レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.83
[92枚目]●ジル・スコット『ビューティフリー・ヒューマン : ワーズ・アンド・サウンズ Vol.2 』＜ヒドゥンビーチ／ソニー＞（04）
※本文を書くに当たり、林剛さんのライナーを大いに参考にしています。
"ネオ・フィリー"や"ネオ・ソウル"に関しては、旺盛に考えを述べる事が出来ない。知識が散らばりまとめ切れず、結局ミュージシャンひとりひとりに対する感想にとどまる。背景と絡める部分は少なくなるが、本盤を聴いて感じた彼女の魅力を述べてみたいと思う。まず、アルバム・タイトルに副題が付けられているが、これは、ライブ盤を除いた1stから3枚（本盤は2nd）に共通して掲げられている。『ワーズ・アンド・サウンズ』。言葉と音、両方を意識して聴いてほしいという思いだろうか。「言葉」は歌詞の内容だけでなく、歌声に乗せた言葉＝歌唱表現のアイテムとしての言葉であると感じ取れる。そういう部分を聴いていると、彼女の非凡さがうかがえる。
少ない知識と言いながら、背景について触れておくと、＜ヒドゥンビーチ＞だけでなくア・タッチ・オブ・ジャズ＞（以下ATOJ）にも強い関係性を持っているというのがポイントはである。＜ATOJ＞はDJジャジー・ジェフが設立したスタジオ兼レーベルで、一連のネオ・フィリー、ネオ・ソウルムーヴメントの中心組織と言える。ジャジー・ジェフ＆ザ・フレッシュ・プリンスの1stアルバム内にも「ア・タッチ・オブ・ジャズ」という曲があり、ジャジー・ジェフ自身「ジャズ感覚」を好んで取り上げている側面があるのかも知れない。本盤にもジャズ的展開が聴ける曲もあるが、しかし、即ネオ・フィリー＝ジャズ・フィーリングという等式が成り立つと結論付けるのは、真の魅力を削ぎかねない。ネオ・フィリーやネオ・ソウルは、落ち着いた雰囲気を持ちながら、熱い物が底に流れている、アッサリしているように思えるが力強さも感じる、「ふくよかな音楽」ではないかと思う。
内容に移ろう。①前作の最後の曲のエンディング部分等を流し、今作への繋がりを持たせているようだ。②は、絡むような歌い方だがウザくない。愛する人に全てを捧げるも、自分らしく生きるという決意の歌。③は力感のあるストレートなR&B。切ない曲調の④は、別れた男性への思慕の情を表現しているようだ。但し一方的な哀願ではなく、自立心のある女性である事が窺える。外様的な存在ながら、ジルが熱望したラファエル・サディークprod.の⑤はタイトルからも推察される通りロマンチックなチューン。ライナーでも書かれているように、トニ・トニ・トニ自体が70年代ソウル（当然フィリー・ソウルのパーセンテージが多い）を"ネオ"化したグループだし、＜ATOJ＞に直接関連が無くても親和性はある。⑥は所謂ポエトリー・リーディングを含む曲。直截的な愛の表現もあるがポエトリー化する事で昇華している。⑦はジャズ的要素を湛えながら独特なグルーヴが生まれている。リズムに合わせ自然と身体が動く。⑧もジャズ感覚に溢れる。⑨タイトル通り、親族のパーティー風景が目に浮かぶような楽しい曲。テンポが派手過ぎないので余計気持ちが安らぐ。
哀感漂う⑩は、別れた恋人への反省の気持ちが歌われているが、ここでもインテリジェンスを感じる。⑪愛の交歓に関する積極的な表現が成されているが、キュートな歌声とテンポの良い歌い口が明るいムードを醸している。⑫ゆったりとした曲。愛し愛される幸せを歌う曲は本盤でも多い。⑭は彼女の出身地ノース・フィリーでゲットーでの抗争？で命を落とした若者を悼むシリアスな曲。ハードな歌い方ではないが力感に溢れている。⑮信じきれない相手を懸命に諭そうとしているが、曲調はヒステリックな展開にならずサラッとしている。⑯は30秒のブランクを挟んだ2つの曲、更に30秒後⑰（⑦のアコースティックver.）。
デビュー作が250万枚のヒットを生み、グラミー賞始め各賞を受賞したジル。彼女が凄いのは注目を浴びても決して自分のペースを崩さず、音楽活動を続けた事だろう。アルバムは2015年の『ウーマン』で止まっているが、年齢を重ねてこそ到達する彼女の創造性に期待したい。
⑰ Bedda at Home (Acoustic Version)
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