Story
【創作】プレゼント
本作品は、『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話に乗っかったものです。お題は「キャンドル」「とら」「こうい」の3つ。更に縛りとして「サプライズのある話」という条件がありました。尚、リンク先と違い一部書き変えています。
※実在の人物名や団体名が出てきますが、全て完全にフィクションです。
会社の更衣室で制服に着替えながら、ユキコはタカシへのクリスマスプレゼントを思案していた。今年はコロナも落ち着いて、ひさしぶりにイブの夜を一緒に過ごせる。奮発してサプライズ感のある贈り物をしたいところだ。タカシは熱烈な阪神タイガースのファンなので、何か喜ぶ物をプレゼントしたいのだが、ユキコはあまり詳しくない。
デスクに座りPCを起ち上げると、最近大阪から転勤してきた課長の関西弁が耳に入ってきた。もしかして?と思い尋ねてみた。
「課長、阪神タイガースにお詳しいですか?」
「おお、おお、お詳しいなんてもんじゃない、大ファンやで」
「友達に相談されたんですけど、彼氏が熱烈な阪神ファンで、プレゼントを探してるんです。何かご存知ですか?」
「それはあれやな、とらオクが良いかも。タイガースファン専門のオークションサイトや。例えば伝説の85年優勝の立役者、バース、掛布、岡田のバット3本セットとか最高やで。一回見かけたんやけどなぁ・・・」
「へぇー、どうもありがとうございます」
帰宅してサイトを覗いてみると、確かに阪神ファンが喜びそうなグッズが目白押しだった。成約したリストも載っているが、高値の取り引きも結構あった。ちょっと資金が欲しいところだ。ここは思い切って自分が大事にしているものを売ろうかな。
ユキコは熱烈なジャニーズの嵐ファンだった。ちょうど「とらオク」のようなサイトが嵐ファンの間でも「あらオク」としてあった。う~ん、これとか結構食いつくかも・・・嵐のデビュー以来のドキュメント番組がネット配信限定で発表され後にDVD化されたのだが、大人の事情で本数が少なく、ファン垂涎の一品として有名だった。ユキコが思い切ってサイトに載せるとたちまち高値が付いた。よし、次は「とらオク」!勇んでサイトを開くとラッキーな事に、例の3本セットがアップされていた。そして何とか競り落とす事が出来た。
会社の更衣室で制服に着替えながら、タカシはユキコへのクリスマスプレゼントを思案していた。今年はコロナも落ち着いて、ひさしぶりにイブの夜を一緒に過ごせる。奮発してサプライズ感のある贈り物をしたいところだ。ユキコは熱烈なジャニーズ嵐のファンなので、何か喜ぶ物をプレゼントしたいのだが、タカシはあまり詳しくない。
デスクに座りPCを起ち上げると、女子社員同士の会話が耳に入ってきた。松潤を久しぶりに観たといって盛り上がっている。
「山田さん、嵐ファンなの?」
「ええ、ええ、大ファンです」
「友達に相談されたんだけど、彼女が熱烈な嵐ファンで、プレゼントを探してるんだよ。何か知ってる?」
「それはあれですね、あらオクが良いかも。嵐ファン専門のオークションサイトなんです。例えば嵐のドキュメンタリーのDVDで本数の少ないのがあるんです。あれとか最高だと思いますよ。一回見かけたんですけどねぇ・・・」
「へぇー、どうもありがとう」
帰宅してサイトを覗いてみると、確かに嵐ファンが喜びそうなグッズが目白押しだった。成約したリストも載っているが、高値の取り引きも結構あった。ちょっと資金が欲しいところだ。ここは思い切って自分が大事にしているものを売ろうかな。
ご存知でしょうが、タカシは熱烈な阪神タイガースのファンだった。ちょうど「あらオク」のようなサイトが阪神ファンの間でも「とらオク」としてあった。う~ん、これとか結構食いつくかも・・・伝説となっている85年優勝の立て役者、バース、掛布、岡田のバット3本セットを思い切ってサイトに載せた。たちまち高値が付いた。よし、次は「あらオク」!勇んでサイトを開くとラッキーな事に、例のDVDがアップされていた。そして何とか競り落とす事が出来た。
待ちに待ったクリスマスイブ。お洒落なレストランのテーブルには、雰囲気のあるキャンドルが設えてあり、先に着いて待っているタカシと脇に置いたプレゼントを静かに照らしていた。周りのカップルたちも幸せそうだ。
「結構、バット3本て重いわね」ユキコは持った事のないバットケースを、肩に掛けたり抱きかかえたりしながらレストランに向かっていた。持ちにくいプレゼントではあるが、煩わしさなど微塵もなく、とても満ち足りた気分で歩みを進めていた。
(おわり)
【創作】死なせてあげない
※お世話になっております『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話に挑戦しました。お題は「お盆」「ノート」「せいか」、縛りとして「怖い話」。以上の条件で創りました。どうぞお楽しみください。
【以下本文】
「ごめんなさい。私が勘違いさせるような態度を取ったかも知れないわね。きっとあなたには、もっとお似合いの女性がいるわよ。会ったらお喋りするぐらいのお友達でいましょう」
20歳の大学生、駒込 章、失恋の瞬間である。元々、女性を前にすると緊張するタイプで、自分から積極的に話しかけるような事はまず無い。今回も、学内食堂で同じ講義を受けている女子学生から「ノート貸してくれない?」と頼まれ、その時一緒に居た金澤鏡子に惹かれたのだ。女子達は3人組で、一緒に喋ったというより、3人が喋るのを聞いていたというのが正しい。
鏡子は初対面にも関わらず「章くん」と呼び、3人の中で一番、章に話を振ってくれた。その後、向こうからデートに誘ってくれ、映画を観に行き、ディナーを食べてバーで少し飲んだ。章は気の利いた話も出来なかったが、鏡子が楽しんでいるように思え、思い切って告白したのだが、思惑通りにはいかなかったのだ。
鏡子はその後も悪びれた様子もなく、親しげに振る舞ってきた。あっけらかんとした性格なんだろうなあと思う反面、少しいらつくような気持ちも正直、章にはあった。
そんなある日、鏡子がマンションに入ろうとしてた所に出くわす。
「あら、章くん、私の事つけてきた?」
「えっ?」
「まさかね。私ここに部屋借りてるのよ。良かったらコーヒーでも飲む?」
有無を言わさぬ雰囲気に、ひとり暮らしの女性の部屋に入るという、未経験ゆえの戸惑いさえ感じるヒマも無かった。男性の部屋と言っても良いくらい、茶色やベージュのシックな色合いでまとめた部屋だった。キッチンから鏡子が話しかける。
「章くんはバイトとかやってんの?」
「いや……」
「このマンションの1階にファミリーマートがあったでしょ。私はそこでバイトしてる。通勤は楽で良いわぁ」
かぐわしい香りと一緒に、お盆に載せたコーヒーを、鏡子はニコニコしながら運んできた。
「はい、どうぞ」章の前にコーヒーを置くと、自分もひと口飲み、まだ少しにやついた顔で鏡子が続けた。
「大体、章くんアレだよね。おとなしすぎるんだよ。真面目なのも良いけど、もうちょっとねぇ……」
「うーん、と言うか、」
鏡子は章の言葉を遮って喋り続ける。「ねぇねぇ、もしかして童貞?」
「う、うん」
「キャハハー、ウケるー」鏡子は仰け反って笑った。章は反射的に頭に血が上り、顔が紅潮していくのが自分でも判った。
「やーだ、顔赤いよ。童貞ぐらい大丈夫大丈夫!」鏡子は軽い調子で言ったのだが、章は正常な判断が出来なくなっていた。あまりに勢いよく自分に近付いてきたので、さすがに鏡子も危険を感じ、とにかく謝った。
「ごめんなさい、からかうつもりじゃなかったのよ」必死の訴えも章には届かなかった。理不尽な両手が鏡子の首を締め付けた。わめく事も泣く事も間に合わず、彼女は最期の時を迎えてしまった。
章にとっては唐突に、鏡子の苦悶の表情が目に入った。だが、力を緩めるのが遅かった。真っ白な時間が訪れた。それは自分の感覚では永遠のような時間だった。どうにか我に返った章は、ショックの余り震えが止まらず、彼女の様子を確かめる事もなくその場を去った。
その時、鏡子の魂は天井付近を漂い、自分自身と章の姿を見ていた。
「く、苦しい……なんてこと! 私死んでるの? 一体どういうこと、ううー、あいつ許さない! 絶対許さない!」
やがて大きな力に引っ張られるように、鏡子の魂は部屋を"抜けた"。
章は何度も嘔吐しながらどうにか自分のアパートにたどり着き、眠れぬ夜を過ごした。朝を迎えると、霞に覆われたような頭で昨日の出来事が現実なのかどうか考えた。ふと、鏡子に電話を掛けてみようと思い、携帯の履歴を見たが、ボーッとしているせいか見つけ切れない。電話帳で検索しても出てこない。おそらく無意識に自分で消したんだと思い、自分の罪が現実性を帯びてきた。自首しようと思い、近場の交番に向かった。しかし、どういう訳かたどり着けない。場所は確かに記憶しているのだがたどり着けない。暗澹とした気持ちで歩道橋の上に立ち、飛び降りようとした。だが、足が動かない。恐怖心というより物理的に動かないのだ。諦めてただひたすら歩き続けた。やがて鏡子のマンションに着いた。彼女が1階のコンビニでバイトしていると言ったのを思い出す。中に入り従業員に聞いてみた。
「こちらでバイトしている金澤鏡子さんは今日はいらっしゃいませんか?」従業員は鏡子を知らない様子で店長を呼んでくれた。
「かなざわきょうこさん? いや、ウチにはいないですね。ここのマンションに住んでる人? いや、マンションの住人でバイトしている人はいないよ」
一体どういう事だ。彼女が口止めをしているのか? とにかくマンションを離れ、鏡子といつもつるんでいたノートを貸した女子学生に電話してみた。
「あら、駒込君、どうしたの? えっ? かなざわさん? 誰? そんな人知らないわ。誰かと間違えてるんじゃない?」「いつも3人一緒にいたじゃない」「私はどっちかというと恵と2人でつるんでるわよ。誰かと勘違いしてるんじゃ?」ある程度予測はしていたが、鏡子の消息がつかめないどころか、彼女の存在さえ消されている。章は自分の罪を「確認」する術さえ失ったのか……。
その後、章は鏡子のマンションを度々訪れ、コンビニも再三利用していた。その内なぜか店長に気に入られ、そこで働き出した。鏡子に関する手がかりを得られるかもという意識もあった。やがて、実家の両親や兄弟が次々に不幸に見舞われ亡くなり、彼は天涯孤独となった。大学も辞め、コンビニ勤めを続ける内、店長が異動し、なぜか章が店長に抜擢された。鏡子と自分の罪に関する意識で、仕事は正直身に入らなかったのだが、従業員が優秀で、章は生活するのに十分な報酬を保証された。
40歳、50歳となり、せめて鏡子を供養しようと思い仏壇を購入した。位牌には金澤鏡子様と書き、遺影の代わりに彼女の似顔絵を書いてみた。朝な夕なに涙を流しながら謝り続けたが、いまだに自首しようとすれば警察にたどり着けず、死のうとしても思いを果たせなかった。一度、夜の街に繰り出しヤクザ者らしい男に喧嘩を売ってボコボコにされたが、殺せ殺せ!と強要したら気味悪がられ逃げられた。
中高年から老年に差し掛かる頃、身体中に痛みを感じるようになった。絶え間ない頭痛だけでなく、肩と背中の異常な張り、内臓から来る腹部の痛み、膝や関節の痛み……病院に行っても「異常なし」と言われるばかり。仕事を辞めて年金暮らしになったが、一日中寝ていなければならない日もあった。食欲もないのだが、体重は減らず。苦痛は増しても死に至るような事態にはならなかった。何の為に生きているのか判らず、死なない自分が悲しくてならなかった。首を括ろうとしたら紐が切れ、包丁で腹を刺そうとしたが自然に反れてしまう。
起き上がるのもやっとの身体で仏壇に拝み続けたが、来る日も来る日も絶え間ない苦痛の中で生きた。齢90を迎える頃、どうにか入院させてもらえる事になった。ひたすらベッドで過ごし、動きと言えば、手にした数珠を握り締め鏡子への謝罪を続けるぐらいだった。そんなある日、見覚えのない看護師がコップを持って近づいてきた。
「駒込さん、これを飲んで下さい。これで楽になります」笑みを浮かべる看護師の指示に素直に従い、彼の人生は終わった。
遠方に、色とりどりの花が咲く一帯が見えた。章は、ゆっくりした川の流れに浮かぶ舟に、ひとり乗っていた。舟は花畑の方には行かず、ゴロゴロした岩だらけの岸に着いた。おどろおどろしいまでの空の黒さと閑散とした風景に、章は自分がどこに来たか了解した。画に描いたような、金棒を担いだ赤鬼と青鬼が現われ彼の両脇を抱えた。そして、イメージ通りの閻魔大王の前に引き連れてきた。
「おお、来たか。駒込 章だな。お前の人生カルテを今読んでた所だ。これは、あれだな。お前が殺した女は悪魔と取り引きしている」
章には、現実感がなく夢の中の出来事に思えていた。
「どんな取り引きかというと、女の魂を悪魔に渡す代わりにお前を、苦しみながら生き続けるように願ったのだ。魂は悪魔の好物だ。魂を喰われた女は存在自体が無くなるのだ。たぶん女はそこまで聞いてないかも知れない。というか、お前が女を殺す所から悪魔の差し金かも知れんな」
章はただただ茫然とした。
「通常、この地獄ではお前のようなケースの場合、相手が心からお前を赦したら成仏できる。だが、これは無理だろうな。相手がいないんだから。可能性として考えられるのは、魂を喰った悪魔が代理になる事だが、これは考えにくい。悪魔は全くお前を気にしてないだろうから」
「私は永遠に地獄で暮らすのですか。私はそれで構いません。よろしくお願いします」「いや、違う。お前は生き地獄コースだ。刑を決めようがないからな」
「生き……地獄」「そうだ。また生まれ変わってもらう。ワシらもその方が助かる。最近、あの世、お前たちからするとこの世の人間どもが悪さをする事が多いせいか地獄が忙しくてたまらん」
「生まれ変わって私はどうなるんですか?」「同じだよ。苦しみ続けるんだ。ただ、今度は生まれた時から苦悩がついて回る」
「何とかなりませんか! 地獄に置いて下さい!」
「ワシの力ではどうにもならん。諦めるんだな」閻魔大王は席を立ち、最後のひと言を放った。
「それじゃ90年後にまた!」
(おわり)
ことわざ商店街
この商店街に入るには、石橋を叩いて渡らなければならない。
全長は、歩いても五十歩百歩である。必ず三歩歩いて二歩下がらなければならない。あ、これは諺じゃない。
精肉店のコロッケがあまりに美味しくて、食べた人のほっぺたが地面にぺたぺた落ちている。薬局では二階から目薬を差してくれる。宝飾時計
店では、真珠の首飾りをした豚がマスコットだ。定時になると鐘を鳴らす。時は鐘なり。これは間違い也。傘屋さんの店頭には、大きな石があ
り、溜めた雨滴を垂らしている。良くしたもので少し窪みができている。始めて三年になるらしい。桶屋さんという珍しいお店もあるが、風が
吹かないと儲からないらしい。餅は餅屋で売っている。
お寺もある。住職が馬の耳に向かって念仏を唱えている。内容的には「仏の顔も三度まで」という事らしい。製茶店では、ヘソで茶を沸かして
いる。眼科医院は、目から鱗を落とすのが得意らしい。ペットショップもあるのだが、猫はコタツで丸くなって出てこない。犬は喜んで庭をか
けまわっているが、疲れて歩くと棒に当たっている。
百聞は一見に如かず。ぜひ探してみて下さい。
【創作】ボクのじいちゃん
お題は「生」「ウイルス」「入道雲」。
今日はじいちゃんとネット電話をする日だった。準備して、誰もいないけどじいちゃんの部屋が写ったのを確認して、ちょっと席を外した。戻ってきてパソコンの画面を見て驚いた。じいちゃんの顔がパソコンの画面からはみ出さんばかりに大写しになっていたんだ。
「やめてよ、じいちゃん!ビックリするじゃん」
「ハッハッハッ、ごめんごめん。マサオ、元気にやってたか?」
じいちゃんは時々こんないたずらをするんだ。
「元気だよー。じいちゃんも元気そうだね。あ、昼間から呑んでる!」
じいちゃんはお酒が好きで、生ビールのサーバーまで買っている。左手にジョッキを掴んでまずゴクゴクおいしそうに呑んだ。
「今日のツマミは何なの?」
「おぉ。じいちゃんが学校の先生をやってた時の生徒がな、千葉で落花生農家をやっとるんじゃ。送ってくれた。本場の落花生はうまいぞう。今度そっちにも送ってやるよ」
ポテトチップスの袋よりひと回り大きいビニール袋をじいちゃんは嬉しそうに振った。
「そっちのお皿は何なの?」
「これは婆さんが生協で買った生ハムじゃ。ほれほれ」
「それもおいしそうだね」
「うんうん」グビグビ。
「マサオも来年は中学生じゃのう。そろそろ生えてきたか?」
「え?」
「あ、いやいやなんでもない。今年はコロナで大変だなぁ」グビグビ。ポリポリ。
「コロナって言えば、ウイルスって生き物じゃないんだね」
「おぉ、そうらしいの。無生物って言うらしい。なんでも、生物の条件に少しだけ合わないらしい」グビグビ。パクパク。
「よくわかんないや」
「まあ、その条件だって人間が決めたんだろうから、果たしてどんなものかのう」グビグビ。「婆さーん、ビールお代わり!」
「はあい」
「マサオたちは夏休みはあるんか?」
「うん。短いけどね。でも、自由研究とかはあるんだよ。夏休み過ぎてもオーケーらしいけど」
「ははは。マサオは理科が苦手だからな。おーい、婆さんお代わりは?」
「はいはい」
「まったく、生返事ばかりじゃな。そういや、マサオ、この間ネットで面白いもの見つけたぞ」ばあちゃんがお待ちかねのお代わりを持ってきた。
「あ、ばあちゃん、ひさしぶり」
「マサオくん、早くこっちに遊びに来れたらいいね」
「うん、皆も会いたがってたよ」
「はいはい、ばあさん、ちょっと後にしてくれ。マサオ、入道雲って知ってるだろ?」
「積乱雲ね」
「こらこら、子供の方が正式名称で言うてどうする。生意気なやつめ、わっはっは」グビグビ。ポリパク。
「入道雲がどうしたの?」
「それが作れるらしいんじゃ。『入道雲 作り方』で検索してみ」グビグビ。
「でも、どうせ作れないよ」
「おいおい、まだ見もしない内から決めつけるなよ。いいか、マサオ、世の中色んな人間がいる。入道雲を簡単に作れるやつもいれば、どうしていいかわからないやつもいる。でも、その差を縮める事はできるんじゃ」グビグビグビグビ。パクパクポリポリ。グビッ。
「どういうこと?」
「諦めるのは簡単、努力は大変。だから皆、諦める方を選びがちじゃ。でもな、実力不足の人間も、勉強したり、やってみて失敗したり、或いは他人の助けを借りれば達成できる事もあるんじゃ」グービグビ。
「お前の友達で科学に詳しい子がおったじゃろ。わしも話しした事ある」
「あぁ、一生くんね」
「うん、相談してみるのも一つの手じゃ。それとな、わしはこの歳になって思うんだが、悔いのない人生はあり得ない。それでも悔いを無くそうとする事はできるんじゃ。それはな、毎日の生活の中で色んな問題が起きるじゃろ。それに真摯に、えーと真面目に取り組む事じゃ。わかってもいないのにわかったようなふりをする、生半可な態度が一番いかん」ポリポリ。グビグビ。
「マサオも少しは英語を知っとるじゃろ。ライフという英語があるな。あれは人生と生活と命という意味に共通している」グビッ。
「つまり、人生と生活、毎日の暮らしは一緒なんじゃ。人生を充実させようと思ったら、生活を充実させなきゃならん。毎日の出来事に自分なりに考えてしっかりと対応しなけりゃいかんのじゃ。もちろん、楽しい気分で前向きにな」
じいちゃんの言ってる事はわかりにくかったが、ボクの為に一生懸命なのは伝わった。
「あー、今日は良い感じで酔っ払ったな。はっはっはっ。マサオ、今日は終わりにしよう。またメールしてくれ。わしゃちょっと寝る」
「うん、またね」
じいちゃんとの会話を終えて、ボクは早速入道雲の作り方を検索してみた。
用意する物。ガラスのコップ、冷えた水、冷えた牛乳、ストロー、ライターもしくはロウソク……手順を読んでYouTube動画も観た。意外と簡単そうだが上手くいくかどうかちょっと自信がない。でも、なんだかとても楽しい気分だ。よしっ! まずは一生くんに電話しよう。
ボクはドタバタと階段を駆け下りた。そこでふと気が付いた。あ、牛乳あるかな? ボクは勢いよく台所に向かう。
「お母さーん、今牛乳ってある?」
(終わり)
【創作】トライ・ア・リトル・テンダネス
お世話になっております『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話にチャレンジしてみました。お題は「トライ」「ねずみ」「〇活」。加えて「恋愛もの」という縛りがありました。リンクも貼っておきます。
http://www.w-dreamlibrary.com/corner114/pg1177.html
1967年12月10日、ひとりのソウル歌手が26歳の若さで亡くなった。オーティス・レディング。公演の地へ向かう途中、プロペラ機が湖に墜落する悲劇に見舞われたのだ。
ジョニー・ボウマンは、勤め先のレコード・ショップで客からそのニュースを聞いた。彼はオーティスに憧れ、オーティス同様にジョージアからメンフィスに歌手を目指してやってきていた。オーティスも所属していたジェット・レコード社から1枚シングルは出したものの、売り上げはサッパリ。プロデューサーのトミー・ジョーダンの厚意でジェット・レコードに併設するレコード・ショップで働き、次なる機会を待っていた。
トミーはユダヤ系の白人で、小柄で髪の毛が薄く歯も出ており、意地の悪い輩からはネズミ男と呼ばれている。だが、音楽創りの腕は確かでミュージシャンの信頼も厚い。トミーの助言でスターダムに上ったミュージシャンも多かった。ジョニーを切り捨てないのも彼なりの思惑があったからだ。
ジョニーがジェット・レコードのオーディションを受けた曲は、オーティスのシングルとして前年に発表され、亡くなる9ヶ月前のヨーロッパ・ライブでの熱唱も話題になった『トライ・ア・リトル・テンダネス』だった。オーティスの魅力は、アップテンポでの凄まじい熱気と、バラードでの切迫した哀切感だ。『トライ・ア・リトル・テンダネス』は双方の魅力を味わえる。静かだが心に食い込む立ち上がりから、徐々に盛り上がり疾走して終わる。ジョニーは、このソウル・ミュージックの髄を網羅したような曲を取り上げてチャレンジしただけに、思い通りの結果にならず悔しさが残った。
トミーが店に入ってきた。ジョニーはオーティスのヨーロッパ・ライブ盤をかけていた。一段と渋い顔をして「悲しいね」と一言呟いたトミーは、シングル盤のレコード箱を気のない様子でめくっていた。間もなくしてジョニーの恋人のメアリーが店に来た。オーティスの死を知って仕事帰りに寄ったのだ。
「あぁ、今日は早番だったね」ジョニーに少し元気が戻った。メアリーはハグすると、トミーにも微笑んだ。同郷のメアリーは、ジョニーの夢を支えたくてメンフィスについてきた。ジョニーが数多のレコード会社を訪ね挫折を重ねても、温かく勇気づけウェイトレスの職で生活を支え、不満な態度は微塵も見せなかった。彼がジェット社からシングル盤をリリースした時は、彼以上に号泣し、あらゆる知り合いに声をかけ喧伝した。
店内のアルバムはラスト曲の「トライ・ア・リトル・テンダネス」のピークに達していた。メアリーは何気なく終盤の熱い一節を歌い出した。ジョニーも即座にコーラスで合わせた。曲が終わると二人は満面の笑みで見つめ合った。
間を置いてトミーが尋ねた。「メアリー、歌の経験は?」
「ジョニーと同じ聖歌隊で歌ってたわよ。ジョニーは花形だったけど私は続かなかったわ。子供の時だけよ」
「いや、ちょっと歌ってみないか」トミーの真剣な表情にメアリーは即座に返答できなかった。
「いいねぇ。やってみなよ。一流ミュージシャンをバックに歌うなんて貴重な経験だよ」ジョニーの勧めにメアリーの心も動いた。「どうすればいいの?」
「なんなら今からでも。バンドは直ぐに用意できる」
「ジョニー、あなたは?」
「今日は俺一人だから店を出られないし、俺がいない方が伸び伸びできるよ。トミー、あとでテイクを聴かせてくれよ」
「オーケー、オーケー。さあ、行こう!」
こうして、スター歌手メアリー・ブラウンは誕生した。気負いのない温かい歌声、シャウトしても柔らかくしかも微妙にハスキーな声質は、トミーだけでなく多くのリスナーの心を捉えたのだ。もちろん、トミーは彼女の魅力を活かせるように最善を尽くした。売れっ子夫婦ライター・チームに、キャッチーな曲を創らせ、大手のパシフィック・レコード社に配給を依頼した。思惑通り、デビュー曲はチャート上位に食い込んだ。
メアリーは、環境の変化に戸惑ったがとにかく出来る事に集中しようと努力した。もちろん、ジョニーに対する申し訳ないような気持ちが常に心の底にあった。ジョニーのショックは計り知れないものがあった。表面的にはメアリーの成功を喜んでいたが、その笑顔には陰があった。目まぐるしく活動するメアリーには、彼の変化を感じ取る余裕までは無かった。
メアリーは、当初、単独のツアーは組めなかったが、ジェット社のミュージシャンを集めたパッケージ・ツアーには頻繁に参加していた。ある日、メアリーがツアーから戻ると、ジョニーがソファーの上で酔いつぶれていた。
「ジョニー、ジョニー、大丈夫?」
「あぁ、メアリー、すまん。今日は呑みすぎた」
「私のせい?」
ジョニーはしばらくの間、真顔でメアリーを見つめた。起き上がりソファーに座ると自分の気持ちを何とか伝えようとした。
「そうだな、メアリー。この際だから言うけど君に嫉妬しているよ。もちろん君を愛している……だから辛いんだ」
「私、辞めても良いわ」
ジョニーの口調が強まった。「何を言うんだ、メアリー! 君はもう前に進むしかない。それに、俺のせいで君を潰したくはない」
「うん、ありがとう。でも、ジョニー、嫌なことを言うかも知れないけど、私が歌の仕事で忙しくなったからと言って、あなたがくさる事は無いと思うの。あなたはあなたで頑張れば良いのよ」
メアリーは、ジョニーの再起を促したかったのだが、冷静さに欠けていたジョニーには、上から目線の発言に聞こえてしまった。彼は起き上がり、キッチンで水を一杯飲むと「フランクの所に行ってくるよ」とボソッと呟いた。
「ジョニー、怒ったの?」
「いや、そんなんじゃない。ただ、僕たち……ちょっと距離を置こうよ」
メアリーはその夜一睡もしなかったが、翌日はまたツアーに出発した。そして、一週間後帰ってきた時、書き置きさえ残さずジョニーはアパートを去っていた。メアリーもトミーも懸命にジョニーを探したが、行方は知れず、時は流れていった。
メアリーの初アルバムはグラミー賞を受賞、世界中に彼女の名は知れ、全米ツアーから世界ツアーへと一流歌手の階段を上っていった。しかし、ジェット社は75年に倒産。トミーはフリーの身となりメアリーの元を去った。メアリーはパシフィック社から専属契約の話を持ちかけられたが、ニューヨークに居住する条件だったので断った。住み慣れた土地を離れたくない気持ちもあったが、ジョニーとの再会を願う気持ちもあった。
メアリーは色々なレーベルを渡り歩きディスコブームも乗り切った。80年代に入ると電子音楽全盛となり、楽器は人が奏でるより器械にプロミラミングされるのが主流となった。ソウル・ミュージックはR&Bと名前を変え、オーティス・レディングのような歌手はレガシーとして語られる存在となった。元々シャウタータイプではないメアリーは、こういった時代もそれなりに乗り越え、2度目のグラミー賞を受賞した。
中年となったメアリーは、大御所的存在になった。レコーディングやツアーはセーブしたが大規模な音楽フェステイバルなどには必ずと言っていいほど呼ばれていた。
そんなある日、トミーから連絡がきた。
「ひさしぶりどころじゃないわね。あの日以来かしら?」
「やあ、連絡もせずに済まなかった。君の活躍は陰ながら喜んでいたよ。実はね、今僕はパシフィックにいるんだ。今度昔のソウル曲をカバーしたアルバムを作ろうという企画が持ち上がってね。是非君にお願いしようと思って。メアリー・ブラウン、復活のソウル!どうだい?」
「それは良いわね。やってみたいわ」
「バックは昔の仲間とはいかずジャズ系の連中になるけど、腕は間違いない」
「あなたのプロデュースなら安心だわ……ところでトミー、ジョニーについて何か知らない?」
「ジョニー・ボウマンだね。うん、その辺も会ってから話そう」
パシフィック社の応接室で再会したトミーは、かつてのネズミ男とはかけ離れ、豊かな髭を蓄えて哲学者のような風貌を見せていた。メアリーと同い年ぐらいの白人男性も同行していた。
「やあ、メアリー、よく来てくれた。彼はバンドリーダーのフレディー・アルトマンだ」
メアリーはフレディーに握手し、トミーにはいたずらっぽくウィンクした。
「呼んでくれてありがとう。さあ、どんな感じでやるの?」
「これが予定のセットリストだ。君に希望があれば考える」
目の前に置かれた用紙に目を遣る。有名曲が並ぶ中にトライ・ア・リトル・テンダネスも入っていた。メアリーは満足そうに頷いた。
「それと、これがミュージシャンのリストだ」
リーダーでピアノ、フレディー・アルトマン。ギター、ショーン・フレドリクス。ベース、ロジャー・ジョンソン。ドラム、オーティス・ホワイト……ジャズ系のミュージシャンには知己がおらず、メアリーは知らない名前をただただ眺めていたが、最後に動きが止まった。サックス、ジョニー・ボウマン。心臓が絞られるような感覚を覚えた。
「どういうこと? ジョニーなの?」
不安げなメアリーに、トミーは深く頷いた。「騙すつもりや驚かすつもりはなかった……ジョニーだよ」
フレディーが口を開く。「5、6年前になるかな。彼は我々がよく演奏するクラブで働いていた。歌ってはいなかったけどね。仲良くなり歌手を目指していた話とか聞く内に、楽器はやらないのかと聞いてみた。ピアノとサックスが少し出来るというので試したらサックスはまあまあ出来る。実はちょうどサックスが辞めた時期だったのでバンドに入れたんだ。彼は頑張ったよ。我々に溶け込むのにそう時間はかからなかった」
トミーが続ける。「私がパシフィックに誘われたのはつい最近で、音楽の現場に日参し、使えるミュージシャンはいないか探していた。ジョニーを見た時はとにかく驚いたね。彼は君には黙っていてくれと言ったけど、この企画を良い機会、いや、これを逃したらダメだと何とか説得し今日に至ったという訳だ」
メアリーは、ぼんやりと二人の話を聞きながら胸の鼓動を抑えようとゆっくりと深呼吸をしていた。
「呼んでも良いかい。まずは二人で話し合ったら良い。時間は気にするな」
二人が出て行ってまもなくジョニーが入ってきたが、メアリーにはとても長い時間のように感じた。不吉な胸騒ぎに似た落ち着かない心持ちは、彼が目の前に座ってもしばらく続いていた。
あまり老け込んではいないジョニーは、昔からそうだったがよりはにかむような笑顔を見せていた。「メアリー、連絡もせずに済まなかった。俺の事を今でも恨んでるかい?」
「ジョニー、あなたの事を一度も恨んだ事なんてないわ、本当よ。とにかくあなたが音楽をやっていて良かった。安心したわ」
「君も頑張ったね。凄いじゃないか」
メアリーにあの日のような笑顔が戻ってきた。「それにしてもジョニー、あの日、家を出て行ってから随分帰りが遅かったわね」
「ごめんごめん、道に迷っちゃって」
「よく言うわよ」二人は自然に笑い合い、しばらくの間昔の事から近況まで喋り続けた。
「さあ、そろそろジョニー・ボウマンのサックスを聴かせてちょうだい」
廊下を歩きながら、メアリーが尋ねた。
「ジョニー、あなた、ずっとニューヨークにいたの?」
「そうだよ」
「なんてこと……」
録音は『トライ・ア・リトル・テンダネス』から始まった。
ホーン隊が出だしを担い、メアリーの歌い出しをフレディーのピアノがフォローした後ジョニーのサックスが静かに漂い始めた。時を刻むようなドラムのリムショットが繋ぐ。メアリーの歌唱は徐々に熱を帯び、サックスはほぼ絶え間なく歌声に絡んでいった。クライマックスには情熱的なサックスソロが入り、メアリーの歌声も佳境を迎えて、全員の息が合いながら、曲は結ばれた。
コンソールルームのトミーは、目を赤く腫らしながら幸せそうに微笑んでいた。録音ブースでは、あの日のレコードショップのようにメアリーとジョニーが明るく笑い合っていた。
「リトル・テンダネス、ほんの少しの優しさか……復活したのはソウルだけじゃないな」
録音ブースにマイクを繋ぎ、勢いよく首尾を伝えた。
「オーケイ!」
(おわり)

【創作】ゴールライン
お世話になっている『週刊ドリームライブラリ』の三題話に応募。リンクの後全文掲載。
http://w-dreamlibrary.com/corner110/pg1073.html
定年退職した良作が、居酒屋「おかめ」に顔を出す頻度も増えた。カウンター席ばかりの小さな店で、気安く飲める。
その日店に入ると、一番奥の席に馴染みの顔があった。痩せて小柄で、髪も髭も伸び放題だが、善人を絵に描いたような笑顔。残り少ない歯も愛嬌である。今では珍しい南海ホークスの野球帽もトレードマークだ。星という名前しか知らないが、気が合う飲み友達と言える。
「おー、久しぶりですね」
「しばらく入院しとったんよ。やっと飲めるようになったわ。あんたが居りゃあせんかなぁと思って来てみた」
小一時間ほど楽しく過ごしたが、やはり本調子じゃないのか、星さんは先に帰った。その後、女将さんがニコニコして、「あの人、知り合いなの?」と聞いてきた。
「えっ!? 星さんだよ! ここで何回も飲んでるでしょ!」
「いやいや、何言ってんの! 私初めて見たよ、あの人」
女将の言葉で、良作は重大な思い違いに気がついた。この店ではなかった。しかも、ここ数年の話ではない。星さんと飲んでいたのは、社会人に成り立ての頃の転勤先、大阪での事だ。40年近い昔になる。さっきの星さんは、その頃の星さんと何ら変わっていない。そればかりか、こっちは変わっているのに、向こうは自然に接してきた……。
そもそも、星さんを見た瞬間気付きそうなものだが、全く違和感がなかった。そんな自分の意識も信じられない。急速に醒めていく酔いの中で、あの人は星さんじゃないんだ、よく似た違う人なんだと、自分を納得させようとするが、とても無理だった。食事も酒も喉を通らなくなり、店を出た。
夜道を歩きながら、考えたくないが浮かんでくる思いがあった……星さん、もう亡くなってる歳だよな。
次の日。あまり眠れはしなかったが、行動する事で昨夜の出来事を記憶の隅に追いやりたいのか、珍しく料理をし、洗濯や掃除もいつもより丁寧にやった。こんな時、独り身で良かったのか悪かったのか。放ってほしい気もするし、話し相手がほしい気もする。
とりあえず、外に出よう。本屋にでも行こう。
ややぼんやりしながら、街を歩いていると、5メートルほど先に、良作の出身高校の制服を着た女子生徒が歩いていた。だが、これもおかしい。制服は何年も前にモデルチェンジしており、最近では見かけなくなっていたのだ。似たような制服もあるだろうが、それ以前に、その後ろ姿には確かな見覚えがあった。
ちょうど、書店のあるビルの入り口で、彼女は立ち止まり振り返った。
「恭子!」良作の記憶通りの人物だった。高校の同級生だった恭子は、愛想が悪く他人の嫌がる事でもずけずけ言うので、クラス内では疎んじられていた。だが、良作とは音楽や映画の趣味が合い、良作自身キツイ事言われてもめげない性格なので、自然な友達付き合いをしていた。しかし、卒業間際に重い病気に罹り、帰らぬ人となっていた。
「きゃあ! 良ちゃん、老けちゃって! オヤジというよりジイさんだな」恭子の笑顔を目の前にし、恐怖心より懐かしさが先に立ち、思わず涙ぐんだ。
「恭子、お前どうしてたんだ」
「へっ? それ聞くの? 相変わらずズレてるね、良ちゃん」
気が付くと、恭子の背後で星さんが笑っていた。「ははは、感動のご対面じゃな。昨日は驚かしてすまんかった。アッチでも飲めるんだが、たまにはコッチで飲みたくなって」
星さんが言う「アッチ」「コッチ」の意味は、もう解っていた。しかし、この世に居ない、しかも繋がりが無いはずの二人が、なぜ続けて現れたのか? お盆の時期は、まだだいぶ先だ。いやそういう問題じゃないか……良作の頭はすっかり混乱していた。
しばらく思考停止状態でいると、書店から慎介が出て来た。大学時代のラグビー仲間で、5年ほど前にガンで亡くなっている。葬式の記憶も鮮明に残っていた。最後は痩せ細っていたが、目の前の慎介は、いかにもラグビーやってましたと言わんばかりの偉丈夫だった。どうやらあの世はある程度“修正”してくれるようだ。
「その節は世話になったな。いきなりでビックリしたろう。俺が説明してやるよ」
傍から見たら妙な取り合わせに見えただろう4人は、近くの喫茶店に入り、やがて慎介が話し始めた。
「おくりびとっているだろう? 俺たちはその逆で、お前を迎えに来たんだ。いや、迎えに来たというよりまずは知らせに来た。その後のフォローもするけどな」
「俺が、もうすぐ死ぬってわけか」
良作の言葉に慎介は重々しく頷くが、いつも冗談を言って笑わせていた旧友の仕草に、良作は、いずれはオチのある話のような気さえしていた。死者と会話を交わしているという異常な状況も、すんなりと受け入れられた。
「人間が死んで、天国に行くか地獄に行くかは、その人物の事をよく知る既に亡くなっている人たちの合議で決まるんだ。まぁ大抵は天国だが。安心しろ、お前もだ。俺たちはそのメンバーから選抜されてお前に逢いに来たんだ」
「俺はいつ死ぬんだ?」
「それは俺たちも知らない。亡くなり方もわからない」
良作は、自分でも意外に思うほど落ち着いていた。全く知らないヤツが「あなたはもうすぐ死にます」と言っているのとは違うのだ。
「こういう事前通告は、決まりじゃない。今回は俺が志願したんだ。俺はガンになった時、もちろんショックだったが、自分が近々死ぬという事で、悟りに近い感情が芽生えた。上手く言えないが、一生懸命生きようという気になったんだ。お前にもその感情を経験してほしい。良作、ゴールラインは目の前だ。最後に力一杯走り切って、トライを決めてほしい」
「それで、俺の人生ノーサイドか……」
慎介は優しく微笑んだ。
「ところで良ちゃん、なんで結婚しなかったの?」恭子が口を挟む。
「えっ? いや理由はないさ、ただ何となく」
「私が居なくなったから?」
「何でだよ!」
「まぁまぁまぁ。いずれにしろ、アッチに行ったら私が面倒見て上げるよ。普通は死ぬまで添い遂げるんだけど、死んでから添い遂げるってのもなかなかオツなもんかもよ!」
恭子の屈託のない笑顔を正面から見ていたら、急に恥ずかしくなり、目を逸らし俯いた。
「そうか。それじゃ恭子の世話になるか」
しんみりとした気分で顔を上げると、恭子は居なかった。慎介も星さんも消えていた。みんなが飲んでいたドリンク類も無い。バインダーに挟んで裏返してあるオーダー表には、良作が飲んだコーヒーしか書かれていなかった。
自分に起きた事が真実だという確信はあった。それからの数日間、何気ない日常が続くが、今まで味わった事のないような平穏な気持ちで日々を過ごした。周囲の風景が色鮮やかに見え、すれ違う人々は皆幸せそうだ。「おかめ」の女将の見慣れた横顔にも、彼女が懸命に生きて来た人生が透けて見えた。
なるほど、天国人口の方が圧倒的に多そうだ。「おかめ」の帰り道、そんな事を考えていると、夜空の一部が赤く染まっているのに気が付いた。その方向に走ると、一軒の家が燃えている。消防車はまだ来ていない。周囲に集まり始めた人々も、まだ行動が取れない状況だ。その家の主婦と思える女性が「リンちゃん、リンちゃん!」とおそらく子供の名前を連呼していた。すると、良作の脳裏に、2階の子供部屋の机の下に隠れている女の子の姿が浮かんだ。周囲が驚く中、ほとんど無意識に、良作は家に入って行った。炎に焼かれても不思議と熱さを感じず、煙も吸わなかった。2階に続く階段には炎は回っておらず、まるで躊躇っているかのように廊下で滞留していた。素早く上がり、すぐに、ぐったりはしているが無傷の女の子を抱き抱えた。階段へ向かおうとしたが、火は既に2階まで来ていた。良作は窓を開け、女の子を胸にしっかり抱き、背中から落ちていった。
身体が粉々になるような、味わった事のない衝撃を受け、意識が急速に薄れていった。ざわめきの中、「女の子は無事だ」とか「おい、気を付けて動かせ」などと聞こえていたが、やがてボリュームを絞るように、周囲の音が次第に小さくなっていった。
深い静寂の中、どれだけ時間が経ったのか、どこかへ向かっているのか、時間や空間の感覚が全く無かった。何となくだが、自分は人間としての実体を失い、意識だけの存在になったんだと思えたその時、
「おーい、良ちゃーん! 起きろー!」まるで、朝ごはんの支度が出来たとでも言うような、恭子の明るい呼び掛けが聞こえてきた。
(おわり)
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アンドロイド
「さて、ワトソン君!ウチのかみさんがよく言うんだが、私は頭脳は大人だが身体は子供だそうだ。しかし、灰色の脳細胞とじっちゃんの名に懸けて私は謎を解いた。○○さん、犯人はあなただ!以上、古畑任三郎でした」
「博士!この名探偵アンドロイド、盛り込み好きじゃないっスか?」
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【創作】恋人たちの年の暮れ
※本編は、投稿サイト『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話企画に応募したものです。お題は「神」「とり」「大統領」。更に「甘い話」という縛りもありました。
どうぞ、ご笑読ください。
http://www.w-dreamlibrary.com/corner71/pg888.html
「神様仏様、今年こそ当たりますように!」
テーブルの向かい側で拝む恵の姿は、もう何年も見ているが、今年は特に気合いが入っている。幸男の目にはそう映った。付き合い始めて6年、同棲生活は3年。結婚に踏み切れないのは、二人とも定着した仕事に就いておらず、先行きが不安だからだ。そういう時期こそ堅実さが必要なのだが、ついつい宝くじなんぞ買ってしまう。困った事にここは意見が一致する。
年末ジャンボ、今年最後の大勝負。大晦日まで仕事をした二人は、帰宅後二人で確認しようと決めていた。食事も風呂も済ませ、気持ちを落ち着かせて、厳粛な儀式に臨む。50枚の宝くじを番号が見えるようにテーブルに並べ、テレビで紅白歌合戦を放送している中、スマホから当選番号掲示のサイトにアクセスした。二人で念入りに確認。その20分あまりの時間が、幸福の時だったかも知れない。すぐに厳しい現実が訪れ、ため息混じりの二人を後ろ倒しにした。
「ダメだ~」「ダメね~」落胆のハーモニーが虚脱感を生み、紅白に戻したテレビ画面も全く頭に入らなかった。
「そうだ、トランプでもしよう!」
幸男が、背後にある小さな本棚の横からビニール袋を取り出した。書類のような紙切れのようなものが床に数枚落ちたが、幸男はよく見もせず本棚の横に戻した。
「ジャジャーン!」
恵は気乗りしないものの起き上がり、トランプを見た。あぁ、幸男が買いそうなヤツ。心の声に止めたが、よくトンチンカンな衝動買いをする幸男だった。トランプの表は、アメリカの次期大統領トランプ氏だ。右手を上げ、口を歪ませながら熱弁するお馴染みの姿。
「これ、トランプ大統領トランプって言うんだよ。ははは」
「まさか買ったんじゃないでしょうね」
「買わなきゃどうすんのよ!」
ダメだ、こりゃ。心の声に止めたが、コタツのテーブルにうっ伏し態度には出した。伝わらないだろうけど。
「ババ抜きやろう!」
「二人じゃダメでしょ」
「七並べ!」
「シチなんて、質屋連想するから止めて」
「神経衰弱!」
「今一番聞きたくない言葉」
やっと幸男にも恵の気持ちが伝わったようだ。しばしの沈黙の中、テレビ画面に目をやると、紅白もフィナーレを迎えていた。
「今年のトリは誰だったんだろう?てゆーか音が出てないじゃん」
「あ、ごめんごめん、リモコン踏んでた。なんか5人組の男が歌ってたなぁ」
「嵐?はちょっと前歌ってたよねぇ・・・ギャッ!キムタクがいるじゃん。中居くんも。SMAPが出たの!?オーマイガッ!!」
コタツのテーブルは思ったより痛かった。おでこをしたたかに打ちつけた恵は、おかげで現実に戻った。
「初詣に行こうかぁ」
「そうだね、行くか」
二人が身支度をしている時、幸男が座っていた場所に一枚の宝くじが落ちているのに恵が気付いた。むむむ、外れくじはきちんと片付けたはず。コートに片手を通したまま宝くじを拾い上げた。半信半疑でサイトを再チェック。
やがて、恵の動きが止まった。鈍感な幸男もさすがに異変に気付く。放心した表情の恵は、宝くじをヒラヒラさせながら、喉に張り付いた声で、
「いーーっせーんまーーん」
「えっ!?当たってんの!!」「イエス、ウィ・キャン!」
「それ、オバうぐっ」幸男の唇を唇で塞ぐ恵。幸男も連続攻撃で返す。そのまま二人は狭い部屋を右に左に転がり始めた。
チュチュチュ、ゴロンゴロンゴロン。チュチュチュ、ゴロンゴロンゴロン。
恵は幸男の肩越しに、クシャクシャになりかけた宝くじの皺を延ばし眺めていたが、やがて重要な事に気が付いた。
わっ!これ、去年のだ!
チュ、ゴロン。チュ、ゴロン。
まぁ、いいか。もうちょっと夢見とこっ。
チュチュチュ、ゴロンゴロンゴロンゴロン。チュチュチュ、ゴロンゴロンゴロン・・・。
(おわり)
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【創作】だれが一番?
※お世話になっております文章投稿サイト『週刊ドリームライブラリ』さんの三題話に募集しました。 お題は「なす」「ゆかた」「選挙」の三つ。更に今回は「怖い話」という縛りもありました。 毎回考えるのですが、中々完成に至らず。今回は編集長さんのアドバイスも頂きどうにか書き上げました。... 宜しければ読んでみて下さい。
国民的アイドルグループABC48の人気度を競う総選挙の時期がやってきた。今回の選挙で一位を取った娘は、新曲「浴衣でアモーレ!」のセンターを務めるという、毎年恒例の趣向である。
だが、今年は妙な「都市伝説」が流れていた。ライブやテレビ番組を観たファンから、メンバーが一人多いんじゃないかとの声が上がっているのだ。ネット上で広まった画像には、確かに49人映っている。しかし、問題のメンバーの顔まで確定出来ないのだ。正規のメンバーも、心当たりはないと言う。
結局、若干失速気味の人気を回復させる為の話題作りだろうと落ち着いた。総合プロデューサーの安元昭男が企てそうな事でもある。
ついに、総選挙当日。某テレビ局は人気司会者を登用し、完全独占生中継という気合いの入れようだ。新曲に合わせ、メンバーは色とりどりの浴衣姿で客席最前列に勢揃いし、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。安元も同じ列に並んでいた。元々表情が豊かな人間ではないが、緊張しているのか、やけに無表情に見えた。
ステージ中央には演壇がセッティングされ、鮮やかな花々が背景に設えてあった。その背後に大型スクリーンがあり、喜びの表情を大写しにする。ニコニコ動画風のファンのコメントも画面に流れていく手筈だ。
司会者席は斜め後ろに下がった所。盛り上げるポイントになると、中央まで出てくる予定だ。客席の安元からはほぼ対角線の位置になる。発表は、21位から48位までを紹介する形でスタートした。ご丁寧に一人一人名前の書かれた封筒をアシスタントの女性が持って来て司会者がおもむろに開けて読み上げるパターンだ。司会者もアシスタントも浴衣姿という徹底ぶりだ。会場が徐々に盛り上がってきた中、48位まで終わり、いよいよベスト20となった時、アシスタントがもう一通持って来た。「早いよ~」と司会者がミスを笑いに変えようとした所、封筒の表が見えた。
49位。アシスタントの女性はにこやかな表情のまま。
司会者は安元を見た。相変わらず無表情で、少しも動かない。
おいおい、無視するのかよ。俺に断りもなく何か企んでやがるな、よし、乗ってやろうじゃないか。
司会者は、高々と封筒を掲げ、「おーっと皆さん驚きです!49位の封筒があります!どういう事でしょうかね~。新人さんのお披露目かな?」
司会者はニコニコしながら中を見たが、強ばり気味の顔付きでメンバーが並ぶ客席前列を右から左へと眺めた。
「えぇと、宮沢めろんちゃん・・・」
在籍しているメンバーだった。めろんちゃんは毎年最下位を争っている。ところが今年は最後まで名前を呼ばれず、嬉々として待っていたのに、まさかの49位。彼女は一度立ち上がったものの直ぐに失神した。
めろんちゃんが担架で搬送された後、会場の雰囲気は一挙に曇った。司会者は人騒がせな演出にムカムカしながらも、進行に集中した。だが、メンバー達は呆然としたままだ。残り20位を19人で争う・・・あるメンバーは人数を何度も数えていたが、やがて頭を抱えた。それでもプロ意識のある娘たちで、呼ばれる度に壇上に上がりコメントは試みた。しかし、途中でこけたり、笑顔がひきつったり意味不明の言動も出てきて散々である。大画面のコメントも不安を煽るようなものが徐々に増えていった。そしてある時から全くコメントは流れなくなった。
常に一位争いをしている篠原りのと田辺るるは、二人抱き合って青ざめている。
3位、田辺るる。
るるは一人で動けず、りのが付き添うような形で二人してステージに上がった。「次、私でしょ私でしょ」りのは一刻も早く終わらせたかった。「ちょうだいちょうだいちょうだい」るるを抱き締めながら、司会者に手を伸ばした。彼もさすがに怒りを抑える事が出来なくなった。2位の封筒の中を見て、名前も呼ばずりのに渡した。「落とし前つけてやる。休んでなさい」
彼は安元の前へ行き、「一体どういう事だ!説明してくれ!」と意気込んだ。だが、安元は反応なし。まるで、そう、まるで、魂が抜けているようにさえ見えた。
仁王立ちの司会者の元に、アシスタントが何事もなかったかのように封筒を持って来た。当然の如く「1位」と書かれている。憮然としてアシスタントを睨むが、この娘には関係ない事だと冷静さを取り戻し、司会者は舞台中央のテーブルで名前を読み上げた。
「那須・・・那須清美さん」司会者はその名を知らなかったが、メンバーは全員表情が固まった。彼は封筒をテーブルに叩きつけ、司会者の位置に戻った。
やがて、ふらふらしながら、安元が舞台に上がってきた。那須清美とは、あるメンバーが病気療養を理由に脱退話が出た時、ABCへの加入が約束された娘である。「なす美」という愛称まで決まっていた。結局メンバーは戻りご破算になった。清美は納得いかず、ABCでなくてもアイドルとしてデビューさせるよう安元に訴えた。だが、安元は逆に彼女を威嚇し、セクハラまがいの行動にまで出た。全メンバーにはシカトするよう命令し、従わなければメンバー交代どころか、まともに世間を歩けなくしてやると脅した。清美は失意の中、自ら命を絶った。この話は全く表に出ていない。
壇上の安元が口を開いた。呻き声のようなか細い声で、「これで・・・終わり」。途端に大型スクリーンに例の49人のネット画像が流れ始めた。しかし今回の映像は顔が分からなかった娘にズームアップしていく。やがて、満面に笑みを湛えたなす美の顔が大写しになると、メンバーから異常な叫び声が次々と上がった。安元はテーブルにうっ伏している。
なす美の顔を見て、司会者も声を上げた。思わず脇を見ると、少し離れた所にアシスタントの女性が神妙な顔をして立っていた。
「キミ・・・」もう一度画面を見たが間違いない。同じ人物だ。なす美は縋るような眼差しで厚みのある封筒を司会者に手渡した。わずかに触れた手がとても冷たかった。「これを、どうかお願いします」。彼女は二、三歩下がり深々とお辞儀をした。そのままの姿勢で輪郭がぼやけ始め、やがて靄のように消え去った。中央の画面も同時に暗くなった。
会場が騒然とする中、司会者だけが違う空間にいるようだった。最後のなす美の表情を思うと、恐怖や驚きよりも悲しみの感情が込み上げてきた。彼は、表に何も書かれてない封筒をしばし見詰め、一度深呼吸し、真実が綴られている便箋を中から取り出した。
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