ヴァージョンが収録されている)で有名なジミー・ヒューズの66年のシングル盤。ダン・ペン=スプーナー・オールダム作品。典型的ミディアム・サザン・ソウルに仕上がっている。エタ・ジェイムスも『Tell Mama』(68年)で取り上げている。因みに「Steal Away」も<フェイム>で62年に録音されていた盤を<ヴィージェイ>が64年に配給したという形である。そもそも彼の音楽界デビューも、リック・ホールのオーディションを受けたのがスタートである。リックがクイン・アイヴィーと共作した「I'm Qualified」をリリースしたがパッとせず、一度はゴム工場で働いていたが、ゴスペル・ソングの「Steal Away To Jesus」を参考に「Steal Away」を作り上げカムバックしている。<フェイム>との縁は深いのだ。
3. I DO ・ JUNE CONQUEST
ダン・ペン=スプーナー・オールダム作品。<フェイム>での活動歴は、64年発のシングル「Almost Persuaded」しか記録にないので、本曲はお蔵入りの作品だったのだろう。ふくよかな歌い口で朗々と響く。曲は親しみやすいメロディーを持ち爽やかだ。ジューン以外に吹き込んだミュージシャンも多い。<ゴールドワックス>からヴェル・トーンズ、ダン・ペン本人、<アトランティック>からベン&スペンス、<アトコ>からスティーヴ・アライモといった所がライナーノーツには紹介されている。ジューンは、後にはカーティス・メイフィールドの<ウィンディC>や<カートム>に所属し、ダニー・ハザウェイとのデュエット「I Thank You」などを残している。
4. BLIND CAN'T SEE ・ RICHARD EARL & THE CORVETTES
女性コーラスに寄り添われて力強く歌う。作者不明の未発表曲だが、豊かな声量を生かした歌唱も含め、十分聴き応えはある。2020年発『This Is Fame 1964-1968』にも再収録されている。
5. TELL IT LIKE IT IS ・ BIG BEN ATKINS
アーロン・ネヴィル等で有名な曲ではない。アラバマ州ヴァーノン出身。<スタックス>と最初に契約した白人といわれる。傍系の<エンタープライズ>から発売されているアルバム『Patchouli』(71年)の半分ぐらいに、デイヴィッド・フッド、バリー・ベケット、ロジャー・ホウキンス、ジミー・ジョンソンといった<フェイム>のメンバーが参加しているので、その流れでの本曲録音かも知れない。小さい頃から体格が良く“ビッグ・ベン”と呼ばれていたらしい。体格通りのおおらかな歌声だ。ボビー・ブランドのような貫録を感じる局面もある。
6. ALMOST PERSUADED ・ JACKIE
3曲目で紹介した、ジューン・コンクエストがシングルで残した曲。ライナーノーツによれば、<フェイム>でバックコーラスを務めていたジャッキー・ウィーヴァーだろうという事だ。61年に<チェス>から「The Tingle」というシングル盤を出しているのが唯一の記録。本曲はドニー・フリッツ=ダン・ペン作品。甘ったるい声が特徴的だ。
7. WHEN IT COMES TO DANCING ・ JOE SIMON
名歌手ジョー・サイモンは、ローカル・エリアから<フェイム>と契約し、<ヴィージェイ>からシングルを出したのがメジャー・デビューと言える。65年にジミー・ヒューズもシングル化しているドニー・フリッツ=ダン・ペン作品。ソフトな歌い口が魅力的で、アーリー・ソウル的にも感じる。
8. IT AIN'T NO HARM ・GEORGE BYRD & THE DOMINOES
本盤がリリースされた2012年に、<ディスク・ユニオン>から本盤のプロモーションとして7インチシングル盤が250枚限定で出ている。フリップ・サイドは22曲目にあるボビー・ムーア&ザ・リズム・エイシズ「Baby Come Back」である。 ジョージ・バード名義では70年にレイ・チャールズ所有の<タンジェリン>からシングル1枚の他、ローカル・レーベルからシングル2枚リリースしている。深みのあるバラードで、哀切感が充満する。ジョージ・バード=ヘンダーソン・ハギンス作品。
9. KEEP ON TALKING ・ PRINCE PHILLIP
コンポーザーとしても著名なプリンス・フィリップ・ミッチェルである。ダン・ペン=スプーナー・オールダム作品で、<マーキュリー>系の<スマッシュ>へリースされたシングル盤(68年)。軽快な乗りに合うファルセット・ヴォイスが冴えている。
10. I NEED SOMEONE ・ THE ENTERTAINERS
ダン・ペン=スプーナー・オールダム作品。discogsには、メンバーとしてチャールズ・スミスとジェフ・クーパーの名前が記載してある。65年に「Too Much/I Tried To Tell You」のシングルが<チェス>にリースされている。ドゥーワップ・グループの趣を残すソウル・コーラス・グループである。
11. HAND SHAKIN' ・ BEN & SPENCE
ベンことベン・ムーアは、ソウル・デュオのジェイムズ&ボビー・ピューリファイの2代目ボビー・ピューリファイでもある。競り合うように歌うというより、声を合わせて歌い上げている。ドニー・フリッツ=エディー・ヒントン=スプーナー・オールダム作品。
12. MEET ME TONIGHT ・ JAMES GILREATH
ジェイムズ・ギルリースは白人のポップ/カントリー系のシンガー・ソングライター。曲も良く歌唱も一級のソウル・バラードだ。ギルリース本人の作品。
全24曲あるので、半分の時点で一旦終わり。演奏には触れていないが、躍動するベース、ソツのないドラム、味のあるギター、キレの良いホーンズ等、今更ながら安定したバックである。
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