レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.91(2)
[100枚目]●V.A.『HALL OF FAME』<KENT SOUL>(12)
13. TELL DADDY ・ CLARENCE CARTER
66年、<フェイム>から出した最初のシングル曲の未発表ヴァージョンである。67年にはエタ・ジェイムスに「Tell Mama」のタイトルで提供された。本家はR&Bチャート35位だが、エタの方はビルボードチャートで23位、R&Bチャートで10位の成績を上げている。リリースされた方は、ダイナミックなホーンセクションや、爽快なドラムプレイが目立つ曲だが、本ヴァージョンはドラムとオルガンで基調を作る中、カーターにしては単調な歌い方である。
14. YOU REALLY KNOW HOW TO HURT A GUY ・ RALPH "SOUL" JACKSON
スプーナー・オールダム=ダン・ペン作品。ジミー・ヒューズ65年のシングル盤でもある。ラルフは67年に<ベル>系列の<エイミー>からカントリー・ソングの「Jambalaya」とダンス曲の「Don't Tear Yourself Down」のカップリングでデビュー。リック・ホールが絡んでおり"ソウル"の称号もリックが与えた。69年にはスプーナー・オールダムのプロデュースで、クリームの「Sunshine Of Your Love」をリリースしている。本曲は、良い感じに肩の力が抜けている。
15. STEAL AWAY '67 (Pt 1) ・ JIMMY HUGHES
代表作3年ぶりの録音。オリジナルはテッド・テイラーばりの高音が冴えわたる。本ヴァージョンは終始ゆったりと展開する。やや声が枯れているのも気にはなるが、後半は懸命に歌い切っている。
ジミー・ヒューズ62年のデビュー時にリリースし、残念ながら成功に終わらなかった一曲。ジミー版は<ガイデン>で、クレイ版は<コティリオン>から出ている(70年)録音は68年のセッションとライナーにある。ジミー・ヒューズのオリジナルに比べたら、クレイのドライブ感はさすがである。
17. IN THE HEAT OF LOVE ・ MARJORIE INGRAM
69年ニューヨークの<ベネット>からシングル「I Have No Right To Love You/A Good Man Is Hard To Find」をリリースしている。録音はテネシー州で、ダン・グリアーがライターとプロデューサーである。特徴的な歌い方をする女性だが、ややパンチに欠ける。
18. LOVE CHANGES A MAN ・ UNKNOWN MALE
正体不明のシンガー。歌い方から白人ではないかとライナーにはある。曲は悪くないが盛り上がりは今ひとつ。
19. TOO WEAK TO FIGHT ・ CLARENCE CARTER
シングルは68年発売。69年のアルバム『The Dynamic Clarence Carter』にも所収。本曲は別ヴァージョン。「13. Tell Daddy」と同じく発表されたヴァージョンの方がサウンドの完成度は高く、カーターの歌い口も滑らかだ。本ヴァージョンでは、やや力が入り過ぎの感もあるが、しかしこれはこれで味がある。
20. YOUR HELPING HAND ・ OTIS CLAY
70年<コティリオン>用に録音されたが未発表に終わっている曲。67年から<フェイム>で働くミッキー・バッキンス作。重心の低いサウンドの中、ディープな歌唱を聴かせる。
21. TWO BIG LEGS AND AND A SHORT RED DRESS ・ O.B. McCLINTON
黒人のカントリー歌手だが、ジェイムズ・カー「You've Got My Mind Messed Up」「A Man Needs A Woman」の作者でもある。喋り口調のような歌い方で、ユーモアにあふれている。演奏は一段とタイトだ。
22. BABY COME BACK ・ BOBBY MOORE & THE RHYTHM ACES
「Searching For My Love」のヒットを持つグループ。<フェイム>録音で<チェッカー>発である。ビルボードチャートの27位、R&Bチャートでは7位の成績を収めている。お蔵入りの本曲だが、ライナーによれば、イントロ部分に修復不可能なダメージがあるとの事だ。勢いのあるコーラスが爽やかだ。ボビー・ムーアのサックスも効果的な彩りとなっている。
23. LET'S DO IT OVER ・ TRAVIS WAMMACK
スプーナー・オールダム=ダン・ペン作品。ジョー・サイモン、ザ・デルズ、トゥーサン・マッコール、L.C.クックも取り上げている。47年ミシシッピ州ウォルナット生まれのトラヴィスは、11歳で曲を書き音楽キャリアをスタートさせている。16歳(63年)の時に「Scratchy」でチャート1位を獲得。また、ファズトーンの開発者でもある。<フェイム>に関係したのは69年頃で、72年には自身の名前をタイトルにしたアルバムを発表している。現在も音楽活動を続けているようだ。ソウルフルとは言い難いが、味わいのあるヴォーカルだ。
ピアノをバックにしたデモ録音風。
こういった作品集は、例えばクラレンス・カーターの2作品のように、リリースしているヴァージョンに比べると“完成度”では劣るかも知れない。ただ、ソウル・ミュージックにおいては何をもって“完成”と判断するか難しい部分がある。世に出ていない曲も、ソウルフルなのは間違いないのである。ソウル・ムードを作り上げている大きな要因は、やはり演奏陣であろう。必ずしもソウルフルな歌唱と言えない作品も一定のレベルに達し、例えばオーティス・クレイのようなレジェンド級のソウル・シンガーと組み合わされた場合は、大変な摩擦熱が発生するのである。
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