リトル・リチャードという人は簡単に片付けられやすい。いわゆる「エキサイティングなロックンローラー」。それは確かにそうなのだが、彼のアルバムをジックリ聴くと、得られる印象も変わる。
どうせなら<エイス>発の『22クラシック・カッツ』がお薦め。
http://www.cduniverse.com/search/xx/music/pid/2600049/a/2...だいぶ前にリリースされた一枚だが、よく編集されている。サム・クックの『ザ・マン・アンド・ヒズ・ミュージック』、ジェイムス・ブラウンの『CDオブJB』にも匹敵する充実度だ。
チャック・ベリーのロックンロールの向こうにブルースやジャズを感じられるのと同様に、リトル・リチャードの音楽の奥にはニューオーリンズR&Bの風を感じる。ロイド・プライスでも聴いているような気になる時がある。ギターとピアノ、<チェス(正確にはチェッカー)>と<スペシャルティ>の違いというのもあるだろう。
とにかく、リトル・リチャードにとってのニューオーリンズ感覚が味わい深い。まったり感に溢れる曲から「グッド・ゴーリー、ミス・モーリー」とかが登場すると余計迫力が増す。その辺の味わいを是非多くの人に知って頂きたい。ポール・マッカートニーがカバーしているタイプの直情径行型だけではないのだ。
直情型といえばニューオーリンズとは少々離れるが、リトル・リチャードのヴォーカルはスタジオ録音を疑うほどヨレヨレ一歩手前だ。ポールのブレの無さに比べ却って人間臭い。後にゴスペルの世界に入った彼を聴いて印象に残らなかったのは、まったり感やヨレヨレ感から遠かったからではないだろうかと今になって思う。
ヨレヨレといえば、ポールならぬジョン・レノンがカバーした「スリッピン・アンド・スライディン」を思い出した。初めて聴いたのは彼が久し振りにライブを行うという触れ込みのNHKの番組を観た時。当時黒人音楽を知らなかった私は、彼が一曲目に選んだこの曲を彼のオリジナルと思い、乗り乗りで始まったなと思ったものだ。ただの乗り乗りではなく、ジョン特有のヌチャッとしたヴォーカルに合い、ユーモラスでもあり、一挙に楽しい気分になった。後にリトル・リチャードの曲と知り、ポールが得意とするリチャードの曲にしては異質な感じを受けた(ような気がする)。そもそもジョンがカバーするロックンロール曲にはハード・シャウトタイプの物は無いようだ。彼自身が透明感のあるフワフワした印象なので、人間性をそのまま曲に乗せたようなものが多い気がする。今思うと、期せずしてジョンがリトル・リチャードのニューオーリンズ的まったり感を“翻訳”してくれたのかなとも思う。もちろんただ単にジョンの感性で選ばれた曲だろうけど・・・。
すっかり脱線した。脱線ついでに・・・私個人的には、「ロックンロールはロックの元祖」という考えはあまり好きではない。厳密に言うとロックンロールからロックが生まれたという考えで終わるのが気に食わない。更に言うと「ロックンロール」というジャンルにエルヴィス、チャック・ベリー、リトル・リチャードをひっくるめて「それで終わる」のが気に食わない。音楽史の流れは確かにあるし、「ロックンロールはロックの元祖」というワードは間違いではないだろう。繰り返すが、考えをそこで止めるから駄目なのだ。特に黒人アーティストは“元祖”で片付けられる事が多い。個人個人のアーティストを深く知る事、もちろん音楽はお勉強ではないから、優れたアルバムに接してアーティスト像を確立する(感じる)事が音楽ファンに与えられた責務に近いものだし、この上ない愉楽だと思う。
リトル・リチャード『22クラシック・カッツ』を連続して22曲、安定した精神状態で聴けば、浅薄なリチャード像は消え去り、リチャード自身はどこから来たのか(彼もまた先史から繋がっているのだ)といった部分から、ポールやジョンの彼に対する想いまで“感じる”事ができる。このアルバムを編集した人物に、いくら感謝しても感謝し足りない。
♪"I'll Never Let You Go"
http://www.youtube.com/watch?v=HCVEGtrU-9U♪"Good Golly Miss Molly"
http://www.youtube.com/watch?v=oPmaVT-P5Ds♪"Slippin' and Slidin'"
http://www.youtube.com/watch?v=ZP3wdwRhpFs♪John Lennon "Slippin' and Slidin'"
http://www.youtube.com/watch?v=9XwzTuivX0I
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